第14話 和奏のことは俺が守ってやる
「
私は胸の前で木刀を握りしめた。多少声が震えたが、咳払いをして誤魔化す。
「近づく何かを振り払って、とにかく
今度はしっかりとした声が出た。
私にとって環は今でも妹のようなものだ。自分が協力することで彼女を守れるのなら力ぐらい貸す。「わかった」。私が頷くと、清彦は安堵したようにわずかに肩の力を抜いた。だけど、目力強く私を見つめはっきりと断言する。
「大丈夫だ。
清彦の必死な言葉に、私は緊張しながらも吹き出した。
「あんたになんか守って貰わなくて結構よ」
私の態度に、いつもの高反発な態度で臨んでくるかと思ったけれど、苦笑いして頷いただけだった。
「清彦はこれを使うんだろう?」
私達に背を向けていた
いつもの。
あの、ハナタカが持つ長い棒だ。清彦は私から腕を放し、素直にそれを受け取る。
「あと、ほら」
明彦さんは長杖の握りを確かめている清彦の首に、天狗の面をかける。
ハナタカの時、天狗の面を渡されるけれど、被るわけじゃない。首の後ろに面が来るように面紐を結わえ、首からかけるのだ。
ハナタカが前を向いているとき、天狗の面は後ろを向いている形になる。
「
明彦さんは清彦にそう言うと、深々と頭を下げた。「はい」と清彦は短く応じるのを聞くと、明彦さんはゆっくりと上半身を起こした。次に私を見る。どきりと私は肩を跳ね上げて木刀を握った。
「
明彦さんは私の目を見てそう言うと、再度深々と頭を下げる。
アメノ……。あめの、なんて……?
戸惑って隣の清彦を見ると、口だけ動かして「はいといえ」と言っている。目の前では明彦さんが頭を下げたままの姿勢で固まっていた。「は、はい」。急いでいたせいか素っ頓狂な声が出たが、明彦さんも清彦も笑いもしなかった。
「これで、俺達に神が降りた。あとは心配するな」
清彦が私に言う。私は戸惑ったものの曖昧に頷く。
顔を起こした明彦さんはそんな私を見て、少し微笑んだ。
「鈴、外れかかってる」
そう言って指を伸ばして私の髪に触れる。
途端に。
ぐい、と左側にひっぱられ、私は体勢を崩した。「うわっ」と声を上げてしがみつくと、どうやら清彦の腕だったらしい。ごめんと言おうと思ったら。
なんだ、こいつに引っ張られて私は体勢を崩したんじゃん、とむっと睨み上げる。
だけど。
その私よりも不機嫌そうな顔で清彦は、明彦さんを睨んでいた。
「俺が直す」
「……は?」
ぼそっと。だけど断言する清彦に思わず聞き返した。いや、あんたできるの? ってか、私自分でしますけど。
そう思ったのだけど、清彦は私に向き直ると、私の耳元に指を伸ばす。
右のツインテにつけた鈴が緩んでいたらしい。
真面目な顔で一生懸命結び直しているのは分かるのだけど、とにかく不器用だ。
もそもそと指が動き、ときどき耳に触れるから、くすぐったくって首を竦める。そのたびに「ごめん」と清彦が慌てたように言い、薄暗くてよく見えないからか目を細めて顔を近づけてくる。
「うう」。思わず呻くその声に笑い出したくなるのだけど、本人は真剣だし、と口を真一文字に引き結んで耐えているのに、明彦さんは構わず大笑いしていてずるい。
「できた……」
顔を近づけているから言葉と同時に呼気が耳朶に触れて、私は体を震わせる。同時に目が清彦と合って、その距離の近さにお互い慌てて飛び退いた。
ちりん。私の耳元で鈴が鳴り、どきりと心臓が拍動する。
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