舞台設定・歴史年表 6

 二二十一年。


 戦後処理が終了。残党狩りを終えたロボット兵たちは、日本へと派遣された。おびただしい数の原子爆弾によってばら撒かれた放射性物質を除去するためだ。


 それ以外のロボット兵は、大戦によって失われた労働力を補うために労働ロボットに換装され、世界各地へと散って行った。


 人口が激減した今、貴重な働き手となるべく、ロボット兵は生まれ変わった。大戦によって疲弊した世界の経済活動の根底を支えたのは、休みなく生産活動を行えるロボットであった。




 二二十六年。


 核によって住む場所を失った日本の企業は、移民先で生き残るため、必死になって新たな需要の匂いを嗅ぎ取った。


 各国の復興が一段落つけば労働力に余剰が出ると判断した日本企業は、自社が生産して派遣していたロボット兵をアメリカ国内の工場に引き揚げさせ、初期化してコンピュータを取り出し、それを新造された家庭用アンドロイドに流用して販売するという計画を開始する。


 家庭用アンドロイド向けの人工知能調整は困難を極めた。何故なら、ロシアと中国の軍事介入や圧力が強まって以来、日本の研究機関は戦闘用の人工知能開発に注力していたため、人間のパートナーとしてのロボット研究は凍結されたまま、全く進歩していなかったのだ。


 運動性能や戦術的思考に特化した調整がなされていたロボット兵用の人工知能に対し、人の暮らしを支えるのが目的である家庭用アンドロイドの人工知能は、相手の表情を読んで感情を理解し、共感力を高める調整が必要になる。


 当然、これまで戦場で培ってきた技術など役に立つはずもなく、ロボットを用いた冷戦時代が始まる前の段階から、研究しなおすことになった。




 開発は困難を極めた。人間の感情を読み取らなければならないような場面になると、アンドロイドがフリーズを起こすのだ。


 技術者は、この難題をある方法によって克服し、開発に成功。すぐに量産体制に入った。


 計画を見事に実現させた日本企業は、出来上がった新世代家庭用アンドロイドを大々的に売り出した。


 従来の家庭用アンドロイドよりも高性能である上に、ロボット兵のコンピュータを流用することで比較的安価で販売できたため、富裕層はもちろん、中流家庭からも注文が殺到し、以降、高いシェアを保持し続けた。




 こうして、かつて兵器だったアンドロイド達は、平和を知った。


 平和な国で、温かな家庭の中で、多くのアンドロイドが幸せに暮らし始めた。


 人の子のように、少しずつ、少しずつ、成長しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人と機械と機械と人 (横読み向け 行間調整版) 榎本愛生 @enomotoaikidesugananika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