ハイム王都攻略戦[7]

「――いや、まぁいいでしょう。何があろうとも、強くなった私をお母様が愛さないはずがないのですから」



 エドが急に正気に戻る。

 苦悩するかのように振舞っていた彼は、突然、振る舞いをついさっきのそれに戻した。



「……伝えていなかったが、ヒールバードの素材を用いた回復薬がある」



 態度が変わったエドを見つめながら、ロイドが二人に語り掛ける。

 手に多くの汗を握り、これから始まるであろう戦いに向けて気を引き締めた。



「それも、マジョリカ殿が精製したものだ。それゆえ貴重なために数は少ないが――多少の無理は利く」



 クリスとリリの二人がロイドを見る。

 これから彼が口にするであろうことを想像し、固唾を飲んで見守った。

 すると、ロイドは頼もしい表情で続きを語った。



「私は無理やり・・・・壁となる。勝てないにしても、重傷を負わせるぐらいはやるぞ」



 生きて帰るということを無視した言葉に、クリスとリリは神妙な面持ちで頷く。



「あの人の言葉信じるなら、アイン様のいる方に行かせるわけにもいきませんしね」


「ですねー……。いっちょ――頑張りますか」



 もしかすると、空元気なのかもしれない。

 二人は決意を込めて答えるが、どことなくいつもと比べて元気がない。

 だが、三人は強化されたエドに対抗するという意思を心に決める。



「では――いくぞッ!」



 ロイドが先陣を切って走り出す。

 気分が落ち着いたのか、振る舞いまで落ち着いたエドがロイドを見る。

 片手で槍を構え、ロイドを真正面から受け止めようと手を伸ばす。



「貴様が真なる魔王であるならば、私は幸せなのかもしれん!」


「ほう。と、言いますと?」



 ロイドの正面からの一刀両断。

 ヤツメウサギを真っ二つにしたのと同じ一撃をエドに見舞う。



 今日一番の一撃……いや、ロイドの後先を考えない筋肉を酷使した一撃は、受け止めたエドをじりじりと後ろに追いやる。



「我らが初代陛下と同じことを成せるのだッ!それが貴様であるならば……これ以上の喜びはない!」


「ははっ!あの男とですか!」


「何がおかしいッ!」



 エドの身体はまだ落ち着いてないのだろう。

 ロイドの必死の一撃は、受け止めるエドの手に多くの圧力を与え続ける。

 紅いオーラを纏いながらも、血管を色濃く浮かび上がらせた。



「家族殺しの男と同じことをしたいだなんて、やはりあなた方は蛮族だった!」


「――マルク陛下が家族殺し……?貴様、何を言っているのだ!」


「あぁ、今のイシュタリカにはこの話が伝わってないんですか。なるほどなるほど……よっ!」



 エドの槍が空を切り裂く。

 近くに立てば、その空気だけで切り傷を負ってしまいそうな緊張がある。

 だが、頃合いを見計らって、クリスとリリもエドに襲い掛かる。



「エド、貴方は手加減でもなさってるんですか?」



 懐からクリスがレイピアを突き立て、エドの身体に攻撃を仕掛けた。



「私もそう感じました!やっぱり、貴方はまだ中途半端なんですね!」



 ロイドとエドの衝突で気が付いたのだ。

 仮にエドが本当に進化したのであれば……いくらロイドが死に物狂いだろうとも、エドが追いやられることは無い。

 地面を見れば、二本の靴の跡が深々と残されているのだから。



「何を言うかと思えば、不敬ですね。いいでしょう、まずは貴方たち二人を――」



 エドが体勢を変えて、クリスとリリの二人に攻撃を仕掛けようと立ち回る。

 ……が、異変はその時、突然にやってきたのだ。



「――ん?私の紅が……?」



 エドが纏う紅いオーラ。

 その紅いオーラが収縮しはじめると、槍の切っ先が小さく震えだす。



「っ――はぁッ!」


「なっ……なにが……起って……ッ!?」



 隙を見逃すことなくクリスがレイピアを突きつける。

 すると、ようやくになって、初めてエドの身体に傷が生じた。



「私もいますから――ねっ!」



 今度は投擲することなく短剣を切りつけるリリ。

 あくまでも反撃を警戒しながらの、少しばかりおっかなびっくりの攻撃だ。

 だがしかし、クリスに続いて、リリの攻撃もエドの皮膚に傷をつけた。



「何が起こったっ……?いや、まずは攻撃をッ!」



 続けてロイドも、大剣をエドに向けて振り下ろす。

 すると、困惑したエドはロイドの力を利用し、大剣を受け止める形でわざと吹き飛ばされる。



