第7話 ハナタカは猿田彦でもあるんだ

「祭りを毎年しているのに、こんなことが起こるのか?」


 不満そうな声が広間のどこからか上がる。宮司さんは視線をそちらに向け、柔らかく微笑んだ。


「通常のお祭りというのは、いわば練習のようなもの。本番が来たとき、忘れないように毎年するのです。まぁ、防災訓練のようなものですね」


 発言者は納得したのか、黙っている。宮司さんはひとつ頷くと、再び満遍なく参加者を見渡した。


「毎年行っている祭りと少し変更はありますが、大きく変わる事は有りません。変更は三点のみ」


 宮司さんは静かに、だけど一言一言はっきりと話した。


「ひとつ。子供会は不参加。よって、こども神輿みこしはなし。ふたつ。神輿みこしには『依代よりしろ』の愚女が乗ります。みっつ。猿田彦さるたひこは、愚息が行います」


 宮司さんの言葉を、私はぽかんと聞いた。

 愚息って清彦のことよね。清彦は私と一緒にハナタカをするんじゃなかったっけ。


 思わずさっきの諍いを忘れて隣を見る。相変わらず俯いて用紙をみつめていた清彦だったけれど、気配で私が見ていることに気づいたんだろう。少し、顔を上げて長い前髪越しに私を見やった。


「ハナタカは、猿田彦でもあるんだ」

「サル?」


「サルタヒコ。妙なところで止めるな」

 叱られたものの、首を傾げて私は尋ねる。


「じゃあ、私もそのサルタヒコなの?」


 私が言った瞬間、清彦は言葉に詰まり、視線をしばらく彷徨わせて「そんなようなもの」とぶっきらぼうに答えた。


「ふぅん」

 私は返事をし、もう一度手元の用紙に視線を落とした。


「ハナタカ」

 花丸和奏はなまるわかな芦屋清彦あしやきよひこ

 そこにはやっぱりそう書いてある。


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