絵から超短編、作りました!
ノイマー
第1話 タバコ
こんなに大っぴらに気兼ねなくタバコが吸えなくなってきたのはいつごろからだろうか」。
新宿に近いギャラリーの展示会。ぼくは一枚のポスターの前でつぶやいた。
それは古いアメリカのタバコの広告。ブロンドの髪をきちっとセットし豪華な毛皮に身を包んだ美しい女優が、タバコを片手に買えとばかりにこちらに目を向けている。当時流行したらしい大きく弧を描く眉と赤い口紅が印象的だ。吸いかけのタバコを指にはさんで陽気に笑うその姿に何の屈託もない。
そうだ、昔は職場でも自分の席でスパスパやっていた。所構わずレストランでも駅でも、気持ちよく鼻から煙を吐き出していたものだ。ドラマの刑事は必ず張り込み中にタバコに火をつけ、JRのボックスシートの窓の下には灰皿がついていた。タバコの広告もおしゃれなものが多く、マルボロの広告に憧れたものだった。
だが今は無表情でニコリともしないマナーを訴える広告ばかり。職場でも吸いたければ吹きっさらしの屋上か、地下の駐車場に設置されたガラス張りの喫煙ルームと決められている。お昼や休憩時間になると建物中から人が集まり、金魚鉢のような喫煙ルームはさながら満員電車のようにひしめき合う。肩と肩がぶつかり、煙りも天井に向かって吐く始末だ。
もちろんぼくも健康によくないことはわかっている。タバコのパッケージに印刷された肺ガンの患部の写真にはギョッとしたし、受動喫煙も申し訳ないと思っている。他人様を傷つけてまで吸うつもりはない。
にもかかわらず、にもかかわらずだ。ぼくは誰に遠慮することなく、心ゆくまでゆっくりとタバコを吸いたいのだ。肺の隅々の細胞の一つ一つにまでニコチンを含んだ空気を行き渡らせ、そして日ごろのウサと共に思いっきり吐き出したいのだ。この女優のように気兼ねなく堂々と。
やっぱり、タバコが吸いたくなった。喫煙ルームを探すとしよう。
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