祭りの前
第1話 まさかまた、やるとは思わなかった
ハナタカをやったのは、私が小学6年生の時だ。
とにかく、しんどかった記憶しかない。
ハナタカは、お宮を出た時から先頭を立って歩く。その後に続くのは、
お宮から権現さんまでは、普通に歩けば15分とかからない。
それを、やたらめったら、ウロウロ歩くのだ。
お宮は、四地区の氏子からなる。
だから、この四地区をまんべんなく歩かなければならないのはわかるのだけど、出発から到着まで約1時間、ハナタカは歩き続ける。
神輿も、お道具係も、地区が変われば担ぎ手も変わる。
ただ、ハナタカだけは代わりがない。
狩衣衣装を身に着け、首からは天狗のお面をぶら下げた姿で、「よーい、よーい、よーい、よーい」と大声を張り上げ、そして時々、手に持った長い木の棒で、どんどんどん、と地面を突かないと氏子役員から注意を受ける。
ついでにいうなれば、「よーい、よーい、よーい、よーい」の声が小さければ、神輿の担ぎ手が後ろから怒鳴ってくる。
「おいおい、どうした、ハナタカ!」「ワシ等の地区だけ小さい声か!?」
子どもといえど。
そして、か弱い女の子だというのに、容赦がない。
「それでもハナタカか!」「気合いれんかいっ」「大声張れ!」
そんなじじぃやおっちゃんの怒鳴り声に負けじと「よーい、よーい、よーい、よーい」と繰り返すものだから、権現さんに到着した頃には、喉はがらがらになるし、辛くてしんどくてずっと泣きたかったことしか覚えていない。
こんな過酷な役目なものだから。
ハナタカは、とにかく子どもに人気が無い。
人気があるのは、こども神輿だ。
たくさんの人数でキャッキャ言いながら、順番に担ぐ。だから、疲れない。写真だっていっぱい撮ってもらえる。
だけど。
何度も言うように、ハナタカは、ひとり。交替はない。
本来は男女一人ずつ選ぶのだけど、男子はともかく、女子はほぼなり手が無い。
私がハナタカをするまで女子は数年空白だったと聞くし、私の後も空白のままだという。
「まさか、またやるとはおもわなかったよ」
座布団に座り、ほぅと息を吐いて手元の資料に目を向けた。
『青葉祭り実施について』
そう書かれたコピー用紙には、日程や注意事項と共に、それぞれの役割が書いてある。
「ハナタカ」
「しかも、あんたと」
ぼそりと呟き、隣に胡坐をかいて座っている清彦を見やる。
「奇遇だな、俺も同意見だよ」
ぶっきらぼうに答えるのは、6年生の時に一緒にハナタカをやった同級生だ。
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