#0

 私が魔女と呼ばれたのは何時の事だっただろう。

 初めて私を魔女と呼んだのは父だった。

 私には昔から――生まれた時から、一つの能力を授かっていた。


 私には人の寿命が見える。ただそれだけ。

 幼かった私は見たままの事を口にした――してしまった。


「ママ死ぬよ」


 私が「死」という言葉を発した瞬間、調理中の母を炎が包んだ。

 そのまま焼かれていく母を黙って見ていた。

 その様子を見た父が私を魔女と呼んだ。

 父は仇でも見るような顔でわたしに接し、私を物置蔵に閉じ込めた。

 蔵を閉める間際、憎しみの籠った眼が私を覗いていた。それが私の覚えている父の最後の顔――記憶だ。


 大人たちは皆私を疎んだ。

 私はいい子であり続けた。皆が怖がるから寿命を見ないことにした。それでも大人たちは私と喋ってはくれなかった。

 次第と口数は減り意が付くといつしか私は喋る事さえも億劫になっていた。

 そんな私に話しかけてくれる男の子がいた。歳は私と同じくらいだろうか。

 男の子はほとんど毎日、日々あった出来事を話してくれた。

 私も自分の事を話したいと思った。けれど私が声を出したら、目を開けたら、この子まで私を避けるようになるかもしれない。

 私は怖かったのだ。今以上に心が傷つくことが。

 だから私はこっそりと彼を盗み見た。

 すると寿命がもうすぐ尽きそうになっていた。

 助けなきゃ。そう思ったがどうすればいいのか分からなかった。

 母の時だって子どもながらに助けようとした。死が近づいていることを知らせた。でもダメだった。

 今度もまた……


   ***


 蔵の周りに大人たちが集まっていた。

 民俗学者だと言う男を呼んできたらしく、私を研究するのだとか。要は村の大人たちは私を売るのだ。厄介払いができると思ったのか、父は積年の恨みとばかりに私を罵倒した。


「この子は本当に呪われてるんだ! 今は目を閉ざしているが、この子は目が見えないわけじゃねぇ、喋ることだってできる。ただこの子と目が合った者、口を利いた者は死ぬ。それは確かだ!」


 父は未だに私が母を殺したと思っているらしい。

 民俗学者だと言う男が、私の「友達」と口にした時に気が付いた。彼が来てる。そして今日、彼は死ぬんだ、と。

 病気も何もない健康そのものの彼はもうすぐ死ぬ、それは知っている。

 だとすれば何かきっかけがあるはずだ。

 普段とは違う何かが彼の身の周りで起きてしまう。

 結局その何かとは私が原因だったみたい。

 魔女だと、呪われていると、皆が言うのもあながち間違っていないのかもしれない。

 現実に私は彼の寿命を縮めてしまっている。


 後悔はしたくない。

 私は目を開く。

 その眼に彼を捉える。

 彼の寿命はもうすぐ尽きる。彼だけじゃない。村の大人たちも、そして民俗学者だと言う男も、皆死ぬ。


 私の声は届くだろうか。


「逃げて」


 私は彼に向ってハッキリと口にした。

 彼は目を見開き、眉間に皺を寄せながらも意を決した面持ちで踵を返して駆け出した。

 伝わった。何かが変わる訳じゃないかもしれない。それでも――小さくなった彼の寿命は本来あるべき寿命へと戻っている。

 良かった。

 私は胸を撫で下ろした。

 そして最後に感謝の気持ちを口にした。届く筈はないけれど、言わずにはいられなかった。

 すると彼が振り返った。

 彼の顔が見えたと思ったら、視界が真っ黒に塗り潰された――。

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魔女と呼ばれた少女 小暮悠斗 @romance

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