祭りの夜 境内
第10話 こんばんは、ハナタカさん
□□□□
祭り当日の夜。
かしゃり、とスマホのシャッター音が響く。
同時にフラッシュが明滅し、一瞬だけ境内の薄闇を駆逐した。
私が目を閉じて光の残像を追いやっている間に、「ありがとね」と、知らないおじさんが肩を叩く。私はゆっくりと目を開き、あいまいに笑って頷いた。
もう、さっきからこうやって『写真撮らせて』という人にスマホで写真を撮られまくっている。
私が可愛いとかそんなんじゃない。
そんなの私が一番わかっている。
私の。
この格好が珍しいのだ。
私は本殿の方に向かいながら自分の格好を見下ろした。
牛若丸が着ているような着物を着せられている。
指定された時間に社務所に行くと、手伝いのおばさん達が私に着付けてくれたのは、水干と呼ばれる着物だった。ハナタカの時は狩衣姿で、色も生地も地味で……。
それも『嫌』の理由だったけど、この水干は胸の真ん中に菊綴というぼんぼりみたいなのがついていて、ちょっと可愛い。着付けてくれたおばさん達も、「あら可愛い」「烏帽子をつけたら白拍子みたいね」と褒めてくれた。
不意に遠くからもかしゃり、とシャッター音が聞こえて顔を向けると、
目が合うと、「ごめん。撮った」と言われたので笑顔で会釈する。言ってくれるならいいのだけど、さっきから勝手に撮られてなんだか気持ちが悪い。コスプレみたいにみえるらしい。
踏み出すたびに、ぎゅっぎゅっと足の裏で草鞋が鳴った。厚みが無いから歩くと痛いかなと思ったが、気になるほどでは無い。鼻緒のところも布を巻いてくれているから皮がむけることはなさそうだ。
高張り提灯を持ったおじさんたちの間を縫うように歩くと、すれ違いざまに「こんばんは、ハナタカさん。今日はよろしく」と声をかけられる。「こんばんは」と私も返し、頭を下げた。
小学生の時もそういえばこんなだったな、と思い出す。
皆に声をかけられ、頑張れよと励まされた。
大変だったことばっかり記憶に残ってしまっていたが、こうやってたくさんの大人に声をかけられ、目も配られていたんだな、と気づいた。
境内中央の石畳のところに出て首を左右に巡らせる。
ツインテにした髪に付けられた小さな鈴がちりりと鳴った。
それに合わせてまたシャッター音が聞こえたが、もう煩わしくて無視をする。
清彦はどこだろう。
境内にある照明は高張り提灯だけだ。そのせいで随分と暗い。そりゃそうだ。もう二十時を回っている。目を凝らし、首を巡らせると、約束通り狛犬の台座前に清彦は立っていた。
あちらは小学生時代に着たハナタカの衣装のとおり、狩衣姿だ。濃紺の狩衣に、水色の着物を着ている。袖の紐は袖口で絞って動きやすくしているようで、「……あれいいな」と呟いて自分の袖を眺める。私もそうしようかな。
そう思っていた矢先、「
顔を起こすと、すぐ側には冠に袍と袴を着た明彦さんが立っていた。目が合うとにこりと笑いかけられ、私も笑顔で「こんばんは、
ちりり、と耳元で鈴が鳴る。
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