講演「セキュリティ業界のネタあれこれ」 長崎県立大学 教授 加藤雅彦氏
名和さんの講演が終了し、次に登壇されたのは長崎県立大学で教授をされていらっしゃる加藤さん。
50代前半くらいの優しそうな男性でした。1990年代の中頃から情報セキュリティ関連の仕事に従事されているそうで、今回のサイバー小説コンの副実行委員長としてコンテストに携わっていらっしゃいます。
大学の人だけあって、スクリーンに映し出されたパワポの資料やトークもどことなくゼミみたいです。
ゼミと言っても授業っぽいという意味ではなく、フォントが大きかったりスライドの中にクスっとするネタを入れていたりする「大学みたいなノリ」、と言ってなんとなく伝わるでしょうか。
名和さんが少し固い話だったので、余計にそう感じたのかもしれません。
――
講演の最初に簡単な自己紹介を済ませた後、出だしの内容として語っておられたのが、『セキュリティという題材の扱いにくさ』についてです。
コンテストに参加しようと考えている、またはもうしている方も日々実感されているだろうこの”難しさ”。
これは創作の話だけではなく、現実でも直面する問題でした。
加藤さんが仰っていた具体例として、「研究室の部屋」というものがあります。授業で使ったりする部屋です。
天井から吊るされた複数の大型モニタと画面の中に浮かぶ幾何学的な図形。
部屋も全体的に暗めで、生徒が整然と並ぶような一般的な教室とは異なる自由な間取り。
長崎県立大学の部屋を写真で見ましたが、情報セキュリティという分野らしい風景でした。
さて、唐突ですがここで質問です。
――セキュリティらしさ、とはなんでしょう?
このイメージを一概に説明できる方はいらっしゃらないのではないかと思います。
単純にサイバーセキュリティの攻防を視覚的に把握しづらいためです。
これは上述の「研究室の部屋」にも同じことが言えます。
取材で来たマスコミのレポーターの方が部屋の様子を見て、「ここがセキュリティです」と発言しても意味不明でしょう。
つまり、そもそも映像にしにくいのでニュースで取り上げられにくい、そして何をやっているのかイメージしづらいという事を話されていました。
私はこの話を聞いて、だから小説にもしにくいと思う方が私を含め多いのだろうなと思いました。
物書きの方が文章を書く際のコツのようなものに以下の話があります。
「頭の中で映像を思い浮かべ、その動きや流れをトレースする形で文章に起こす」
自分の好きなシーンをアニメやドラマのような形で具体的にイメージする事で、細かい描写やリアルな動きを表現するものですね。
ここまで言えば私が何を言いたいのか分かるのではないでしょうか。
そう。「サイバーセキュリティ」という映像としてのイメージが湧きにくいから、そのお題の小説を書きにくいと感じている。
私は加藤さんのお話を聞いてそう考えました。
では、どうすればいいのか。
正直な話、それが分かったら苦労しませんよねえ……。私が知りたいので誰か教えて下さい。
気を取り直しまして。
そんな袋小路に差す蜘蛛の糸になるかもしれないのが、いあわゆるネタでしょう。
具体的な知識、過去に起こった事例、将来的に期待されているものetcetc。
様々なネタを集め自分なりの「サイバーセキュリティ」を形作っていくのが王道だと思います。
加藤さんの講演はそんなネタになりそうな記事を集めて頂いた、「JNSAネタリンク集(http://www.jnsa.org/novel_contest/link.html)」について主にお話されたものです。
まず、小説で扱う技術の前提として『あまりにも誤った情報知識を小説内で扱うのはNG』という事を挙げられていました。
これはコンテストの目的の一つが、サイバーセキュリティの正しい知識を読者に伝える事だからです。
しかし、細かい点まで正確である必要はないとも仰っていました。この事については後のパネルディスカッションの際でも触れていたので、その時に詳しく記述します。
さて、ネタ集には『基礎知識』、『記事』、『長めのレポート』の三種類が置かれています。
この基礎知識の項目ではセキュリティの技術に関する基本的な情報を載せており、リンク先もコンテストの協賛社など、ある程度技術的に検証されたものが掲載されているサイトであるため信頼性があるとの事でした。
しかし、基礎知識だからといって簡単ではないとも。
コンテストには物書きのアマからプロまで参加できますが、そもそも小説なんて書いた事がないという業界関係者の参加者もいらっしゃいます。
そういった業界の方から見ての基礎という訳ですから、簡単に理解できる内容とは限らない。
早速、壁に突き当たってしまいましたね……。
加えて長めのレポートには直近の技術レポートが含まれているため、リアルな現状を把握する助けになると語っておられました。
つまり、専門的な内容な訳ですね。
私みたいな素人が読んでも理解できないんじゃないかなあ……。
割と真剣にそう思っています。
しかーし!
