第5話 私が悪いの?
私は眉根に力を込め、私に向かい合う
「私だって、あんたと組みたいなんて、これっぽっちも思った事は無いわよ」
勢いよく吐き捨ててやる。
清彦は驚いたように少し目を見開いた。珍しく表情を動かしているどころか、私が怒っていることに気づいてなんだか当惑し始めた。
「いや、そう言う意味じゃなくて……」
「言っとくけどね、お父さんに言われたから仕方なく私、ここにいるだけですから」
畳に投げ捨てた用紙を私は乱雑に握り、上座に向かって座り直す。
もう腹が立って血が沸きそうだ。清彦を見ていたら真剣に殴りそうで、視線を逸らした先に
「今回、ハナタカは誰でも良いんでしょ? だったら私は明彦さんが良かった」
一気に言い捨てると同時に、首筋から背中にかけて力を込める。
言い返してきたら、反射で返してやる。そう思って、清彦から来るであろう暴言のシュミレーションを脳内で行っていたのだけど。
……あれ……?
数秒待っても。
数十秒待っても、隣からは怒声も罵声も、ましてや暴言も聞こえてはこない。
おそるおそる視線だけ隣に移動させる。
清彦は。
うつむき、黙っていた。
胡座で背中を少し丸め、首を下に向けてしまうと、伸びすぎたように見える清彦の前髪と横髪が、彼の顔半分を隠してしまって、表情が読めない。
ただ。
辛うじて見える顎は張り、下唇を噛んでいるように見えて。
なんだか私は怯む。
怒ってすねている、という感じではなかった。
どちらかというと。
私の言葉に落ち込んで、ぐうの音も出ないと言いたげな雰囲気を背中から漂わせている。
え。なによ。これ、私が悪いの?
私がなんか清彦をいじめたみたいじゃない。
戸惑って私は何か清彦に声をかけようと思うのだけど、「ごめん」も変だし、「なによ」というと、またケンカが始まりそうだし。
ちょっと、もう……。
面倒くさいなぁ。正直そう思い始めた頃、マイクのハウリングが室内に響き渡った。
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