「クリス。リリ。今のは一体なにがあったのだ」



 少しばかり距離が開いたことで、ロイドが尋ねる。



「分かりません。急に紅いオーラが不安定になると、エドの動きが鈍くなりました」


「えーっと、私も良く分かってないんですよ……でも、怖いぐらいあっさり攻撃が入りましたね」


「……なるほど。確かに、紅いオーラが治まっているようにみえるな」



 二人の言葉を聞き、ロイドがエドに目を向ける。

 すると、紅いオーラが治まっているどころか、手足が軽く震えていた。



「魔王化――と断定はできませんけど、あの紅いオーラがエドの力の象徴なのは事実です」



 クリスが口を開く。

 首元には多くの汗を掻き、クリス自慢の金髪が乱れて張り付いていた。



「もしかすると、燃料切れ――いえ、体力切れかなにかかもしれません」


「あっ……そ、そうか……じゃあ、それって――」



 その声を聞きリリが察する。

 ロイドもはっとした・・・・・表情で頷くと、口元で小さくニヤッと笑った。



「魔石炉でいえば、ようは魔石切れということだな」


「はい。恐らく、そのような状況ではないかと……っ」


「――てことは……時間稼ぎでもしますか?」



 リリが時間稼ぎを提案した。

 しかし、ロイドが静かに首を横に振る。



「だめだ。あの男がこのことに気が付かないはずもない――ほら、みてみろ」



 自らを戦闘巧者と称するエド。

 彼が身体の様子に気が付かないはずもない。

 ロイドたちに聞こえるような音で舌打ちをすると、これまで以上の闘気をみせつける。



「申し訳ないのですが、所用ができてしまいました。この舞台に幕を下ろしましょう」


「所用、な。あぁ……わかった。こちらも望むこところだ」



 合図となったのはこれだ。

 二人が声を交わすと、エドが次の瞬間にはロイドの手前に現れる。



「ッは、はや――このっ……!」



 大剣で防御が間に合わず、ロイドが右腕でエドの槍を防ぐ。

 切っ先を避けたおかげが切り傷はできない――だが、エドの放った一撃は重すぎた。



 次の瞬間には、高い所から石畳におとされたかのような、そんな音が周囲に響き渡る。



「ロ……ロイド様ッ!?」



 確実に骨が粉々に砕けたであろう音に、クリスが狼狽する。



「貴女も、他人事ではありませんよ?」


「ッ――……ほんと早いですねッ」



 轟音が響き渡ると、ロイドが数メートルほど吹き飛ばされた。

 クリスがロイドを心配して声をあげるが、次の瞬間にはエドがクリスの前にやってくる。



「やはり、反応してきますか」



 咄嗟にクリスが離れると、クリスが立っていた場所が深く抉りとられた。



「私と貴女の相性は面倒に感じます」


「それはありがとうございます。私にとっては、ありがたい限りですよッ!」



 小回りを利かせながらクリスがレイピアで切りつけるが、エドはさっきのような隙をみせなかった。

 呆れるほど丁寧に……且つ、力強い動きでクリスの攻撃をしのぎ切る。



「だから、もう手っ取り早く済ませましょう」


「……え?」



 なにもクリスと同じ土俵に付き合う必要はないのだ。

 エドは躊躇いを捨て……力押しでクリスに槍を向ける。



「魔王と自称するだけありますね……ッ!」


「現代のイシュタリカでは、女性は軽口を叩かなければならない――とでも決まっているんですか?」



 空いた口が塞がらないエド。

 しかし、それ以上は追及しない。身体の様子が明らかにおかしいのを察していたため、手早く勝負をつけにきたからだ。



「どんどん勢いが弱くなってますよ……!気でも抜けましたか、エドッ!」



 徐々に弱まる紅いオーラ――クリスは腕の限界が近づいてきたが、強気な口調でそれを口にする。



「――少しばかりリラックスしてしまっただけですよ。……ご安心を」



 一振り、そして続けて二振り目……重ねるごとにクリスの体勢が崩れる。



「っ……ま、まだ……!」



 それがあと数回ほど続き、おぼつか無い足元でクリスは防御を繰り返した。



 ――だが、力の抜けきっていないエドは、やはり強かったのだ。



「ほら、退いていなさい」



 金属を切り裂く音――そして、クリスの鎧を貫通する音が響き、クリスは苦しそうに息を吐きながら地面に倒れる。

 脇腹付近を槍で貫通されてしまい、倒れると同時に、多くの血液を流してしまう。



