#93 久々の家族との遣り取りと、焼うどんの朝ご飯
夜営業の仕込み、そして営業が始まってしまえば、壱はスマートフォンを気にする余裕も無くなってしまう。
なので、家族にメッセージを送ってから、次にスマートフォンのチェックが出来たのは、寝支度を終えてからだった。
SNSアプリのアイコンの右上には、新たに数字が表示されていた。壱はアイコンをタップする。
家族グループに母親、そして妹からのメッセージが届いていた。妹からのものが多いのは、文字入力速度の違いだろう。
「本当に壱なの? 無事なの?」
「お兄ちゃん元気なの?」
「パパも心配してるよ!」
「どこにいるの? 異世界ってなに?」
「おじいちゃん? 本当?」
「お父さんがいたの!? どこ!?」
「帰れないってどういうことなの?」
1ヶ月も行方不明だった息子からの、兄からのメッセージ。しかも異世界にいると言う。混乱もするだろう。
壱は返信を打つ。
異世界って言われても意味わかんないよね。
でも本当のこと。
俺もじいちゃんも無事だし元気。
大丈夫だから。安心してね。
帰れないのは、異世界にいるから。
でも本当に大丈夫だから。
平和な村なんだよ。
これまでメッセ送れなかったのは、
送っていいものなのかどうかわからなかったから。
でもこっちの偉い人にOKもらえたから。
これからたまに送るね。
じゃあまた!
送信ボタンをタップ。
そして、壱が気に入って良く使っていたカピバラのシリーズのスタンプを追加した。身分証明のつもりである。
「こっちの偉い人」とは勿論サユリと茂造の事である。茂造はともかく、「こちらには喋るカピバラがいる」なんて伝えたら、家族の混乱はますます大きくなるだろうから、これは黙っていよう。
「家族から返事があったのだカピか?」
壱と一緒に部屋に戻って来て、とっととベッドに横たわっていたサユリに
「うん。やっぱり異世界とか意味判んないって。そりゃあそうだよね。混乱してるみたい」
「ま、仕方が無いカピ」
「まぁね」
だが、それも
とりあえず無事だと言う事は伝わっていると思うのだが。
さて、アプリを落として寝ようか、としたところ、新たに家族グループにメッセージが入った。妹からだった。
よくわかんないけど、お兄ちゃんもおじいちゃんも無事ならよかった。
こっちもみんな元気だよ!
またメッセ送ってね!
こっちからも送るね!
壱は返事として、「OK」と書かれているカピバラのスタンプを送信した。
さて、今度こそ寝るぞ。壱はスマートフォンを机の引き出しに仕舞う。
「おやすみ、サユリ」
「おやすみカピ」
そうして、ベッドに潜り込んだ。
一夜明け、壱はまた朝食を作る為にキッチンに立つ。
今朝は米を仕掛けていない。代わりに使うのは小麦粉である。
ボウルに小麦粉、塩少々、水を入れて、力を込めて練って行く。
しっかりと
その間に他の食材を取りに厨房へ。冷蔵庫から豚肉、棚からきゃべつ、玉ねぎ、人参を取り出す。裏庭からは玉ねぎの苗を。
上に戻り、早速
次に、玉ねぎは櫛切り、きゃべつはざく切り、人参は短冊切り、玉ねぎの苗は小口切り、豚肉は薄切りにして一口大にし、塩と白ワインを揉み込んで下味を付けておく。
さて、寝かせておいた小麦粉の
鍋を見ると、そろそろ湯が沸いて来た。
台と小麦粉の塊に打ち粉をして、綿棒で四角く伸ばして行く。厚さが5ミリほどになったら
さて、合わせ調味料を作る。味噌を水でクリーム状になる様に解き、砂糖を加える。
続けて
さて、調理開始。フライパンを火に掛け、温まったらオリーブオイルを引き、まずは豚肉を炒める。
しっかりと火が通って色が変わったら人参、玉ねぎを入れる。玉ねぎがしんなりして来たらきゃべつを加え、塩を振り、更に炒めて行く。
さて、そろそろ麺が茹で上がる時間だ。フライパンの火を止めておき、麺をざるに開け、しっかりと水洗い。麺同士を
後は仕上げなので、サユリたちが起きて来てからするとしよう。その間に洗い物を済ませておく。
すると茂造がキッチンに顔を出した。足元には眠たそうなサユリ。
「おはようの。今朝もありがとうの」
「おはようカピ」
「おはよう。すぐ出来るよ」
「ほいほい。じゃあ儂は支度をして来るからの」
茂造は洗面所に。サユリはテーブルの上へ。
フライパンを再び火に掛けて炒め直す。温まったら水をしっかりと切った麺を入れる。
具と麺がしっかりと絡む様に混ぜながら炒め、合わせ調味料を入れ、更に炒めて行く。
皿に盛って、玉ねぎの小口切りをぱらりと振る。
焼うどんの完成である。
今日は汁物は無しで
「ほう、味噌の芳ばしい匂いがするのう。焼うどんじゃの?」
茂造が嬉しそうに鼻を寄せる。サユリも鼻をひくつかせた。
「うどんと言うものは焼く事も出来るのだカピか」
「そうそう。焼いても美味しいよ。味付けもね、これは普通の味噌使ったけど、赤味噌にしたらまた変わるし」
「それもまた作ると良いカピよ」
「うん。今度ね」
フンと鼻を鳴らすサユリに、壱は微笑んだ。
「ではいただくかの」
「いただくカピ」
「いただきます」
問題は味である。うん、砂糖が入っている事もあって、合わせ調味料を入れた後は焦げやすかったのだが、それが良い味わいを出している。
鰹節も良い仕事をしている。我ながら素晴らしい味付けである。
「うんうん、旨いのう。やはり味噌が芳ばしくて良いのう」
茂造が嬉しそうに頷くと、サユリもふんふんと鼻を鳴らす。
「ふむ、焼いたうどんもなかなか良いカピ」
「気に入ってくれた? なら嬉しいな」
壱は嬉しくなって、ふんわりと微笑んだ。
さて、食べ終わったら、また慌ただしい1日が始まる。
この世界に来てからの1番の
と言いつつ、実際は普段の忙しさや楽しさに埋もれて、スマートフォンを眼にしなければ思い出す事が少なかったのではあるのだが。
これからは家族を安心させる為にも、出来る限りまめにメッセージを送る事にしよう。
まずは米の苗の水遣りからだ。みんなで世話をしているお陰で、かなり伸びて来た。もうそろそろ田んぼに植えられるだろうか。
そうなると田んぼに水を張らなければ。
「ごちそうさま!」
壱は空の皿を前に、手を合わせた。
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