第2話 カフェ

夕闇迫る薄暮のころ。パリのカフェのテラス席にはもう、こうこうと灯りがともり、まばゆい黄色い光を四方に放っていた。大理石のテーブルが白く輝く。光は石畳みの石にまで届き、その反射で一つ一つの石もまた黄色味を帯びて光っていた。


まだ宵の口。客はまばらで、入り口付近に何組か座っている。背の高いギャルソンがひとり注文を取っていた。

すると店の前を通りかかった男の子がかたわらの母親を見上げて言った。

「このお店に入ろうよ。ぼく、お腹が空いちゃった」。

「あらだめよ。もう少し大人になったらね」。

母親はそう答えるとその子の手を引いて通り過ぎようとする。男の子は

「早く大人になりたいなぁ」

と言いながら、名残惜しそうにお店の方に目をやり、そして夢見るのだった。


「ぼくが大人になったら、流行のスーツを颯爽と着こみ、かわいい恋人と腕を組んでこのカフェに来るんだ。時計の針は8時半を回ったところ。店は美しく着飾った紳士淑女でいっぱいだ。ワイン片手に笑ったりしゃべったり、みんな陽気に騒いでいる。

席はね、前から決めている左から2番目の手前のやつ。彼女は美しいドレスに身を包み、流行りの帽子の下からにこやかにぼくに語りかけてくる。ぼくたちはおいしいワインとおしゃれな会話を心ゆくまでを楽しむんだ。もちろんおいしい料理も、ね」。


1組の老夫婦がやってきた。それを皮切りに次々と客が集まってくる。刻々と夜の帳が下りてきて、星の輝きがさらに増してきた。


カフェの夜はこれからだ。

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絵から超短編、作りました! ノイマー @noimar

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