そんな私でも理解できそうなものがこちら。
『記事』です。
恐ろしい事件から夢のある話まで様々なネタが転がっており、貴方の
加藤さんはお話で「GIGAZINE(http://gigazine.net/)」というサイトを紹介されていましたが、その後にフヅキさんがJNSAのリンク以外にも下記のサイトが参考になると挙げておられました。
・THE ZERO/ONE(https://the01.jp/)
・DIZMODE(https://www.gizmodo.jp/)
・TechCrunch(https://jp.techcrunch.com/)
個人的には、これらネタサイトを漁った時に出てくる疑問点や不明点を基礎知識や長めのレポートで解決する、という流れが一番素人には優しいんじゃないかなあ、と考えています。もちろん、先にガッツリ基礎知識を勉強したりしても良いと思いますけどね。
ただ、コンテストは応募期間が決まっていますので執筆と資料収集のスケジュールは計画的に――ええ、自分への戒めですよ。
次にお話されたのは「業界あるある」。
私にとってはそういった話を聞く機会など中々なかったので面白かったです。
1つ目は”言えない事が多い”。
特にお客様に関係するような話などは口外できません。しかし、そういった時に限ってドラマティックな展開が多いと聞いて余計に気になってしまいました。
これは業界の方で例え知っていたとしても小説には活かしにくいんでしょうかね?
私としては直接その話をする訳ではないですし、似たような事例を創作してしまえば知っている人をニヤリとさせられる美味しいネタだと考えてしまいます。
まあ、どちらにしろ内容を知りませんし私はどうしようもないんでけど。
続いて2つ目は”仕事が地味”。
これは牧野麻也様(https://kakuyomu.jp/users/kayazou)のエッセイ「サイバーセキュリティと私(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885558651)」でも語られていました。
コンテストに応募される作品についてあれこれと奮闘する様子が描かれている素敵なエッセイなんですが、牧野様は現役のITエンジニアという事で、「誰にも褒められない」と本文中でも話されています。
やはり、業界あるあるなんでしょうね。知ってしまうと感謝と罪悪感が芽生えてきてしまいます。
こうやってカクヨムに投稿できたりするのもエンジニアの方々のおかげです。
本当にありがとうございます。
また、仕事が地味である弊害(?)として、人材不足、業界が狭い、閉鎖的なども挙げられていました。
しかし、閉鎖的というのは「セキュリティ」という分野上、お互いの信頼関係を重視する傾向があるためらしいです。
他の業界とは違う、特殊な匂いがこちらにまで漂ってきました。踏み込むのになんとなく覚悟が必要です。(笑)
3つ目、”カタカナと2~4文字の略語が多い”。
個人的にはこれが一番の問題だと思っているのですが、とにかく略語が多くて素人にとっては何を言っているのかチンプンカンプン。
知らない単語を調べにいったら知らない単語で説明されてるとか……、知らないものは分からないし、思い浮かびもしないんですよ!
しばらくすると、「あれ、何を調べてたんだっけ?」みたいな状況に陥ります。
wikiとかでよく起こる現象ですけどね。小説のネタを調べ始めると、いつの間にか全然違う項目見ている事とかしょっちゅうあります。物書きあるある。
最後の4つ目は”「自分だけがマトモ」だと思っている人が多い”。
あたかも自分が常識人であり、周囲は非常識であるていで話を展開するそうです。
よく言いますよね、本当に変わった人は自分を変だとは認識していない、みたいな事。
自分の周囲がそんな人ばかりだったら……ちょっと嫌だなあ。(笑)
以上で加藤さんの講演は終了しました。
名和さんの時は内容が内容だけに皆さん真剣な雰囲気で聞いていましたが、加藤さんの話は打って変わって和やかな空気感でしたので、いい意味で肩の力が抜けたと思います。
この時点で15時15分。ほぼ予定通りでした。
次に行われたのが『パネルディスカッション 「サイバーセキュリティ小説はこう作れ!!」』です。
先に講演された御二方にJNSAの本川さんとカクヨム編集長の河野さんを加え四人で小説の作り方についてお話されました。
恐らく、本エッセイを読みに来ていただいている皆さまにとって一番実用的な内容だと思われますので、出来る限り詳細にまとめていきたいと考えています。
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