「ふぅ……はぁ……ぁ……」



 息を不規則に繰り返し、地面に倒れながらもエドを強く睨み付けた。

 だが、どこ吹く風のエドはクリスから興味を失い、一番の憎しみをリリに向ける。



「どうせすぐに死ねますよ。……さ、次は貴女だ」


「――はぁ……はぁ……いや、させんぞ」



 リリに襲い掛かろうとした刹那、エドの背後から大剣が振り下ろされた。

 苦しそうな吐息を漏らしながらも、ロイドは覇気を失っていない。



「お、おや……?どうして動けるのです……?」


「私は元帥だからな。当然だろう?」


「……答えになっていませんねぇ」


「ロ、ロイド様!ご無事で……!?」



 腕は確実に砕け散ったはず。

 だというのに、ロイドは力強い動きで大剣を振り下ろしたのだ。

 エドは不思議そうにロイドを見つめ、リリは心配そうに声を掛ける。



「あぁ、なんとかな!マジョリカ殿のおかげで、やせ我慢・・・・でなんとなる程度にはなったぞ!」



 ヒールバードの魔道具を使ったのだろう。

 だが、それだけでは砕けた骨を完全に修復できなかったようで、ロイドは顔色を青白く染め上げ、顔には汗を滝のように流している。

 声もところどころが震え、必死に痛みを我慢しているのが伝わった。



「――まぁ、いいでしょう。では続けますよ……!」







 血を流し続けるクリスを横に、三人の戦いが再開する。

 強化されたエドはやはり力に満ちており、早めに勝負を決めに来た彼の攻撃が二人に襲い掛かる。



 ……まだ損傷したままの腕で剣を振る――そのせいで、ロイドの片腕はぼろぼろになった。

 リリも必死に短剣を持って戦ったのだが、やはり、隠密の彼女にとってエドの攻撃は重すぎる。



 徐々にエドの圧力は消え去っていくが、完全に消え去るまではあまりにも長い。



 傷は決して致命傷ではないが、リリはエドの槍で肩口を貫かれ、ロイドも剣を握る手に力が入らなくなる。

 もう、本当に終わりなのか……と、二人の脳裏にその言葉がよぎった。



 ――しかし、二人は寸でのところで命拾いをする。



「……ん?」



 エドの紅いオーラはもはや薄っすらとしか残っていない。

 そうは言っても、勝負は決まりかけている……という状況にあったのだが、エドは突然立ち止った。



「……」



 二の句が告げないエドは、口惜しそうに立ちすくんだ。

 槍を地面に突き立てて両腕を覗き込むと、眉間にしわを寄せて考え込む。



「――ロ、ロイド……様ッ。エドの腕を……」



 肩を抑え、吐息交じりにリリが口を開く。

 震える指先でエドの身体を指さすと、苦しそうにロイドへと語り掛けた。



「……萎(しぼ)んでいる?」



 例えるならば、急激に老人のように腕になったのだ。

 皮が深い皺を刻み込み、節々が強調されていく。



 すると、エドが纏っていた紅いオーラも鳴りを潜めた。

 枯れ果てるようにエドの容姿に変化が訪れると、苦しむように胸元を掻きむしる。



「こんなときにッ……!」



 額にしわを寄せて目を見開き、まだ意識のあるロイドとリリを交互に見る。

 小声で、『どうする、どうする……』と呟くと、諦めた様子で背中を見せた。



あの石・・・は城に戻らなければ……だが、このまま戦っては――」



 ロイドたちが思う以上に、エドの身体も倦怠感に襲われているようだ。

 強い力を使った代償なのだろうか、足取り重く地面から槍を抜く。

 抜き去った槍を杖がわりに歩き出すと、近くにいた馬に乗って身体をゆだねる。



「駆けなさいッ!お母様の待つ場所へと――ッ!」



 苛立ちを込めて手綱を握る。

 馬の横っ腹に強めに蹴りを加えると、エドは忙しない様子で立ち去って行った。



「あ、あいつはどうして……私たちに止めを刺さなかったんでしょう……」



 痛みをこらえながら、リリがロイドに語り掛ける。



「……完全な燃料切れだろうな。槍を杖にしていたあたり、身体に力もはいらなかったのだろう」


「えっと……それって、私たちの勝ち……なんですか?」


「――限りなく敗北に近い没収試合といったところだ。奴が不完全なままで助かったな。もしも完全になっていたならば、それこそ圧倒的に殺されていたさ」



 しかし、それでも状況は絶望的に変わりない。

 というのも、クリスは血を流して横たわり、ロイドとリリの二人は武器をうまく扱える状況にない。いわば、全滅の一歩手前だ。

 


