第2話 なんだよ。見んなよ
あんな過酷で暴力的な祭りの役目を、それでも泣かずに最後まで頑張れたのは、
こいつがいなければ、私は多分祭りの途中で役目を放棄していたと思う。
とにかく、こいつが。
とにかく、こいつが、こいつが、こいつが、こいつが!!!!
憎らしかった!!!!
私がぜいぜい言いながら、役目をこなしているというのに、こいつは涼しい顔ですんなりとこなし、大人から野次られることもない。
衣装だってそうだ。動きにくいし、暑いしで顔を真っ赤にしている私に対し、こいつは顔色ひとつ変えずに無駄なく動く。
『さすが清彦君は違うな』『神主の息子さんはやっぱり気持ちが入ってる』
そう役員が褒めるたびに私は歯ぎしりし、負けてなるものかと奮闘した。
だいたい、なんだ、気持ちが入ってるって。抽象的すぎる。
途中くじけかけ、ちょっと涙が目に滲みかけた時、「ふふ」と小さな笑い声が聞こえて隣を見やると。
こいつは。
こいつは。
私を斜めに見上げて笑っていやがった。
チビのくせに、チビのくせに、チビのくせにっ!!!!!!
あああ、今思い出しても腹が立つ。
「なんだよ。見んなよ」
「はぁぁぁぁ!?」
睨みつけていたらそんなことを言われ、私は手にした資料を床に叩きつけていきり立つ。
「誰があんたを……っ」
怒りのあまり素っ頓狂な声が出た。な、何言ってんだ、この勘違い野郎……っ。見てるんじゃないっ。睨んでんのっ!
「騒ぐなよ、うるせぇな。目立つだろ」
つまらなそうに言う清彦の言葉に、私は素早く周囲に視線を走らせたが、社務所の大広間は、おっちゃんとじぃちゃんたちがひしめき合っていて、誰も私の声になんて反応していなかった。
一番近くに座っていたのが耳の遠そうなじいちゃんだったのも幸いした。
じぃちゃんの目が霞んでいれば、私は清彦の胸ぐらを掴んで殴りつけてやろうかと思ったけれど、私の視線を感じたじぃちゃんは、にっこりと微笑んで見せたので、私も最上級の笑顔を作って大人しく座布団に正座する。
そして。
横に座る清彦を無視して改めて大広間を見渡す。
集まった大人達はざっと50人。その人たちが座布団に座り、隣との距離もままならないままそれぞれ体をよじるようにして近くの人と話をしていた。
年齢は様々だけど。
性別は皆「男」。
スーツ姿の人がしわを気にしながら正座していたり、野良作業のまま駆けつけたようなおじいちゃんは、さっきから大声で、「お茶は出ないのか」と周囲の人に聞き続けている。私はその様子に溜息をついて上座を見た。
ホワイトボードには、「青葉祭り打合会について」と角張った文字で大きく書かれており、その前には細長いローテーブルが二台並んでいた。
ホワイトボードを中心にして東に置かれた机には、名札を下げたおじさん達が四人正座している。多分、それぞれの自治会長さんだと思う。
そして西側のもう一台には、清彦のお父さんである宮司さんと、清彦のお兄さんの
神社関係者席、なのかな……。
だとしたら、清彦は私の隣でここに居ていいのだろうか。
言っては何だけど、会場の中で一番年若いから、私と清彦は集会場の一番後ろで、しかも出入り口付近に居る。下座中の下座だ。上座に行かなくてもいいのかな。
「清彦」
私は首を横に向ける。「なんだ」。ぶっきらぼうな声が返って来て、むっと来たが、それでも尋ねてみた。
「明彦さんや環のところに行かなくて良いの? 上座が神社の関係者席じゃないの?」
「親父は宮司だし、兄貴は
清彦は手元の資料を眺めながらそう言うが、言っている意味がよくわからない。
私は「神主家族だから上座じゃないの?」と尋ねたつもりだったのだけど、清彦が返してきた答えというのは、どうも「そういう役だからあいつらは上座に居るんだ」と言っているように聞こえた。
ということは、清彦も、なんらかの役目のために、私の隣で、下座に座っているのだろうか。
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