#87 結婚式。そしてパーティ!
「カルとミルは夫婦になる事を決意し、こうして村人全員に見届けられて祝われた。寄って、ここにこのふたりを夫婦と認めます。おめでとうございます」
司祭であるタカアシが淡々と言い上げると、見届け人であり参列者である村人全員から歓声が上がった。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「幸せにな!」
口々に祝いの言葉を投げ掛ける村人たち。カルは照れ臭そうに口角を上げ、嬉しそうに微笑むミルの目元には、薄っすらと輝くものがあった。
サユリと並んで1番後ろで見ていた壱も「おめでとう!」と言い、惜しみ無い拍手を送った。
この世界、いや、コンシャリド村の結婚式は、驚く程にシンプルなものだった。
控え室代わりにもなっている食堂から、手を繋いだ新郎新婦が出て来、村人の拍手に迎えられながら花のアーチを
台の上に置かれている用紙に、新郎、新婦の順に署名をし、普段着の新郎とドレスの新婦を前に、司祭が先述の台詞を告げるのみ。
壱は元の世界でもあまり結婚式などに参列した経験は少ないが、司祭の話はもっと長かった筈だし、賛美歌斉唱や誓いの言葉、指輪の交換など、様々な行程があった。
ああしかし、一区切りと言う意味では、こういう式もありなのかも知れない。結婚したと言う自覚を持つには充分だろう。
大人はともかく子供でも退屈せずに祝いが出来るだろうし。
「これにて結婚の儀を終了します」
タカアシが言い軽く頭を下げると、前列にいた茂造がみんなの前に進み出た。
「では引き続き宴会じゃ。すぐに仕上げるからの。歓談などして待っててくれの」
その声と同時に壱、カリルとサントは列からするりと抜けて食堂の厨房へ。マユリたちも出来た料理を運ぶ為に動く。
「よし、では仕上げじゃ。少し急ぐかのう」
「うん」
「おう!」
パスタを茹でる湯を沸かす。温めが必要な料理を火に掛け、冷蔵庫に入れておいた物を使う順番に取り出して行く。
まずはカットしておいた鮭に塩
それを大皿に並べ、カットしたレモンを添えて、鮭のムニエルが完成する。
次に表面を焼いて蒸した豚肉をスライスして行く。出来るだけ薄く、薄く。
外側は焼き目も付いてしっかりとしているが、中も火はちゃんと通っているがほんのりとピンク色で、しっとりと柔らかい。美味しそうだ。
そうして切り分けたそれを大きな皿に綺麗に並べて行く。そして冷えたソースを添えて、ローストポークの完成である。
続けてパスタを茹でる。
その横で、フライパンにオリーブオイルを敷き、にんにくのスライスと唐辛子の輪切りをじっくりと炒める。
にんにくがじんわりと色付き香りが出て来たら、きゃべつを炒める。途中で塩をして、しんなりとし
火が通ったらツナを入れ、さっと混ぜ合わせる様に炒めたら、茹だったパスタとパスタの茹で汁を入れる。
しっかりと混ぜて、仕上げに塩。ツナときゃべつのペペロンチーノが出来た。
さて次。また大きな皿を出し、冷蔵庫から出したスライス玉ねぎを敷き詰め、その上に茹でたブロッコリと割いた鶏肉を彩り良く置いて行く。
それにオリーブオイルとビネガー、塩胡椒で作ったシンプルなドレッシングを添えて、蒸し鶏のサラダ出来上がり。
お次は
温めておいた牛肉、鯛や
「よっしゃ出来た! いいんじゃね? 旨そー!」
カリルが声を上げ、サントが頷く。壱もうんうんと首を振った。
「うん。旨そうに出来た!」
「ふむふむ、良い匂いじゃのう」
茂造も嬉しそうに鼻をひくつかせた。
「では運んで貰うかの。マユリたちいるかの?」
茂造がホールに向かって声を上げると、3つの返事が返って来た。
「出来たぞい。運ぶの手伝ってくれの」
「はーい!」
「はぁ〜い」
「は、はい」
マユリたちがまた返事をしながら厨房に入って来る。調理台に乗せられたパーティ料理の品々を眼にし、歓声を上げた。
