第4話 環を守ってやらないと
「
へぇ。環の交友関係とか知ってるんだ、とそこがまず、意外だ。
だってこいつ、私が昔、
「環、中二だっけ」
私は言いながら、清彦の視線をたどる。
どうやら、神主さんと
環は明彦さんに何か言われ、口元を手で覆ってくすくすと笑っていた。小さい頃はそれこそ一緒によく遊んだものだ。私は一人っ子だから、環が妹のように可愛かったし、環も「お姉ちゃん」と慕ってくれた。
「美人だもん。そりゃ、男の子が放っておかないでしょ」
清彦もそうだけど、この兄妹は顔かたちが整っている。彫りの深さと、すっと通った鼻筋がどこか日本人離れしてみせるけれど、髪も目も、黒々としている。
「家にも連れてきたことがあるが、良い奴だった」
清彦がそう続けたことに、やっぱり私は違和感を覚える。
どうしたんだろう。
そっと清彦の様子をうかがった。正面を向いているから私には横顔しか見えないけれど、端正なその顔立ちに目立った表情は浮かんでいない。
小学生時代の清彦というのは、あんまり話さない子だった。
家族のことどころか、自分のこともあまり喋らず、もっぱら聞き手に回るような子だった。大人しいかと言われたらそうではなく、本当にただ「話さない子」だった印象がある。
私は中学受験をしたので、その後県立大付属中学に進学し、地元の公立中学校に進んだ清彦や環とは疎遠になった。祭りや初詣では会ったのかも知れないけど、私は明彦さんしか見ていないからよく知らない。
だけど。
私が知らない数年の間に、清彦に何か変化でも起こったのだろうか。
私が首を傾げた拍子に、視線を感じた清彦がこちらを向く。
黒目がちの双眸に見つめられ、一瞬体を硬くした。
それほど、清彦の表情は真剣で、纏う空気は張り詰めているものがあった。
「環。幸せそうなんだ。その環を、守ってやりたい」
清彦は私をまっすぐ見てそう言うが。
正直、意味が分からない。
守る? 何から。
環を? 誰から。
私は言葉が脳内でまとまらないまま、ただただ眼前の幼なじみを見つめた。
清彦も、私を見ている。
その黒瞳が若干揺らぐ。なにか言おうとして迷っている。そんな風に見えたが、清彦は一度強く目を瞑り、それからゆっくりと開いて私の方に体ごと向き合うようにして座り直した。
私はその清彦の様子に、ごくりと生唾を飲んだ。
なんだろう。何を伝えようとしているのか。
だけど。
「俺だって、お前と一緒にハナタカなんて、やりたくなかった」
清彦の言葉に、呆気にとられた。
いや。
何を言うのかと身構えたのに。
緊張して、真面目に聞こうと思ったのに……。
拍子抜けした後、むくむくとわき起こったのは「怒り」だ。
よくよく聞けば、これはさっきの蒸し返しじゃないか。
私が、『まさか、またやるとはおもわなかったよ。しかもあんたと』と言い、あいつが、『奇遇だな、俺もだよ』と、言い返してきた例のあれ。
別に、私だって、あんたとやりたいわけじゃないっ!!!!!!
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