やってきた人々。

 ハイムの一行が、港を出発した次の日の事。

 アインを乗せたイシュタリカの艦隊は、一足先に島に到着していた。

 数多くの艦隊が並ぶ中、プリンセスオリビアから下船したアインは、双子の様子を見に来ていた。



 時刻は日が昇ったばかりで、朝日が海に輝く頃の事だ。



「……ほんっと、お前たち大きくなったな」


「キュルルァ……!」


「ギャウッ!ギャウ!」



 水上に浮かぶ双子の頭。



 相変わらず続く、カティマの栄養満点な食事。またの名を、魔改造とでも呼ぶといいだろう。

 その食事の影響もあってか、すくすくと育った双子は、すでに全長30mは超えているように思える。



 そして、姉のエルは相変わらずだが、弟のアルは、若干の声変りが始まったようだ。……少しばかり切ない。



 双子が付いてきた理由は、護衛をするためだ。

 命令を忠実に聞く双子だからこそ、信頼されてこの場に連れてこられたのだった。



「ねぇ、アイン。今聞いてきたのだけど、ここに来るまで、一度も魔物とすれ違わなかったそうよ」


「——……え?それなりに距離あったと思うけど、本当に一度も?」



 双子の相手をしていたアインの下に、クローネがやってくる。



「えぇ。エルとアルが、この一帯の主になってるっていうのも、あながち冗談じゃないのかも……」



 クローネはアインの隣にしゃがみこむと、アインと双子を交互に見る。



「実は、漁師たちからも聞いております。なんでも、漁に出ても小型の魔物すら会わなくなったとか」



 すると、続けてやってきたのはクリス。

 クリスの語った情報は、アインも過去に耳にしている。しかしながら、最近ではそれが顕著に表れているみたいだ。



「へぇ……。それじゃ、狩りをするときは少し遠征してるのかな」



 順調に育っているのだから、食事に問題はないだろう。

 となれば、きっとなんだかんだと、狩りも出来ているに違いない。



 クローネとクリスの二人は、双子と戯れるアインを見て、和やかな空気に浸っていた。

 それが数分の間続いたと思いきや、アインが立ち上がり口を開く。



「……それにしても、本当にすごい光景だよね」



 双子から視線をずらし、停泊しているイシュタリカ艦隊を見る。



 中央に鎮座するのはホワイトキング。

 イシュタリカ王が駆る戦艦で、現在イシュタリカにある戦艦の中でも、最大級の大きさに加えて、防衛や攻撃に関する強さを持つ。

 アインがエウロに向かった際に、シルヴァードから貸与された戦艦だ。

 すでにアインが破壊した箇所は修理済み。



 そして左右に並ぶのは、プリンセスオリビアに、プリンセスカティマの2隻。

 ホワイトキングには劣るものの、それでもイシュタリカで頂点に位置する戦艦だ。

 当然ながら、通常の戦艦と比べても大きく、その3隻が並ぶ姿は強烈な威圧感を与える。



 更に3隻の周りには、多くの港から集まってきた戦艦が揃っているため、もはや小国なら、数時間で滅ぼせそうな勢いだった。



「えぇ。万が一命令がありましたら、ハイムの"港町"程度ならば、すぐに殲滅致しましょう」


「……命令しないからね?」



 ハイムの港町……なんて局所的なんだと、アインはため息をついた。

 クリスは人一倍、ハイムに対しての感情が複雑だ。

 そのせいもあってか、今回は更に磨きがかかっている様子。



「よいしょ、っと……。そろそろ行こうか、お爺様たちも待ってるだろうし」


「そうね。じゃあ、出来上がった施設を下見に行きましょうか」


「私も初めて見るので、少し楽しみです」



 こうしてアインは、クローネとクリスの二人を伴って、出来上がった施設に向かって行った。




 *




 島の気候は温暖で、波も穏やかな地域にある。

 更に細かく説明すると、風速も厳しくなく、形状も平坦な島だ。



 つまり、会談に使うには悪くない条件が揃っていた。



「お爺様。ただいま戻りました」


「おぉ、アインか。双子の様子はどうであった?」



 アインが向かった先は、石造りの大会議室。

 出来上がった施設の中央に位置しており、左右には両国にとっての、控室などが併設されている。



 この場に着くと同時に、クローネはウォーレンの下へ。

 そしてクリスは、オリビアの下へと向かって行った。



