第3話 転生の女神は死の女神を欲する。
熟練の王クレイの断末魔が、そのまま開戦の狼煙となった。
王の間に侵入した無法の女神を排除すべく、次々に攻め寄せる
武神と見紛うほどに猛々しいウィヌシュカの背後には、無数の
小柄なリュイリィが両腕で抱える
「あは、大量大量。ユグドラシルの良い肥やしになるね」
「悪趣味な循環だ。崇める神が
「素直に落ち込んでくれるかな? 虫けらたちの逆恨み──、
二人は軽口を叩き合いながらも、完璧なコンビネーションを誇っていた。それはさながら、舞踏会で披露されるデュオダンスのように洗練された殺人劇だ。
スクルドの城内には──、そして
一つ残らず、刈り取るのだ。一つ残らず、一人も残さず。
神がこんなにも無慈悲で、身勝手な健啖家だと語り継がれてしまわないように。
ウィヌシュカは
か弱い人間どもを蹂躙するたび、傲慢な主神の遣いである自分自身に憤怒の薪を焚べて──。
騎士団が片付いたのちは、
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宵の森の深くであっても、焦土と化したスクルドから放たれる臭気は鼻先を突いた。上方を見上げれば、木々の隙間から風に揺れ動く黒煙が覗く。更にその切れ間には、黄金色に輝く上弦の月が見え隠れしていた。
「いやー、それにしてもたっくさん殺ったよね。ボクのトロイアも、さすがにお腹がいっぱいだって」
水瓶になみなみまで溜まった
「じゃあボクは早速、こいつをユグドラシルの根っこに蒔いてこようかな」
振り返ったリュイリィの目に、泉の水で返り血を流すウィヌシュカの青白い背中が映る。彼女の艶めかしい後ろ姿を前に、リュイリィは思わず生唾を飲み込んだ。扇情が駆り立てるままに近付いて、その魅惑的な柔肌に指先を這わせてみる。だが沐浴を続けるウィヌシュカは、寡黙を貫いて振り向こうとさえしない。
「ねえウィヌ、その後で主神の寵愛でも受けようと思うんだけどさあ……」
芸術品のように美しいウィヌシュカの銀髪を指で梳かしながら、そこでリュイリィはたっぷりと言葉を溜めた。それと同時に、自らの欲情を必死で戒める。このままウィヌシュカを押し倒してしまえば、無傷では済まないと理性が警告しているのだ。
「ウィヌも一緒にどう? 夢心地になれるよ」
耳朶に纏わりつく淫靡な声音に、ウィヌシュカはようやく振り向いた。いつもより何倍も鋭い侮蔑の眼差しに、リュイリィは躰の奥底から湧き上がる痺れを覚える。酔い痴れる彼女を憐れむように、ウィヌシュカは重い口を開いた。
「あいにくだが、私に
「あは、酷い言い草だね。ねえ、それならボクはどう? ボクは本当は、ウィヌとそういうことがしたいんだけど」
懲りずに挑発を重ねる。身を震わせるほどの殺気が、リュイリィに更なる快感を連れてきた。睨み合う殺意と欲望は、お互いを高め合って理性の壁を越えようとしている。
リュイリィは瞳の動きだけで、泉の脇にあるウィヌシュカの戦装束をそれとなく確認した。翡翠の色をしたサークレットと、動きやすさに重きを置いた薄手のプレートメイル。その横には、無数の魂を刈り取ってきた絶望の
──大丈夫。ウィヌは丸腰だ。
「なんならボクは、ウィヌの慰み者にされることだってやぶさかじゃないんだよ。ねぇそしたらさ、ボクらは寝ても覚めても一緒に──」
リュイリィが抑え切れなかった疼きが、一瞬にして凍てついた。気付けば彼女のか細い首元に、ひんやりとした
目にも留まらぬ疾さとはまさにこのこと──死の女神に
──だめ、したくなっちゃう。
そう呟こうとしたリュイリィの唇は、ウィヌシュカの唇によって塞がれた。わずかに遅れて、下唇に鈍い痛み。噛み千切られたと理解するよりも早く、ウィヌシュカが耳元で囁く。
「見られている」
薄闇に気を
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