第9話 巻き込んでごめん

「お道具役から言う」


 自治会長が言った途端、清彦きよひこがずい、と私の直ぐ側にいざってきた。驚いて顔を向けると、素早く私に耳打ちする。


「お道具役は神輿みこしの後をついて歩く人間だ。各種神具を持って歩く」


 なるほど、注釈を入れてくれるらしい。黙って私は頷いた。


神餞しんせん二名、のぼり二名、社名旗しゃめいき一名、錦旗にしきばた二名。ここまでは、沖原おきはらでお願いする。続いて、飾り弓矢二名、盾二名、鳥毛二名、熊毛二名。こちらは田藤たふじで。太鼓六名は常口つねぐち金幣きんぺい四名と金幣台きんぺいだい二名は吉方きっぽうで」


 呪文のような言葉が続いたけど、清彦が「こんなやつ」と説明をしてくれるから脳内でビジュアル化された。ああ、あれかとコクコクと首を縦に振る。


「以上。これでどうだ?」


 自治会長が一同を見回す。「異議なし」。上座の自治会長達が口々に言い、参加者のおじいちゃん達が「応」と答える。


「そして、お宮待機は権宮司ごんぐうじ明彦あきひこ君」


 自治会長の声に、明彦さんが「はい」と明快な返事をする。周囲のおじさん達が、「今年役場に入ったらしい」「跡取り確定だな」と小声で話していた。


依代よりしろたまきちゃん」


 幾分優しい声音で自治会長は言い、「はい」と環ちゃんが返事したら会場がいっきに和んだ。かわいい。声もかわいいよ、環ちゃん。


「そして、ハナタカは清彦きよひこ君と」


 自治会長はそこでちらりと用紙に視線を落とし、それから言った。「花丸和奏はなまるわかなさん」と。


 一斉に会場の視線が後ろを向くから私は体を竦めた。咄嗟に手に持っていた用紙で顔の半分を隠し、目だけのぞかせていると、隣で清彦が大声で言う。


「よろしくお願いします」

 慌てて私も顔を出し、「よろしくお願いします」と座ったまま頭を下げた。


「四年前のハナタカさん同士だ」


 自治会長が付け加えると、皆は口々に「ああ」と声を上げて元の姿勢に戻りはじめてほっとした。


「あの年は豊作だったな」「良い巡り合わせだ」「清彦君が立候補して、和奏ちゃんを指名したらしい」。


 そんな言葉が聞こえて、耳を疑う。

 うん⁉ 清彦が立候補で、私がヤツの指名⁉

 聞き捨てならん、と隣を睨むと。


「俺だって……お前と一緒にハナタカなんて、やりたくなかった」


 絞り出すように、さっきと同じ言葉を繰り返す。


 だけど、今度はすばやく、言葉を継いだ。


「やらせたくはなかった」


 はっきりと、清彦はそう言った。


 ……やらせたく、なかった……?


 意味が解らず戸惑う。

 だって指名したのは清彦なんでしょうに。


「巻き込んでごめん」

 それだけ言うと、私なんか見ずに、ただ俯いて用紙を眺めていた。

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