#61 味噌肉じゃが定食の朝ご飯
さて朝になり、壱はまた朝食を作る為にキッチンに立つ。
何を作ろうか。しまった、考えていなかった。
とりあえず食材を見ながら考える事にしよう。壱は厨房に降りる。
冷蔵庫を開け、棚も見て。よし、決めた。
壱は冷蔵庫から牛肉ときゃべつと卵、棚から玉ねぎとじゃがいも、人参を取り出し、上に戻る。
まずは
米も炊き始める。
まずは野菜を切る。じゃがいもの皮を
米の鍋が沸騰し出したので、火を調整する。
さて、昆布を入れた鍋を火に掛ける。
牛肉を適当なサイズに切っておく。薄切りが望ましいか。
昆布の鍋が沸いたので、火を止め、鰹節を入れる。
鰹が沈むまでの間に、鍋にオリーブオイルを引き、櫛切り玉ねぎを炒める。しんなりしたら牛肉を追加。
牛肉が炒まったらそこに水切りしたじゃがいもとにんじんを入れ、ざっくりと炒め、出汁をひたひたに入れる。既に鰹節は沈んでいた。
汁物用の出汁はキープしてあるので、こちらも鍋に入れ、火に掛けておく。
牛肉の鍋が沸いて来て灰汁が出て来たので取って。そのまま少し煮る。
汁物用の出汁が沸いて来たので、きゃべつとざく切り玉ねぎを入れ、中火で煮て行く。
牛肉の鍋に味付けをする。砂糖、塩、味噌。味噌は控えめに、砂糖で甘み、塩でアクセント。味見をしてみると、悪く無い。
布で落し蓋をして、中火弱で煮込んで行く。
米が炊き上がった様なので、火を止めて、
出汁に使った昆布を角切りにし、これも出汁の鰹節と合わせ、味噌と砂糖で味を付け、炒め煮にする。
汁物の鍋を見ると、玉ねぎもきゃべつも大分しんなりして来た。
後は仕上げだろうか。砂糖と塩で味付けをする。
「ほい、おはようのう」
このタイミングで茂造が起きて来た。
「じいちゃんおはよう。サユリよろしくね」
「ほいほい。今朝もありがとうの」
茂造が場を離れ、壱は仕上げに入る。
卵を解し、強火にした汁物の鍋に流し入れる。ふんわりと火が通ったら極弱火に落として。
牛肉の鍋に掛けていた落し蓋の布を取ると、素材がじんわりと色付いていた。味噌の効果だろうか。
作りたいのは肉じゃがである。本来なら酒や醤油などを使って作るものであるが、無いので、現時点で使える調味料で代用してみる。
どれだけ味が染みているか。不安ではあるが、時間も無い事なので上げてしまう。
隙間に彩りになる人参の葉を入れて、さっと火が通ったら出来上がり。サラダボウルに盛った。
汁物、玉ねぎときゃべつと卵の澄まし汁をスープボウルに注ぐ。
出汁殼の昆布と鰹で作った
米をズープボウルに盛り。
テーブルに並べて、朝食の出来上がりである。肉じゃが定食と言ったところか。
茂造が戻って来た。足元には欠伸をするサユリが。
「おはようカピ」
「おはよう。今日もサユリには新作の朝ご飯だよ。肉じゃが作ってみた」
「おお、懐かしいのう」
茂造が嬉しそうに笑いながら椅子に掛ける。サユリもテーブルに上がった。
「醤油とかが無いから、味噌味なんだけどね。肉は、昨日豚食べたから、牛で」
「ほう、牛は珍しいかの? 儂が食べておったのは豚が多かった気がするがの」
「各家庭の好みもあると思うけど、東の地域は豚、西の地域は牛が多いらしいよ。俺はどっちのも旨いと思うけど」
「そうじゃの。どちらの肉も旨いのう。楽しみじゃ。おや、
茂造が料理の手前に揃えて置いてあった箸に気付いて、早速手にする。昨日持って帰って来てから、壱の部屋で顔料を乾かす為に机に置いていた。
「うん。昨日取って来た。持ち手の所に色塗ってるから。黒がじいちゃん、緑が俺。出す時注意してね」
「おお、本当じゃ。ん? 少し縁が歪んだりしておるの」
「それ塗ったの俺。ロビンさんならもっと綺麗に濡れたんだろうけど」
壱が照れ臭そうに言うと、茂造はほっほっほっと笑った。
「成る程成る程。味があって良いのう」
「壱は器用なのか不器用なのか、良く判らないカピな」
サユリがそう言い、首を傾げる。
「包丁は器用に使うカピが、箸を塗る手付きは不慣れなものだったカピ」
「学校の授業ぐらいでしかした事無かったから、慣れて無いんだよ。でもじいちゃんにそう言って貰えたら嬉しいよ。じゃ、食べようか」
「はいはい、頂きます」
「頂くカピ」
「はい、どうぞ」
壱も箸を手にし、まずは汁物を。やはり醤油が無いので、物足りない気もする。しかし玉ねぎときゃべつからも甘い味が出て、卵が巧く
次は味噌肉じゃが。じゃがいもを割ってみると、火は中までしっかり通っていてほっくりしているが、色までは完全に染みていない。
だが口に入れてみると、出汁は中までしっかり染みていて、味付けは外側のしっかりした味が来るので、丁度良い。
「うむ、肉じゃが旨いのう。儂が
「うん、味噌は万能の調味料だよじいちゃん。でもなぁ、もうちょっと強めの味付けにも出来たら、あ」
強い、で思い出した。
「赤味噌作りたいな」
「おお、確かに赤味噌はこの味噌よりも味が強いかのう」
「味噌は他にもあるのだカピか?」
サユリが肉じゃがを
「あるよ。これは米の淡色味噌なんだけど、赤味噌は豆味噌で色もこれよりかなり濃くなる。うちの蔵でも作ってるよ」
「味も違うのだカピか?」
「違うねぇ。ちなみに白味噌もあるよ。これは甘いんだ。日本では正月の雑煮に使うイメージが強いかもだけど、うちでは良く飲んでたなぁ、白味噌の味噌汁」
壱の家では、白味噌に赤味噌に淡色味噌を、味噌汁や料理に大いに使っていた。白味噌の味噌汁も良く飲んでいた。鶏肉や白菜などを入れた、優しい甘さの味噌汁だ。ちなみに赤味噌味噌汁の鉄板は
他に白味噌は和え物の衣になったり、酢味噌や田楽味噌を作っていた。
「なら、白味噌も作ると良いカピ」
サユリが言うと、壱は眸を輝かせた。
「良いの? またサユリの魔法に頼る事になるけど!」
「構わないカピよ。時間魔法くらいカピ? なら簡単なものカピ」
「嬉しいなぁ! ありがとう!」
壱はサユリに手を合わせた。サユリは得意げに鼻を鳴らす。
「今はそれよりも、朝ご飯カピ。この肉じゃがと言うのはなかなかカピ。じゃがいもや人参は味噌汁に入っていたから、相性の良さは知っていたカピが、牛肉も味噌ととても合うのだカピな。米と佃煮の相性も相変わらずだカピ。汁物も野菜が甘くなっていてなかなかカピ」
そう言いながら、嬉しそうにがっついていた。
「なら良かったよ。赤味噌が出来たら、この肉じゃがももうちょっと俺らが今まで食べていたものに近い味に出来ると思うし、メニューも増えるよ」
「それは楽しみだカピな」
サユリは言うと、眼を細めた。
「儂も楽しみじゃ」
茂造も言うと、また嬉しそうに笑った。
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