#67 ほっこりティタイムと、サユリの気遣い
洗濯と掃除を終え、壱はダイニングにて、
壱が家事をしている間、サユリは壱の部屋のベッドで
茂造は紅茶が好きな様であるが、壱は珈琲が好みである。両方ともこの村では栽培されていないので、街で買って来る。
茂造はずっと紅茶だけを買っていたのだが、壱をこの世界に呼ぶと決まってから、買っておいてくれたのだそう。
壱の好みが判らなかったからである。
実際壱は珈琲の方が好きであった。紅茶も美味しいと思うのだが、元の世界でもあまり飲む事は無かった。紅茶党の妹が
しかし、この世界では珈琲1杯
壱たちの世界には、インスタントコーヒーと言う便利なものがあるが、この世界には無い。
豆を買って
その時に使うフィルターが、今でこそペーパーだが、以前は布だったらしい。なので今はかなり楽になったとは思うが、それでも家でドリップする事など無かったので、壱には手間に感じるのだ。
しかし小振りのドリッパーから直接カップにドリップ出来るので、洗い物などは紅茶を淹れるのと変わらない。そう思うと我が
そうして入れた珈琲も、カップに残っているのはあと1口ほど。その頃に茂造が戻って来た。
「ただいまの」
「じいちゃんお帰り。ノルドさんの家は? あ、紅茶淹れようか」
「それは嬉しいのう、よろしくの。うむ、ノルドの家の改装の算段は立ったぞい。その辺りはロビンたちに任せておけば大丈夫じゃ。彼らは職人じゃからのう」
「そうだね」
壱は茂造の紅茶と、珈琲のおかわりを煎れる為に、カップを手に立ち上がる。ついでに残りを飲み干した。サユリの皿を見ると、こちらも残り少なかった。
「サユリもミルク、おかわり
「頼むカピ」
壱は
次に珈琲のドリッパーにペーパーフィルターをセットし、珈琲の粉を入れておく。
そしてサユリの皿にミルクを足してやる。
「ありがとうカピ」
「うん」
その頃には湯も沸いて来る。壱はまず紅茶のポットに湯を入れる。
次に珈琲。少量注いでまずは粉を蒸らし、そして追加の湯を注いで行く。
珈琲が落ち切る頃には、紅茶も抽出されているので、カップに注ぎ、茂造の前に置いた。
「ありがとうのう」
「うん」
そして珈琲にはミルクを入れ、ミルク珈琲を作る。普段はブラックで飲んでいるが、たまには変化があっても良い。
椅子に掛け、1口。うん、甘くて美味しい。全くの無調整であるミルクの味が濃いので、程々の量で美味しいミルク珈琲が出来上がるのである。
砂糖などは入れない。元々珈琲もブラックで飲むので、その方が好みだと言うのもあるが、ミルクの甘みで充分なのだ。
「ふむ、紅茶も旨いが、また緑茶や麦茶も飲みたいのう」
茂造がカップを傾けながら、小さく息を吐く。
「紅茶と緑茶、ほうじ茶とか、葉そのものは同じもので、加工方法が違うだけだったよ確か。葉があれば作れるかも知れないよ」
「何と」
茂造が驚いた様に眼を見開く。
「麦茶も、この村で麦を育ててんだから、作れる筈だよ。多分
「頼んで良いかのう。飲めたら嬉しいのう」
茂造の頬が緩む。壱も日本人なので、緑茶も麦茶もほうじ茶も飲んでいたし好きだが、年代的に茂造の方が身近にあっただろうし、好きなのだと思う。
今は、食事中は水、食後にミルクを飲んでいるが、麦茶などは食事中にも合うお茶なので、作ってみても良いだろう。
さて、その頃にはミルク珈琲も残り少ない。時計を見ると、そろそろ夜営業の仕込み時間になろうとしていた。
「じいちゃん、そろそろ」
「おお、そうじゃな。仕込みに入るかの」
「俺洗い物してから行くから、先に行ってて」
「おお、ありがとうの。サユリさんはどうするかの?」
「我は壱と行くカピ」
「解ったぞい。ではまた後での」
茂造は言うと、厨房に降りて行った。
「さて、と」
壱は洗い物を始める。出涸らしをゴミ箱に入れ、スポンジ代わりの厚手の布に洗剤を付け、泡立てる。
そう言えば。
壱はカップを洗いながら、サユリに聞いてみる。
「サユリさ、いつも俺と一緒にいるよね。もしかしたら何か理由があったりする?」
壱がこの世界に来てから、壱ひとりで事足りる外出でも、サユリは必ずと言って良い程付いて来てくれていた。
米育成についても、食堂の営業時間に掛かるのなら、本来ならそちらにいなければならないだろうに、壱の
それは、壱がまだこの村に不慣れな内は、正直頼もしかった。そしてほぼ慣れた今でも、迷惑だと思った事は無い。
すると、サユリは溜め息を吐く。
「やはり壱は
「そうだったんだ」
確かに、この国は壱たちの世界で言うところの、暖かな春の様な気候だ。だがそれ以外に、壱たちに合わない要素が無いとは言い切れない。
「茂造は我が見たところ、もう全く問題が無いから大丈夫だカピが、壱はまだこの世界に来て20日足らずカピ。もう
「迷惑だなんて思ってないよ。癒されるし、話し相手もいて楽しいし。これからもよろしくね」
「うむカピ」
サユリはそう言い、鼻を鳴らした。
するとまた、もうひとつ疑問が。
「その事、じいちゃんは知ってるの?」
茂造は行動の際には、必ずサユリにどうするかを聞いていた。
「知らないカピ。わざわざ言う事でも無いカピ。茂造はのんびりしているカピ、壱みたいには気付かなかった様だカピ」
「成る程な」
壱は可笑しそうに笑いながら、洗って泡だらけになったカップなどを水で濯いで行った。
夜営業の仕込み、そして営業も
「あ、あの、て、店長さん、あの、ノルドさんと、ロ、ロビンさんたちが来られました。い、一応お知らせして、おいた方が、良いかと、思って」
ノルドの境遇までは知らせていないが、ここの新しい村人になる事、医者で診療所を開業する事は、既に村人には
「おお、ありがとうの。済まんが少し抜けるからの」
先はマユリに、後は壱たちへの台詞である。
「うん」
「オッケーすよ」
壱とカリルが返事をし、サントが頷くと、茂造は「うんうん、ありがとうのう」と言いながら、フロアに出て行った。
営業はまだ続いているが、ピークは過ぎて、注文は落ち着いているので、壱たちだけで充分に回る。
そして茂造は10分も掛からず戻って来た。
「あれ、じいちゃん、大丈夫なの? ノルドさんたち」
壱が聞くと、茂造はほっほっほっと笑う。
「大丈夫じゃ。家の改装の事はロビンたちに任せておけば問題無いからの。もう明日から早速改装を始めるそうじゃ。医療器具もドワーフたちが作ってくれるらしいからの。そう間を置かずに診療所を開けられると思うぞい」
「凄い順調だね。話進むの早いなぁ」
「そんなもんじゃ。当事者しか話に関わっておらんからの」
「あー」
確かにそうだ。第三者が加わるとややこしくなる。構図としては、責任者と業者の話し合いで全てが解決するのだ。
壱は会社勤めなどの経験は無いが、話には聞く。下手に大勢で会議をしたところで、何も決まらないと。あらゆる思惑が
それらは人の欲と、見当違いの善から来るものなのだが、それらを良い
「じゃあ良かったね。医者がいたらみんな安心だもんね」
「そうじゃの」
壱の笑みに、茂造も穏やかに笑った。
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