第3話 今年の祭りは特別だ

 きょとんとした顔をしていたのかもしれない。清彦きよひこは小さくため息を吐き、畳に資料を置いて私を見た。


「兄貴、普段は町役場に勤めてるけど神主の資格はあるし、神社の仕事も手伝ってるから『権禰宜ごんねぎ』っていう役職で今回の祭りに関わることになったんだ」


「明彦さん、役場に勤めてるんだ! もう大学卒業したの⁉」


 驚いて上座を見る。六つ年上の明彦あきひこさんは、今は穏やかに微笑んでたまきと何か話をしているところだ。


 ひぇ。もう社会人かぁ。

 私が小さな頃は憧れのお兄ちゃんだったのになぁ。


 大学進学と同時に下宿したから、滅多に会えなくて、お祭りの日とか、初詣に神社に行ったときに、姿を見かけたらもの凄く嬉しかったけど……。


 初恋といえば、初恋の人だったかも。

 だけど、もう完全に手の届かない人だよ、と息を吐く。


「今年役場に入ったところ」


 清彦が興味薄そうに言うから、「何課に行ったら会えるの?」と聞けなかった。多分、聞いても知らなそうだ。


「で、いつもは祭りで『依代よりしろ』なんて使わないんだけど、今回の祭りは特別だっていうから環が『依代』を勤めることになった」


「依代って、なにするの?」

 私は視線を清彦に戻し、首を傾げる。祭りではあまり聞かない役名だ。


神輿みこしに乗る」

 端的に清彦が答え、私は目を瞬かせた。


 神輿に乗る?


 この町に暮らし、小さな頃から祭りに参加してきたが、大人が担ぐあの神輿に誰かが乗っているところなど、私は見たことも聞いたことも無い。


「乗るの? 神輿に?」

 思わず再度確認する私にちらりと視線を走らせた後、清彦は顔を前に向けた。


「今年の祭りは特別だ。ハナタカだって、いつもは小学生がやるだろ?」


 今年の祭りは特別。

 私はおずおずと頷く。そう言われればそれまでだ。ハナタカ然り、神輿然り。依代しかり。


 何か。

 いつもと違う。

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