舞台設定・歴史年表 4
二二〇九年。
第三次世界大戦、勃発。
新たな冷戦は、道を誤った国家の暴走によって一気に熱を帯び、爆ぜた。
各国が中東のテロ組織とその支援国を平定し終え、大きな争いはしばらく発生しないだろうと安堵し始めていた矢先のことだった。
かねてより衝突の危険性が指摘されていた南シナ海で、ついに軍事衝突が発生した。
意図的であったかどうかは不明だが、中国海軍の艦船がベトナム海軍の艦船に体当たりし、怒鳴り合いの末に銃撃戦に発展。中国海軍兵の一人が負傷した。
両海軍は退避命令を受けてそれぞれの拠点に寄港し、問題解決は両政府の手に委ねられた。
常任理事国は速やかに介入を試みた。
ベトナム海軍の録画映像を検証した結果、先に撃ったのは中国側だったことが明らかになる。
中国政府は、それをいつものように捏造であると指摘したが、それ以上の言い争いをしようとはせず、軍事衝突は落着した。
しかし、危機感が消え去ることはなかった。
東南アジア・オセアニア条約機構とアメリカ合衆国は、中国への監視を強め、領有権の主張を改めさせるために艦船を派遣し、哨戒を命じた。
戦争は避けられた。だが、戦火は見えないところで燻り続けていた。
かつてない圧力を加えられた中国は、新たに打ち上げた気象衛星を不慮の事故と装ってアメリカ合衆国の軍事衛星に衝突させ、これを破壊。搭載されていた宇宙兵器を無力化した。
続いて、東南アジア・オセアニア条約機構加盟国とアメリカ合衆国に向けて多弾頭水爆弾道ミサイルを発射した。
虚を衝かれた東南アジア・オセアニア条約機構加盟国とアメリカ合衆国だったが、冷静に事態に対処し、日本、台湾、フィリピンの各所に配備していた迎撃レーザーによって、中国から飛来する弾道ミサイルの迎撃に成功。
すでに発動していた自動反撃プログラムによって発射された各国の多弾頭水爆弾道ミサイルが、迎撃されることなく中国本土に着弾し、中国は壊滅的な被害を受けた。
中国の暴走に戦慄したロシア連邦は、本件とは無関係である事と、介入する意思がない事を世界各国に伝えた。
各国はロシア連邦にも多弾頭水爆弾道ミサイルを撃ち込む態勢を取っていたが、ロシア政府の声明を受け、発射態勢を解いた。双方とも、これ以上の危機的状況を作り出すことを避けたかった。
しかし、中国は違った。
中国は残された全火力をもって、再度、核攻撃を開始。そのほとんどが、旧式の原子爆弾であった。
それらと同時に、宇宙に浮かぶ有人実験施設と称していた質量兵器からも攻撃を開始した。
中国と距離が近い日本は、在日米軍と国防軍の施設を標的とした百九十二機の超音速高機動無人ステルス攻撃機の迎撃に失敗。
ほぼ全ての原子爆弾が着弾し、国内軍事施設と、その周辺都市は壊滅状態に陥った。
国防軍は、生き延びているであろう自国民を守るために海上からの防衛に奮迅しながら、同時に在日米軍艦船の防衛にも尽力し、残された活路を必死に切り開いた。
アメリカは本国のミサイル基地に質量兵器攻撃を受けながらも、即座に旧型の原子爆弾を多数搭載した超多弾頭弾道ミサイルを大量に撃ち込み、中国の国土に点在する全てのミサイル基地をなぞるように攻撃を加え、中国を落としにかかった。
核弾頭は首尾よく着弾し、各地のミサイル基地の無力化に成功した。
旧型核弾頭を使用したのには理由があった。中国の次の動きに対応し、効果的な打撃を加えるため、核融合爆弾を温存する必要があったのだ。
各国がそれぞれの活路を懸命に切り開くなか、人類が積み重ねてきた歪みによって、致命的な過ちが犯された。
旧ソビエト連邦のウクライナが、長らく対立していたロシアを信用しきれずに先制攻撃に踏み切り、全ての潜水艦から、ありったけの旧型原爆搭載弾道ミサイルを発射してしまったのだ。
ウクライナは、ソビエト連邦崩壊時に大量の核兵器を抱えたまま独立した。その後、保有数が問題となり、アメリカとロシアとの協議の結果、一九九一年から一九九六年にかけて核兵器をロシアに移管し、平行して自主的に廃棄した。
しかし、実際には全てを処分してはおらず、当時のアメリカ政府の手引きによって、秘密裏に核兵器を保管していたのだ。
ウクライナからの核攻撃を受けたロシアは、自動反撃プログラムによって、核と宇宙兵器による反撃を開始。
東南アジア・オセアニア条約機構加盟国は迎撃態勢を取りながら静観していたが、北大西洋条約機構加盟国は速やかに攻撃を開始した。
少し間を置いて、静観していた東南アジア・オセアニア条約機構加盟国も、ロシアへの核攻撃を開始した。
中国と同じように、ロシアの母なる大地は、全てを焼き尽くす炎に包まれた。疑心暗鬼に陥った人心によって、防げたはずの核戦争の第二幕が引き起こされ、多くの人々が命を奪われた。
中国のミサイル基地は早い段階で壊滅状態に陥ったが、ロシアは違った。
二十世紀の冷戦時代に建造されたものに加え、新たな場所にミサイルサイロや地下要塞が建造していたのだ。
アメリカ合衆国はそれらの場所を完全には把握しておらず、全てのミサイル基地を破壊することが出来なかった。
基地の位置は全く見当もつかず、衛星による光学的調査も熱源調査も功を奏することはなかった。ロシア内部から齎される情報は、労働階級の協力者からの不確かな目撃情報や噂のみで、地下施設を掘っているらしいという頼りない情報しか得られていなかった。
綿密な情報漏洩対策により、ロシア連邦との核攻撃の応酬は長引くこととなり、北大西洋条約機構加盟国も重大な損害を被った。
だが、大勢が覆ることはなかった。
ロシアは保有する核搭載弾道ミサイルを対立国に分散して発射するも、西側諸国との経済力と競争力の差によってミサイル迎撃能力に大きな隔たりが生じていたことが致命傷となり、一方的な形で撃ち負け、完敗した。
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