#5
「――あの嬢ちゃんはあれからどんな調子だ?」
喫茶店でコーヒーを飲みつつ、猿渡は対面に座る立夢に尋ねる。
「特に変わったところもなく元気だよ。取り憑かれてた時のことはぼんやりとしか覚えてないみたいだけど、思い出すと気にするかなってことでテキトーに当たり障りのない範囲でだけ補足はしといた」
「ふむ、まあ大事ないならひとまずは安心した」
立夢の口から事後報告を聞くと、満足そうな笑みを浮かべてコーヒーを一口含む猿渡。
秋晴れの休日に二人が今こうして喫茶店で顔を会わせているのは、立夢が猿渡に旅行で買ってきた土産物を渡したいと連絡を入れたことに起因する。場所の指定に二人とも行ったことのあるこの喫茶店が選ばれ、一時間後には二人はいつかと同じ座席に座っていた。土産物を渡すと立夢は感謝の気持ちを猿渡に伝える。猿渡はそんな大層なと言うが、立夢にしてみれば二度も命を救われたのだからこれでも伝えきれていないくらいだった。
そんな話も一段落すると、今度は立夢の旅行のときの話が始まる。一部、猿渡にも話せないことはあったものの、いろいろと楽しんできたことを語った立夢。その中で一緒に旅行に行っていた倉崎の名前が出たことを受けて、猿渡は先ほどの質問を口にしたのだった。
「……あの霊は成仏できたのかな」
不幸の手紙のときのことを思い出した立夢はぽつりと呟く。
「さてな。それは俺も分からん」
その呟きに対して猿渡はすっぱりと益体の無いことを宣う。もうちょっと優しいことは言えないのかねこの人はと立夢は思ったが、猿渡の言葉には続きがあった。
「だがよ、お前さんみたいに案じてくれるヤツが居るならちっとは気持ちが安らぐんじゃねェか?」
「そうかな? ……そうだといいな」
それはやはり確証の無い言葉ではあったが、猿渡にそう言われると立夢はなんとなくそんな気がするのだった。
「……ま、あんまりしんみりすんなよ。生きてるヤツはもっと明るくいこうぜ?」
「何その微妙に似合わないセリフ。誰かの受け売り?」
「うるせェな。励ましてやってんだからそこは素直に頷いとけよ」
「はいはい」
猿渡の軽口で少し元気が出た立夢は笑顔を浮かべる。やっぱりこの人にはたくさん助けてもらってばかりだ。
それから二人はしばらく談笑に花を咲かせる。その様子を目にした者には、二人はさぞ仲睦まじい関係に見えていただろう。
立夢と猿渡のグラスの中の氷がカラン、と小気味の良い音を出した。
了
有楽島立夢の不条理 ジェネライト @Genelight
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