 もし、もしもエドの力があと十秒でも保てたのならば、確実に二人は命を落としていただろう。



「ッそうだ、クリス――クリス!」



 エドが去って行ったことで、体中にどっと疲れが押し寄せる。

 笑ってごまかしたくなるような気怠さだったが、ロイドは地面に倒れたクリスの元に駆け寄った。

 もはやほとんど動かない片腕を抱きながら、痛みに堪えて近くに走る。



「おい!おい!」



 うつ伏せだったクリスを仰向けにするが、当たり前のように返事は帰ってこない。



「……大丈夫。血液を流しすぎて気を失っただけかと」



 膝小僧にぶつかった石のせいで、リリは肩を抑えながら足を引きずる。

 仰向けになったクリスの手前で膝をつくと、首元に手を当てて脈を確認した。



「顔色は――最悪ですけど、急いで治療すれば間に合います」



 だが、ここは戦場でイシュタリカではない。

 満足な設備がなければ、クリスの治療も難しい。



「バーラが来てい――いや、戦場で満足に治療が出来るはずもないか。だが……そうかっ!」



 少しの間考えていたロイドが、一つの答えにたどり着いた。



「リリ。お前も同じだな?もはや満足に戦えまい」


「……いえいえ、リリちゃんはまだいけますよ」


「やせ我慢はよせ。自分でも、足を引っ張るという自覚があるな?」


「……それ、ロイド様がいいます?」



 確かに、ロイドも片腕が使い物にならなくなった。

 だが、ヒールバードの魔道具を使ったお陰が、三人の中ではロイドが一番余力がある。



「――誰か!馬を!馬を連れてこい!」



 ロイドが大声でイシュタリカの騎士を呼ぶ。

 すると、様子を窺っていた騎士が現れ、ロイドの前で馬を止めた。



「はっ!」


「馬を借りるぞ」



 騎兵から馬を借り受けると、ロイドは片腕でリリを持ち上げ馬に乗せる。



「え?は……ちょ、ちょっと!ロイド様!?」



 続けてクリスを抱き上げ、リリの前方に乗せて紐で固定した。



「そろそろ、リヴァイアサンが港町ラウンドハートへと到着する。それに乗ってクリスを治療してくるのだ。リヴァイアサンならば、最新の魔道具が多く搭載されているからな」


「――な、なるほど!確かに、リヴァイアサンならば……!」



 希望を見いだせたことでリリは気力を取り戻した。



「あ、あれ?でも、ロイド様は……?」


「……私はこれより、エドを追ってハイム王都に進軍する。そろそろいい頃合いだからな――それと、リリも治療を忘れるんじゃないぞ」



 エドと戦う以前と比べれば、遥かに変貌した王都近郊の戦場の光景。

 イシュタリカ側が優勢なのは明らかで、地面には多くのハイム勢が事切れていた。



「ロイド様!こちらの馬を!」


「あぁ。悪いな」



 遅れてやってきた近衛騎士から馬を受け取ると、ロイドは痛みに耐えて乗馬する。



「戦況の報告ですが――」


「走りながら聞く。目的は王都だ!行くぞ!」


「ロ……ロイド様!待ってくださいってば!ロイド様だって身体が……」


