パネルディスカッション 「サイバーセキュリティ小説はこう作れ!!」
加藤さんの講演が終了すると壇上のセッティングが行われます。
セッティングが終了するとJNSAの本川さん、先に講演を行った名和さんと加藤さん、そして我らがカクヨムの編集長河野さんの4人が登壇し、パネルディスカッションが始まりました。
本川さん、加藤さんが聴者から見て右側に、名和さんと河野さんが左側に別れて着席しており、河野さんが一般的な小説の作り方・注意点についてお話を展開。それに対して「サイバーセキュリティ」という視点からどういった考えがあるかをパネラーの三人へ河野さんが質問していく、という形式です。
始めはコンテストの現在の状況について。
コンテストには140作品(5/10現在)が応募されており、そのほとんどが『ハッカー』、『ハッキング』を扱ったものである事。
カクヨムとして応募作に期待しているのは『エンタテイメントとして突き抜けている作品』などと話されていました。
お話からなんとなく応募作品への期待値が高い事を伺えます。
ハードル高いなあ……。
それはさておき、講演は大きく分けて4項目――テーマ、キャラクター、ストーリー、世界観――から構成されていました。
一つ一つについて出来る限り細かいメモを残しましたので、今回は対談形式で記述していきたいと思います。
ではどうぞ。
――
*以下、河野さんの発言を地の文とし、質問に対して発言したパネラーの頭文字を文頭に付けていきます。ただし本文は簡潔さを求めたものであるため、本文の文体と各人の口調とに関連性はありません。
本川さん:本
名和さん:名
加藤さん:加
《1.テーマ》
作品を作っていく上で欠かせないものとして「テーマ」を挙げられる。
今回のコンテストでは「サイバーセキュリティ」というテーマを掲げているが、作品は一つのテーマだけでは構成されていない。
加えて、読者に共感してもらい作品世界へ没入してもらうため、テーマには普遍的なものを据える必要がある。
例えば、ボーイ・ミーツ・ガールや友情、恋愛など。
また、よくある事として書き始めと書き終わりで着地点(テーマ)が異なっている事がある。
これはプロの作家でも稀に見られるため、自分が書きたい事は何なのか一言で作品を表現できるようにする事を常に意識しておいて欲しい。
では、どうすれば「サイバーセキュリティ」と「普遍的なテーマ」を絡めることができるだろうか?
加:
よくある題材として「AIとの恋愛」がある。他にも「AI vs AI」といった記事がJNSAネタ集のリンクにあったと記憶しているので、そういった記事をネタとして活用できると思う。
本:
私たちはスマホなどで現状――例えば、バスや電車が今どこにいるのをリアルタイムで検索できる時代にいる。つまり、普段からこういったデバイスを通じてネットにアクセスし続けている訳で、それが日常になっているという事。
この日常的に使っている媒体にちょっとした違和感(バグ)を持たせ、後々にそれが大きな事件へと発展していくなんて展開は個人的に面白そうだと思う。
名:
(本川さんの話をうけて)日常の中に潜む脅威というのをコンゲーム(*1)小説にすると面白いと思う。
*1――コンゲーム:相手を信用させて詐欺をはたらくこと。また、策略により騙したり騙されたり、ゲームのように二転三転するストーリーのミステリーのジャンル。(はてなキーワードより抜粋
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B3%A5%F3%A5%B2%A1%BC%A5%E0)
《2.キャラクター》
作品において伝えたい事がテーマならば、そのテーマを物語として語るのが「キャラクター」。
そのため、キャラクターの造形で物語の方向性が決まるといっても過言ではなく、キャラクターを作りこむためにはそのキャラの背景を考えなければならない。
「サイバーセキュリティ」というテーマを扱うと、やはりどうしてもハッカーという存在が出てくる事が多くなってくると思うが、具体的なハッカーという人物像とはどのようなものだと考えているか?
本:
そもそも主人公がハッカーである必要性はない。以前質問を受けたのでここで共有しておくが、読者層は10~20代の若い男性を想定している。そのため、セキュリティに詳しいおじさんを主人公にするよりも、無知な高校生など読者が共感しやすそうな人物が主人公の方が良いと考えている。
ヒロインとして登場する少女がスーパーハッカーでもいいし、そういった形で主人公の周囲の人間に詳しい人物を配置していいと思う。
加:
人物を深堀していく際に考えて欲しいのは何故、サイバーセキュリティに携わっているかという事。先にも述べたが仕事は地味だし、褒められないし、危険だしとあまり良い事がない。
しかし、それでもやっているのは何か信念を持っている事が多い。その部分を考えていけば、リアリティのある人物像になるのではないか。
名:
サイバーテロなどの犯罪を起こし逮捕される人物は、技術が身近にありすぎて「それで何ができるのか」を理解できていない、すなわち犯罪性への自己認識が低いパターンが多い。そのため、物語ではハッカーの生い立ちについても考えてみて欲しい。
ちなみに、「ハッカー 公安」で検索してみると、色々な事例が存在しているので参考にしてみるのも良いと思う(*2)。
*2――名和さんのお話の一例として私が見つけた記事を載せておきます。
『「日本政府を攻撃する」公安を震撼させた少年ハッカー 普通の子供が「アノニマス」にあこがれた末に暴発したナゾ』(産経WEST)
https://www.sankei.com/west/news/160217/wst1602170006-n1.html
本:
それと、業界の人はボランティア的思考の人が多く、会社の人から「会社のためにならない」と愚痴を言われた事もある。
加藤氏の話にも関係するが携わっている人のモチベーションは人の為とかで、お金や会社のために働く人はあまりいない。
名:
歴史に学ぶ事も多く、将来の危険を予測できる事も多々ある。そのため、父とし
て自分の子供を守りたいという想いが私は強い。
加:
(二人の話を受けて)必ずしも正義感だけではない。
ちなみに、パネラーの三名は皆業界に長く携わっているが、そもそも業界へと踏み込んだその切っ掛けは?
