第8話 自分の役割や意義

「じゃあ、続いて祭りの役割分担に行こう」

 いつの間にかマイクは自治会長さんに戻ったらしい。


「手元の用紙を見てくれ」


 そう言うと、室内にはかさかさと紙同士がこすれ合う音が響き、その中を自治会長が説明していく。


 今年の総取りを行う自治会は、沖原おきはら自治会らしい。そこの自治会長が総指揮監督となり、祭りを取り仕切る。


 そして、宵宮を仕切るのが田藤たふじ。昼宮を仕切るのが常口つねぐち地区。


 準備と片付けを主に担うのが吉方きっぽう地区のようだ。地区名と役割が読み上げられるたび、上座に座った自治会長が一人ずつ挙手をして、「応」と返事をした。


「じゃあ、宵宮を仕切る田藤地区自治会長から、御旅おたびの役割について説明をしてもらいます」


 自治会長が交代してマイクを握ると、「二枚目の用紙をめくってくれ」と指示が出た。かさかさとまた紙を繰る音が響く。


たまきちゃんを乗せた神輿みこしをお宮から担ぎ出すのは、うちの田藤の住人が行う」


 野太い自治会長の言葉に、会場の半数を占める手が上がった。どうやら田藤地区の当日神輿を担ぐ男衆らしい。


「神輿が地区を変わるたびにその地区から人手を出して交代して欲しい」

 自治会長は他の自治会長に視線をやる。各々自治会長は頷いた。


「お宮を出てからの順番は、田藤、常口、吉方、そして最後に御旅所おたびしょのある沖原だ。申し訳ないが、確認のため、担ぎ手は手を上げてくれ」


 そう言うと、自治会長が順番に各自治会を読み上げた。それに応じて会場からはいくつもの挙手がある。


「御旅所って?」


 私は清彦きよひこに尋ねる。なんだかさっきケンカしていたことも、気まずい雰囲気だったことも気にならなくなった。というか、気にしていたら、この打合せについていけない。清彦も顔を上げ、私をまっすぐに見る。


「神輿の終着点だ」

「なんだ、権現ごんげんのこと?」


 私は目を瞬かせる。お祭りでは、お宮を出た神輿は、権現さんに向かう。その権現さんが『御旅所』というやつらしい。


「次に御旅の役割を読み上げるぞ」

 神輿の担ぎ手を確認した自治会長が、自分も用紙を繰りながら声を張る。


「御旅って?」

「お宮から出て、神輿が動くこと」


 私の質問に、清彦は律儀に返事してくれて大変助かる。そうか。小学生の頃は、こんな打合会なんて親が出ていたし、詳しい意味や言葉なんて全く知らなかった。


 ただ、ハナタカさんになって、「よーい、よーい、よーい、よーい」と言いながら杖を突いて歩けば良いと思っていたのだから。

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