「エドを打ち取るならば今しかない!弱り切ったやつを見ただろう!――イシュタリカの騎士よ、我に続けッ!」



 大きな障害となるのを防ぐため、ロイドはエドを追うことを決意する。

 一方で、残されたリリは抱きかかえるクリスを見た。

 気を失っているクリスの怪我を考え、リリは港町ラウンドハートへ向けて馬を走らせる。



「ご武運を。ロイド様」




 *




 エドが黒い石で覚醒をはじめた頃。

 馬で少し離れた場所でも、劇的な立ち合いが始まろうとしていた。



「――アイン様」


「……そろそろ、かな」



 ぶつかり合う両軍の勢いは止まらず、多くの死体が積み重ねられる。

 そんな中、ハイム兵と戦い続けるアインとディルにも変化が訪れたのだった。



「……よろしければ、私が相手を」


「いや。あの人の相手は俺がするよ」



 移り行く戦況は、ついに両軍の指揮官の距離まで近づけた。

 つまり、アインとローガスの二人が、口上戦の時のような距離に立っている。



「やはり、先日負けた私では信用できませんか?」



 会談の日の敗北を語るディル。

 だが、アインはディルの肩をたたいて否定した。



「……なに馬鹿な事いってんのさ。ディルを信用しなかった日なんてないよ」


「で、では!どうしてアイン様自らが……!」


「――どんなに腐ろうとも、一応は俺の父にあたるからね」



 アインは辛そうに、どうにも踏ん切りがつかない感情を滲ませた。



「すぅ……はぁ……」



 幼い頃。


 近衛騎士と立ち会う時――彼らの洗練された技量を少しずつ盗んだ。

 クリスと立ち会う時――クリスの早さに追いつくことで必死だった。

 ロイドと立ち会う時――ロイドの力と立ち回りにどう反応するかを悩ませた。



 大きく成長してからは、

 カインと立ち合い――欠点を克服し、絶対的な強者の強さを学んだ。



 そして、忠義の男――マルコとの立ち合いで、身体に眠る力を開花させた。



「俺は勝てる。マルコさんに勝ったのに、父う――ローガスに負けるなんて、マルコさん、いや……カイン・・・さんにも叱られちゃうよ」



 不思議な緊張感で脈拍を乱しながらも、そうしてアインは自分を律する。



「あ、でも、指揮官同士が戦うなんて、褒められたことじゃないよね」


「……勝利すれば、敵兵の士気は最底辺まで落ちることでしょう。ですので、すべてが否定されるべきとは思いません」


「そっか。それならよかった」


「ただ、それは指揮官が将軍……アイン様のように王族ではないことが前提ですが」


「あー……それ言われると痛いなぁ」



 相も変わらずアインは軽い。

 城で冗談を言い合うときのように笑うと、恥ずかしそうに頬を掻く。



「ディル」


「はっ!」



 アインが声色を変え、ディルを呼ぶ。



「大将軍ローガスを倒して、一気に王都にへと攻め入るぞ。ラルフ王の様子も気になるが、まずはアノンの首をとる」


「はっ。お心のままに――殿下」



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