第9話 巻き込んでごめん
「お道具役から言う」
自治会長が言った途端、
「お道具役は
なるほど、注釈を入れてくれるらしい。黙って私は頷いた。
「
呪文のような言葉が続いたけど、清彦が「こんなやつ」と説明をしてくれるから脳内でビジュアル化された。ああ、あれかとコクコクと首を縦に振る。
「以上。これでどうだ?」
自治会長が一同を見回す。「異議なし」。上座の自治会長達が口々に言い、参加者のおじいちゃん達が「応」と答える。
「そして、お宮待機は
自治会長の声に、明彦さんが「はい」と明快な返事をする。周囲のおじさん達が、「今年役場に入ったらしい」「跡取り確定だな」と小声で話していた。
「
幾分優しい声音で自治会長は言い、「はい」と環ちゃんが返事したら会場がいっきに和んだ。かわいい。声もかわいいよ、環ちゃん。
「そして、ハナタカは
自治会長はそこでちらりと用紙に視線を落とし、それから言った。「
一斉に会場の視線が後ろを向くから私は体を竦めた。咄嗟に手に持っていた用紙で顔の半分を隠し、目だけのぞかせていると、隣で清彦が大声で言う。
「よろしくお願いします」
慌てて私も顔を出し、「よろしくお願いします」と座ったまま頭を下げた。
「四年前のハナタカさん同士だ」
自治会長が付け加えると、皆は口々に「ああ」と声を上げて元の姿勢に戻りはじめてほっとした。
「あの年は豊作だったな」「良い巡り合わせだ」「清彦君が立候補して、和奏ちゃんを指名したらしい」。
そんな言葉が聞こえて、耳を疑う。
うん⁉ 清彦が立候補で、私がヤツの指名⁉
聞き捨てならん、と隣を睨むと。
「俺だって……お前と一緒にハナタカなんて、やりたくなかった」
絞り出すように、さっきと同じ言葉を繰り返す。
だけど、今度はすばやく、言葉を継いだ。
「やらせたくはなかった」
はっきりと、清彦はそう言った。
……やらせたく、なかった……?
意味が解らず戸惑う。
だって指名したのは清彦なんでしょうに。
「巻き込んでごめん」
それだけ言うと、私なんか見ずに、ただ俯いて用紙を眺めていた。
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