本:
システムの仕事をやっていると誰も触らない、触りたがらない部分がどうしても出てくる。それがセキュリティ分野。誰もやらないから何となく自分でやっていたら、いつの間にかそっちの道に進んでしまっていた。
そもそも、若い頃は「セキュリティ」という分野が存在してなかった。雑用のイメージが強い。
加:
セキュリティでの攻防は一見地味だが、攻撃を受ける側は一方的にやられっぱなし。それが嫌でなんとかしたいと思いこの道に進んだ。
名:
勘違いした上司による命令でやらされたのが切っ掛け。(笑)
《3.ストーリー》
テーマとキャラクターを活かすも殺すもストーリー次第で、エンタテイメント作品においてカタルシスは特に重要。
クライマックスをどうするか、そこに至るまでにどういった出来事を起こすか、ストーリーの起承転結を意識してみる。
また、全体としての構成だけでなく、カクヨムというWEB小説は1話毎の区切りにも気を遣う必要がある。
次の話をクリックして貰えるように各話でも見せ場を用意した方が読者を作品へ引き込みやすい。
ただし、この構成を意識しすぎて作者の都合で物語を動かしてはいけない。
キャラが起こした行動、それで何がどうなるのかといったストーリーライン。これらが無理なく合致しなくては読者に違和感や不快感を与えてしまう。
今までの話を覆すようだが、だからと言って理路整然としてもテーマがサイバーセキュリティな分、技術書のような作品になってしまう。
エンタテイメント小説なのだから面白い話ありきで、その中にサイバーセキュリティを上手く盛り込んで欲しい。
では、どのようにすれば上手く「サイバーセキュリティ」というテーマをストーリーに埋め込むことができるのか?
名:
デジタルフォレンジック(*3)を用いた推理小説なんかが面白いのではないかと思う。物語に警察の鑑識役なんかで登場させても良いのでは。
*3――デジタルフォレンジック:犯罪捜査や法的紛争などで、コンピュータなどの電子機器に残る記録を収集・分析し、その法的な証拠性を明らかにする手段や技術の総称。
(IT用語辞典 e-Wordsより抜粋
http://e-words.jp/w/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%83%E3%82%AF.html)
本:
(名和さんの発言を受けて)デジタルフォレンジックの場合、証拠が先に集まるので犯人の動機は分からない。容疑者が何人かいて、その中から一人を特定する手段として使う。
物語でよく「最後にどうなったかよく分からず終わるパターン」があるが、個人的には最後はハッキリして欲しい。
加:
ストーリーラインの話をしていたが、現実では唐突に状況が変わる事はよくある。小説でもちゃんと順序立てた構成を意識しすぎず急展開を用意するのもありではないか。
名:
『スノーデン』や『ブラックハット』などの映画はかなり忠実にハッキングの手段を再現していて、ハニートラップで警備員を騙しウィルスを仕込むなどの手法はリアリティがあると思う。
《4.事実・技術の取り扱い方(世界観)》
サイバーセキュリティというテーマの性質上、世界観は現代、もしくは近未来である事が多いが、どこまでが現実でどこからが創作なのか、その線引きををしっかりつける。
ファンタジー設定だと世界観を語らなければならないし、現実の技術でも一般的に有名でないのなら解説する必要がある。しかし、説明ばかりでは読者も飽きてしまうのでそのバランスは大事。
事実・技術は現実に準拠したものが基本ではあるが、エンタメ作品として嘘をつくときは大胆について欲しい。
この事実と嘘のバランスはどの程度が良いと考えているか?
本:
知識は知っているものから広げた方がいい。例えば普段使っているスマホやパソコンについての知識など。
最近の作品で異世界に行った当初、スマホが圏外表示になっている事でそこは異世界であると表現をする事があるが、いつも不思議に思うのは時間同期はちゃんとしている点について。パソコンなどの時間はネットを介して時間を同期させているので、異世界だとスマホで時間の確認もできないはず。
加:
(本川さんの話を受けて)技術をある程度リアルにすると逆に細かい所が気になってきてしまう技術者も多いはず。某空想科学作品は個人的に気になって仕方ない。
リアリティを追求しすぎて煩雑な設定になってしまうのなら思い切って大ウソをついて欲しい。
名:
技術的にリアリティのある嘘を上手くついているのは映画の『ボーン』シリーズや『ミッション・インポッシブル』なのでオススメ。
――
以上でパネルディスカッションは終了しました。
パネラーのお三方が結構具体的にお話をされていたのでとても参考になります。
特に名和さんは映画が好きなのか、いくつか作品名を挙げて頂けたので詰まった時の気分転換にも使えそうですね。
小説に重要な4点を中心にしたディスカッションでしたのでメモを取りやすかったですし、話の内容を理解しやすかった点もありがたかったです。
この場を借りて登壇者の方々にお礼を述べたいと思います。
貴重なお話をありがとうございました!
この後は全体質疑応答と個別の質疑応答に移りますが、長くなってしまいましたので今話はここまでです。
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