第三部
Capture08.三界崩壊~新世界ヘルヘイム~属さない台地グニパヘリル
第28話 神の墜ちたその先に。
悠久とも呼べる数千年の時の中で、領土を奪い合った宿敵が落命した時、後に残された者は何を想うのだろう。安堵か、憂いか、落胆か、失望か。
あるいは歓喜。
胸を支配する感情がそのいずれにしても、コットスの最後について言及する者は居なかった。信じ難い青天の霹靂は、大いなる主神の言葉さえも奪ったのである。粗暴なブリアレオスも、深長なギュゲスも、この事態を容易く受け入れることは出来ない。
そもそもコットスの絶命を、誰かから伝え聞いたわけではないのだ。
しかし
生命の原木ユグドラシルの胎内が、未だかつてないほど激しく脈打った時に。
人智を越え、摂理を越え、神々の
「在り得るのか? いや、在り得てなるものか。このような天変地異は、我の
精霊界ドヴェルグの中央に位置する針葉樹林。その中でも一際高く聳えた針葉樹の頂点に座したギュゲスは、久方ぶりに喉を震わせた。遙かな遠方で猛威を振るった
だが、あれとは似て異なるものだ。何故ならば先ほどの現象は、空虚でもなければ無秩序でもないのである。
主を失った天界のみを滅ぼすという明確な意志をもって、ユグドラシルの再構築は展開された。ならばそれは、一体誰の意志か──。
そこまでを考えて、ギュゲスは思考の糸を断ち切った。自身の呪われた霧の身体をちらと一瞥し、自嘲気味に笑む。
「構わぬ。全て不毛にして全て不要。誰に呪われた身体なのかも
瘴気を孕んだ風が吹き抜け、ギュゲスの頭部以外は空気中に霧散した。窪んだ
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木樽一杯分の蜜酒をかっ喰らい、ブリアレオスは灼けるような喉の渇きを潤す。万年氷壁ヴァニラで散らされた無数の
彼が抱いているそれは、生きるためのものとはまた違った欲である。獣欲とはかけ離れた場所に在るその何かは、時に行き場のない感傷を誘う。
こうして一人静かに酒をあおる時、何者かに覗かれているような心許なさが確かに在った。仄暗い深淵の向こう側で、彼の知らない彼が自問自答を繰り返している。
──何かを忘れてはいないか。
混濁しかけた意識の底に、煌めいては消えていく
──何かを忘れてはいないか。
渦を巻いて繰り返す言葉は、酩酊の海を漂っている。その酩酊は、やがて狂酔へと。それも致し方ないことだろう。
ごろりと寝転がれば、背中の水疱が潰れて白濁した汁を流した。先ほどから続いている微かな振動が、ブリアレオスを心地よい眠りへと
──そうか。また二つになっちまったのか。
胸の奥底で何かが引っかかったが、睡魔に勝るものではなかった。そもそも悠久を生きる神々に、考える力など不要なのだ。何かを切り捨ててしまわなければ、およそ数千年という
そう例えば、絶命を乞い願ってみせたウィヌシュカのように。
ブリアレオスは眠りに落ちる。世界が創り変えられていく際の鳴動に合わせて、誰に焼かれたのかも解らない肉体がズクズクと痛んだ。
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