「あらぁ〜、美味しそうねぇ〜」
「ホントだ! 楽しみ!」
「た、食べた事の無いものばかりで、で、でも、とても良い香りが、し、します」
「あ、そっか。マユリは村生まれ村育ちだもんね。ボク村に来る前に食べた事のあるものあるよ。美味しいよ!」
「た、楽しみ、です」
女性?陣は嬉しそうに騒いでいる。それを抑える様に茂造が大きく手を叩いた。
「ほれほれ、お喋りは後じゃ。みんな待っとるぞい」
「あ、はーい」
メリアンはウインクしてぺろっと舌を出す。
「ご、ごめんなさい!」
マユリは慌てて謝り、マーガレットも「ごめんねぇ〜」と肩を
「じゃあよろしく! マユリは1番軽いパンの
「は、はい」
サントの声にマユリが早速動き、籠に両手を伸ばす。するとメリアンから「えー?」と不満気な声が上がった。
「どうしてマユリだけ女の子扱いするんだよー」
するとサントは心底呆れた様に溜め息を吐く。
「メリアンもマーガレットも、んな格好してるだけで男だろうが。ぐだぐだ言って無ぇで、ほら、運べ運べ」
「むー」
メリアンはまだ不服そうだが、マーガレットがそんなメリアンの背中を優しく叩き、
「はいはいはぁ〜い、アナタはワタシみたいに心まで女性な訳じゃ無いんだからぁ、これ以上聞き分けの無い事言ってみんなに迷惑掛けていたらぁ、店長さんに怒られちゃうわよぉ〜」
マーガレットのその台詞にメリアンがハッと眼を見開き、顔を強張らせる。そのままゆっくりと首を回しその視線は、口角は穏やかに上げながらも眼が笑っていない茂造の顔へ。
「ごっ、ごめんごめん! ボクだって可愛いのにって悔しかったの! は、運ぶね!」
そう慌てて言うと、ローストポークの皿に手を伸ばした。
壱は一連の流れに苦笑しつつ、アクアパッツァの皿を抱えた。
これまで食堂では出た事の無い料理の品々に、村人は大いに歓声を上げた。
まずは乾杯なのだが、村人は料理に視線を向けながらそわそわしていた。
それが終わると、メインはカルとミルへの祝いの筈なのに、我先にと料理に群がる村人たち。
大量に作ってあるのでそう簡単に無くなる事は無い筈だが、壱はドキドキしながら村人の動きを見つめる。
そんな村人の群れにマユリを始め食堂のメンバーも混ざっていた。
何と無くマユリの動きを見ていると、マユリは皿に上品に料理を取り、群れから抜け出して新郎新婦に渡す。
成る程、こういうのを気が
「何をぼんやりとしているカピ。お前もとっとと取りに行くカピよ。我も食べたいカピ」
「あ、そうだねごめん。ちょっと待っててね」
壱が皿を手にテーブルに向かう頃には、村人は
大きめな取り皿を用意してはあるものの、全ての種類を乗せる事は難しい。壱はローストポークと蒸し鶏のサラダ、牛肉の赤ワイン煮込みに鰹のたたきと、残量が比較的少なめな料理を皿に盛った。
……おや、鰹のたたきが良く出ているのが意外である。壱が首を傾げると、「おう、壱!」と声を掛けられる。漁師のスルトだった。
「これがあの鰹なんだってな! さっきカリルから聞いてさ、
興奮した調子で一方的に
そうか、カリルが村人に説明してくれた様だ。壱がする隙は無かったので助かった。
「あ、ありがとう。俺の国の調理法なんだよ。気に入ってくれて良かった」
「おう! また作ってくれよな! おっと、食われる前に取っとかなきゃな!」
スルトはまだ料理が乗せられている皿に、鰹のたたきを追加した。食べ終わってはいないがたたきが無くなる前にと思ってくれた様だ。
そこまで気に入ってくれたのなら、出した甲斐もあると言うものだ。たまに食堂のメニューに、例えばサラダなどに添えても良いかも知れない。
それはまた茂造と相談するとして。
料理同士が混じり合わない様に盛り付けた取り皿を手に、壱はサユリの元に戻った。
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