「いつも通りでした。そういえば、魔物を一匹も見なかったとか」


「うむ、余もそれを耳にして驚いた。懐いていても海龍に違いはない、となれば、やはり海原の王と言えるのだろうな」



 アインもその言葉に頷いて、大会議室を見渡す。



「……随分と、綺麗に作られているんですね」



 床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、使われた石材は、イシュタリカが愛する白い素材。

 大きな窓も、汚れ一つないガラスに覆われており、決して安い物ではないと理解できる空間だ。



「何処であっても、我々は、イシュタリカとして振舞わねばならん。自ら品格を落とすような真似はできぬのでな」



 よく言えば誇り。悪く言えば見栄だろうか。

 考え方によって捉え方は違ってくるが、アインはその意見に異論がない。



「だが感慨深いな、アイン。なにせ、ついに奴らとの会談だ」


「……そうですね」



 確実に、アインの元家族もやってくる。

 特にローガスのことを考えると、自分はどんな表情を浮かべるのか……それすらも分からない。

 恨みを口にする気はないが、土壇場になると気持ちに変化が生まれるかもしれない。



「あちらも大人数でやってくると聞いた。さてはて、どんな言い分を並び立てるものか、見物(みもの)であろう」



 アインはその言葉を聞いて、苦笑いを浮かべる。



「会談中に、逆上してこないことを祈るばかりです」


「はっはっはっは!その通りだな!」



 アインの言葉に、シルヴァードも機嫌良く笑い声をあげた。



「ところでアインよ。緊張しておるか?」


「……どうなんでしょう?」



 アインが今、どんな心境でいるのか。

 それを尋ねた理由は、ローガスやグリントがやってくるからだ。



「質問を質問で返すでない……」



 はっきりとしない返事をしたアインに、シルヴァードは困惑した表情で語り掛ける。



「実際のところ、良く分かってないんです。ただ、精神的に不安定になることは無いと思いますが……」


「……ならばよい。アインも成長したという事だ」



 シルヴァードはそう口にすると、アインの頭を撫でる。

 アインも身体が大きく成長したとはいえ、それでもシルヴァードの方がまだ大きい。



「お、お爺様!もう、子供ではないのですからっ!」


「何を言う。何歳になろうとも、アインは余の孫だろうに」



 見る者を安心させるような笑顔で、シルヴァードが言葉を続ける。



「……では、私が50歳とかになっても、同じってことですか?」


「余が生きている限り、それに変わりはないであろうな」



 それを聞いて、諦めた様子を見せるアイン。

 シルヴァードはそれを見て、楽しそうにアインを見る。



 ……と、シルヴァードとそうしていると、気怠そうな様子でカティマが姿を現す。



「はぁ……どうして、私まで来なきゃならないのニャ」



 心なしか、いつもより尻尾の角度にも元気がない。

 足取りもどこか重そうに見える。



「お父様。今からでも遅くないのニャ。……帰ってもいいかニャ?」



 希望を抱いた瞳でシルヴァードを見て、カティマがそう口にした。

 だがその希望は、アッサリと打ち砕かれることになる。



「……何度も申したであろう。それは許可できぬ」


「な、なんでだニャ!?私がここに居ても、意味ないと思うのニャ!」



 そう。確かにほとんど意味はない。

 会談はウォーレン達が取り仕切るため、カティマにはするべき仕事はないのだから。

 だがそれでも、カティマが連れてこられたのには意味がある。



「いい加減教えてほしいのニャ!どうして私まで、こんな島まで連れてこられたのニャ……!?」



 アインは、それがどうしてなのか分かっていた。

 シルヴァードが口にし辛そうだったため、アインはシルヴァードに目を合わせ、自分が話すと目配(めくば)せした。



「あのさ、カティマさん。……連れて来た理由なんだけど」


「っ!?教えてくれるのかニャ!?」



 ——近寄り方が鬱陶しい……。



 腰のあたりにしがみつくカティマを見て、アインはそんなことを思う。

 だがそれを我慢して、どうして連れて来たのかを口にした。



「……いや、だってさ、カティマさんを止める人居なかったら、なんか危ないじゃん」



 ——……え?



