舞台設定・歴史年表 5

 第三次世界大戦は、瞬く間に膨大な数の命を焼き潰して終結した。


 後に戦勝国と呼ばれることになる国々は速やかに協議し、生存者の捜索という名目で、核で汚染されたロシアと中国へのロボット兵の派遣を開始した。


 だが、そのじつは、一般市民をも対象にした掃討作戦のための派兵だった。


 中国とロシアの残党狩りは、迅速に行われた。衛星での偵察情報を参考にして作戦地点を策定し、高高度輸送機から膨大な数のロボット兵を降下させ、全域をほぼ同時に攻撃した。


 激しい核攻撃の応酬がなされた結果、戦勝国は疑心暗鬼に陥り、生き残りによって核攻撃が行われない確証はないとして、本来あるべき形の戦後処理を行わなかった。


 苛烈を極めた核戦争は、人道的配慮という概念までも焼き尽くしてしまっていた。




 戦勝各国は、ロシアと中国の国土が旧式核爆弾による放射性物質で汚染されていることを利用して立ち入りを禁じ、過ちを被い隠した。


 封鎖地域に乗り込もうとするジャーナリストもいたが、大抵の者は、放射線を感知したガイガーカウンターの叫び声におののいて引き返した。


 そんな中、一人のアメリカ人ジャーナリストが被爆覚悟で突入した。


 だが、ロボット兵による封鎖を掻い潜ることが出来ずに保護され、その二週間後、故郷の病院で息を引き取った。


 彼の訃報が、ロシアと中国が生存不可能なレベルの放射性物質で汚染され、生き残りはいないという政府発表の信憑性を高める結果に繋がった。


 それ以降、人々が政府発表を疑うことはなくなった。


 一般市民を目標に含めた掃討作戦が行われたという歴史は公文書館にも保存されることなく、真実は放射線に支配された地にうずもれた。




 西側諸国のほとんどの国は、居住に支障がない規模の局地的な核汚染で済んだが、多くの核爆弾に蹂躙された日本は違った。


 国土のほとんどの地域が居住不可能となり、国を失った日本人は、東南アジアやアメリカ大陸の国々に受け入れられて移住した。




 世界は、ロボット兵によって放射性物質の除去を行いながら、少しずつ、元の生活を取り戻していった。


 後世の研究によって判明したことだが、中国の愚行は、長年に渡って行われてきた海洋進出における侵略行為の成功による慢心と、世襲による軍律の悪化、国民の生活水準の劣悪化、そして、度を越した軍国教育によって引き起こされたものだった。


 二十一世紀頃の周辺国は、中国の緩やかな侵略行為を本気で抑止しようとしなかったため、中国はいつしか自制心を失い、踏み込めば何でも手に入ると思い込んでしまっていた。


 その結果、中国は退くことを忘れ、軍事衝突の危険性と、その先に控える大戦さえも見えなくなっていたのだった。


 増長した軍国主義教育は、かつて中国軍人が抱いていた武力への畏怖すらも失わせ、党幹部の息子の経歴を彩るためだけに与えられた虚構の階級の力によって、第三次世界大戦の引き金が引かれてしまった。


 長年続いた不安定な政治体制が、この時に発揮されなければならなかった自制心を失わせていた。


 外交的にも経済的にも孤立し、そして困窮し、軍事行動でしか活路を見出せなくなっていたのだ。こうして、中国の軍部は暴走し、核を撃つに至った。


 長年に渡る政治的失策が、多くの人の命と、二つの国を無に還した。

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