第17話 細長い、あの影

 細く、妙に長い手足。

 顔など判別がつかない。


 いや。

 そもそもあれは。

 顔が、あるのか。


 そんな単純な疑問さえ心に浮かぶ。

 清彦きよひこが半身になり、長杖を構える。右手は後ろに、左手は前の構えだ。先端をまるで誘うように揺する。


 対する細長い人影も。

 木刀ほどの長さの棒を構え、清彦に相対した。


「俺が合図したら、御旅所おたびしょに駆け込んで下さい!」

 清彦が突如そんなことを言う。神輿の担ぎ手達や、道具持ちのおじさん達が私を見るので、慌てて首を縦に振った。


「お願いします……っ‼」

 そう言うと、次々と後ろに指示が伝言された。


 私は清彦に視線を戻す。


 一太刀目は、影からの攻撃だった。

 大きく振りかぶり、まっすぐに清彦の頭に向かって棒が振り下ろされる。「あっ」と声が漏れたが、清彦は二歩下がることでそれを躱し、同時に長杖の先端を影の頭に打ち付けた。


 ふわり、と。

 影はあっけなく右に半歩避けてその一打を防ぐと、すぐに清彦に飛びかかる。


 清彦は即座に振り上げた長杖の先端で影の接近を防ぐと、左右を持ち替えて素早く突きを放った。


 影が。

 一瞬散り、薄くなる。


 清彦の長杖の切っ先が当たったからだろう。粉末のように「黒」が散るが、それは直ぐに集結し、人形に戻る。だが清彦は隙を与えない。長杖を持ち上げ、斜め上から振り下ろす。影は棒をまっすぐに上に立て、防戦一方のように見えた。


 これは。

 すぐにでも、権現に神輿を持ち込めるのでは無いか。


 誰もがそう思った。

 その時だ。


「ハナタカさんっ!」

 神輿の担ぎ手から悲鳴が上がり、私は反射的に振り返る。


 じゃらら、と神輿の飾り金具が鳴る音がし、「わわわわわっ」と悲鳴にすらならない声が担ぎ手から上がった。


 細長い。

 あの影が。


 枯れ枝のような腕を伸ばし、神輿の御簾を持ち上げようとしていた。

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