誰が為の勝利の渇望

 さあ始めましょう かつて昔に味わった灼熱の敗北をもう一度 いいえ次こそは勝利へと渇望するの 


 それは余りにも凶悪で凶暴で瞑っていた瞼さえ開かせてしまうとてつもない光


 でも私達は変わった 最新鋭の武器と変わらない愚かさで対峙することになった


 振り向けば服はボロボロ されど戦意は高揚 まるで火の玉のように皆が一億の火球となって白い砂浜の中心でそれを待ちかねている。


 ただ欲するのは勝利 砕かれた腰とプライド 砂上の上でもういちど作り上げよう


 ただ欲するのは勝利 無残に死んだ同胞を代弁する彼方からの声にいま応えよう



 なくした何かを取り戻せと天から声がする。


 それは誰? 問いかける暇もなく彼らは私達を急き立てていく 一番後ろからそれはそうなるべきが正しいのだと まるで大意であるようにわめきたてる


 後ろから立ち上る朝日 私達を照らす神のような光と掟が空気によって周りを包み込む


 それが合図 私達を戦いへと誘い込む雄たけびが聞こえる 


 ただ欲するのは勝利 自分達が美しく強いと確信させるための儀式へ


 ただ欲するのは勝利 私達こそが世界で最高なのだとあの人たちが命令する


 


 戦う前から疲れ果てて もう頭は回らない 身体が重い 瞳を誰かが閉ざしていく

 

 それでも後ろから聞こえてくる 誰かの声  


 戦え 戦え 守れ 守れ と皮肉なまでに元気な声が脳内を埋め尽くす


 何のために? 疑問の鎖から解き放たれて私達は走り出す


 勝利へ 勝利へ 輝かしい明日のために 夜明けを迎えるために 


 戦え 戦え 守るために 皆を 心を 文化を 


 がなりたてる声だけが力強く 弱った私達を鼓舞し続けていく 


 でも もう走れない 途端に大きな疑問が私を支配する


 何のために? 誰のために? 思うと 身体に痛みが走る。


 撃たれたことを確信し、泥でぬかるんだ地面へと倒れこむ


 それでも求める勝利へ 求める勝利へ 鼓舞する声だけが私を包み込む


 最後まで瞳は開くこともなく 私という存在は終わりを告げていく

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