第11話 ついておいで
「
顔を起こすと首を傾げて尋ねられ、私は狛犬を指さす。
「神事が始まります! 部外者は境内から出て下さい! ハナタカはこちらに!」
明彦さんのその大声は、伝言ゲームのように周囲の大人に伝播した。
「神事だ!」「部外者は鳥居の外に!」
役員だけでなく、高張り提灯を持った隣保当番までもが大声で呼ばわった。
慌てたように私と同い年ぐらいの子や、男衆に付き添っていた女性達が境内から鳥居の方に向かって走って行くのが見える。
そして。
狛犬の前にいた狩衣姿の清彦がようやく私に気づいた。
私のような袴ではなく、向こうは狩袴らしい。やっぱりあっちの衣装の方がなんだか動きやすそうだなぁ。そんな風に眺めていたら、隣で小さく吹き出す音が聞こえ、明彦さんを見上げた。
「いや、ごめん」
明彦さんは丸めた拳で口元を隠し、清彦の方を指さす。
「あいつ、ぽーっと
「ん?」
言われて明彦さんの指先をたどると、ぽかんと口を開いた清彦の馬鹿面があった。折角の男前が台無しなその顔に、私も思わず吹き出す。途端に清彦は我に返り、怒ったような顔で大股にわたし達に近づいてきた。
「何よ」
勢いよく近づくものだから、私は若干身構えながら清彦をにらみつける。
「お前こそ何だよ。見んなよ」
ぶっきらぼうに言われて、私は感じたままを伝えた。
「ぼけっと口開いて立ってるから、馬鹿面だな、と思って」
途端に笑い出したのは明彦さんだった。冠を揺らしながら笑い、私の肩をぽんぽんと叩く。
「清彦は和奏ちゃんに見惚れてたんだから、そんなこと言わないでやって」
「はぁ⁉ 見てないしっ!」
明彦さんの語尾を食い気味に清彦が怒鳴り、その勢いに私はびっくりして上半身を揺らす。同時にちりりと髪につけた鈴が鳴った。
「後で二人の写真をスマホで撮ってやる。お兄ちゃんに感謝しろよ」
明彦さんは全く動じずに真っ赤な顔の清彦に言い、私に顔を向けた。
「ついておいで」
言うなり、さっさと歩き始める。私は頷き、戸惑いながら清彦に顔を向けた。
「行くぞ」
清彦は私の方なんか見ずに、ぶっきらぼうにそう言って明彦さんの背を追った。私は慌ててそれについて歩きながら、ふと背後を振り返る。
「神事は良いの?」
境内では、自治会ごとに高張り提灯が並び直し、お道具が倉庫から出され始めている。さっき明彦さんは『神事が始まる』と言っていたが、私達は参加しなくても良いのだろうか。
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