終章 新たなる起点──未来へと響け祝福の歌

終曲 少女と少年とホンモノのソラ

 超光子化の影響で、航海がほぼ不可能になったサンドゥンは。

 あの虹色の宙域で、そのまま拠点惑星として使用されることになった。

 ここに、新たなる人類の母星──新・太陽系が誕生する。


 一方で、困難な敵がいなくなったことから、改めて星の海を開拓する船団の開発が急がれた。

 神との最終決戦から約13年。

 船団は、完成した。


 船長の職を退き、新・太陽系初代統合大統領となったサコミズ・ゴードンは、その就任式典において、サンドゥン──かつて地球と呼ばれた惑星の再興に努めることを宣言し、多くの支持を集めた。

 つらく困難な道に挑む彼を、人々は褒めたたえた。


「たとえそれが、虚偽の栄光でも、私は責任を果たすために活用しよう。あの時危険へと立ち向かったすべてのものに応えるために、真の英雄に応えるために」


 とは、ゴードンが大統領就任式典で発したセリフである。



 ラブロック・マイリスは、正式にガイア教の教祖として活動を始め、信徒だけでなく救いを求める多くの者たちと、新たな命の営みを模索している。

 彼女がスピーチで口にした、


「母なる地球は、外より訪れたわたしたちを子と認めて力を貸してくれた。ゆえに報いなければならない。手を取り合って、一つになって」


 という言葉は、人類全体のスローガンとして根付いている。



 奇跡的に命を取り留めたサクライ・アキラは、外宇宙開拓船団の艦長に大出世していた。

 あの一件でプライドという毒気の抜けた彼は、誰よりも仲間を思いやる船長に成長していた。


「僕だってね、見習うべき背中があるなら、もう眼は背けないさ。だって、彼らに恥じないことをするほうが、かっこいいだろう?」



 旅立つアキラの船団を、サキブレ・イズレは取材し続けた。

 そののち、船団に潜り込み、いまではS・B・C外宇宙開拓船団の支部長に収まっている。


「報道は自由です……! 目に映ったものすべてを、そのまま伝えなくてはいけません。責任はとります。そして、必ずクルーたちに、すべての利益を還元するのです! ニュースになってくれた、英雄のためにも! それが次の世代の教主としての務めです!」



 飛び立つ船団は、サンドゥンをスイングバイして、そののち、超弦接続励振航法によって新・太陽系を離脱する。


 かつて少女だった女性が、その様子を丘の上から見上げていた。

 数字だけが刻まれた、365の墓標が並ぶ、小高い丘の上から。

 雲一つない青空を、鳥が──船が飛んでいく。


(ずっと以前、あたしはこの空を偽りだと思っていた。アウターだと、不自然に出力されたものだと。でも、そんなものは関係がなかったんだ。本物か偽物かなんて、さしたる意味はなくて。ただ、ここにいるぞっていう自分だけが、ここにいてほしいと思う相手だけが、こんなにも大切だったんだ)


 経過した月日は、13年。

 船団の出発記念日。その日は、彼女の誕生日で。

 妙齢になった女性は、丘の上に佇み、「バーカ」と、毒づく。


「誰かさんは、約束を守ってくれないじゃない」

「──言っただろ? 誓いは守る。いつだって、君を祝福するって?」

「────」


 彼女の目が、大きく見開かれる。

 ばっと振り返った彼女の視界に、その姿は確かな実像をもって映った。


 黒い制服に、つば広の帽子。風になびくマフラー。

 胸にはY字の勲章が輝き。

 帽子の下から彼女を見つめている瞳の色は、鮮やかなライトグリーンだった。


「────」


 彼女は。


「──遅い!」


 顔を真っ赤にして、そう叫んだ。

 そうして男へと殴りかかり、そのまま彼の胸の中に、顔をうずめる。


「遅い、すっごく遅いのよ……」


 ぽかぽかと胸板を殴られながら。

 男は、


「……ごめんね。今度は本当に遅れちゃったよ」


 そういって、クシャっと笑う。

 アカネは微笑んで、やっぱり泣いて。


「許さないんだから……!」


 帰還した彼を、抱きしめた。

 それから、不確かな未来を確定させたいと願うように、問いかける。


「どうして?」

「未来が存在していたら戻ってこられるように、この星が贈り物をしてくれたのさ」

「奇跡なの?」

「もしかすると、これはそういうものかもしれないね。言ったはずだよ? 命は繋がっているって」

「減らず口、ほんと嫌なやつ」

「よく言われるよ」

「悪いと思っているなら……あたしのお願いを、三つきいて」

「なにも言わずに?」

「当たり前よ!」

「じゃあ、一つ目は?」

「あなたの」


 女性は訊ねた。


「あんたの名前を教えて」


 彼は応える、胸を張りながら。


エイジ! 君の明日を守る──ほかの誰でもない、エイジだよ?」

「──うん。うん! じゃあ、二つ目。もう一度、あの曲をきかせて」

「お安い御用さ。ところで、三つ目は?」

「それは──」


 ふたりのシルエットが、いっそう近づく。

 鳴り響く旋律が、開拓団の船出を祝福した。


§§


 一年後、サンドゥンに新たな産声が響いた。

 遥かな旅路の果てに響く、その賛歌のような産声は。

 まっさらな時代に響く、祈りそのものだった──




響く歌声のエイジオン 終わり

Echoing choir AGE-ON. FOREVER!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

響く産声のエイジオン‐Echoing choir AGE-ON‐ 雪車町地蔵 @aoi-ringo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