 カティマが呆気にとられた顔をするが、本当にそれが理由で連れて来たのだ。

 今回この島にやってきた者達は、皆がカティマを止められる人物。

 ララルアは城に居て、有事に備えている。しかしながら、カティマを止めるにはもう少し力が欲しい所だ。



 ……となれば、カティマをイシュタリカに置いてくる訳にはいかない。



「野放しにしすぎると危なそうだし……ね?」


「そ、そんな理由で連れて来られたのニャ……?まるでペットが粗相をするのが心配だからって、鎖に繋ぐみたいにかニャ……?」



 随分と衝撃的な表情をしているが、先ほどの言葉に嘘はない。

 すると少しして、カティマは溶けるように床に倒れていった。



「力が抜けちゃったのニャ……。お願いだから、船に連れて行ってほしいのニャ」



 王女らしさが微塵も感じられない姿に、シルヴァードは頭を抱える。



「ディルー!ごめん、こっち来てくれる?」



 大声を出して、ディルを呼ぶアイン。

 するとその声に気が付いたのか、ディルが走ってやってきた。



「どうなさいましたか?」


「ごめん。カティマさんを船に連れてってくれる?」



 それを聞いたディルは、床に溶けているカティマに気が付く。

 当然のように驚いた顔を浮かべたが、すぐに冷静な表情に戻す。



「……何があったのかはわかりませんが、承知致しました」


「すまぬ。娘を頼む……」



 恥ずかしそうに顔を赤らめて、ディルに声を掛けたシルヴァード。



「お、お任せください。——カティマ様、お手を失礼します」


「……面倒なのニャ。おんぶで頼むニャ」



 ——何を言ってるんだコイツは。



 アインはそう思ったが、ディルが、どうすればいいかと視線で尋ねてきたので、頷いて許可を出す。



「で、では失礼します……」



 ディルに抱えられ、言葉通りおんぶされるカティマの姿。

 背中に乗せられたカティマは、ただただ力の抜けた表情をするばかり。



「あー……丁度いいのニャ。それじゃ、頼むニャー」


「畏まりました……。で、では陛下。アイン様。失礼致します」



 そしてディルは、カティマを背負ってこの会議室を後にしていく。

 ディルの様な美男子が、巨大な猫を背負う姿。

 だが、決してそれが絵になることはない。



「アイン。有事の際には、カティマをディルに頼むのも良いと思わぬか?」



 名案のように語るが、アインの返事は決まってる。



「お爺様?押し付けることは、有事とは言いません」


「……そうであったな」




 *




 アインが島の施設などを確認し終えた頃、時刻は昼を過ぎた辺り。

 イシュタリカに遅れること数時間、ようやくハイムの一行が到着する。



「あれが、イシュタリカの艦隊ね……」



 船から降りたエレナは、目の前にある艦隊から、視線を逸らせなくなった。

 想像以上に大きな戦艦……。前回イシュタリカに行った際、目にすることができなかった、イシュタリカ王家専用の船だ。

 それが3隻あるというだけでなく、マグナにはなかった多くの戦艦が並ぶ光景は、まさに圧巻。



 その光景に戸惑っているのはエレナだけでなく、ローガス達も同じことだった。



「ふ、ふん……!大きいだけであろう、大した脅威ではない!」



 それでも強気のティグルには、エレナも呆れを通り越して尊敬の念を抱く。



「お……仰る通りです!我らハイムの勇気があれば、あんなもの、障害にすらなりません!」



 続いて口を開いたのがグリント。

 視線と足取りがおぼつかないが、口調だけは強気に見せていた。



「キュル……?」


「ギャァウ……?」


「っお、おい!なんだこいつらは……!」



 船が来たことに興味を抱いたのか、近くに寄ってきた双子の海龍。

 巨大な姿で近づく二頭は、ティグルたちの様子を窺っていた。



「キュ?」


「ギャウ、ギャウ……」



 水面に顔をだすと、なにやら相談するように声を上げる双子。

 ハイムの騎士達は恐れを抱きながらも、ティグルを守るように前に立つ。



 ローガスは一番前に立つと、剣を抜いて警戒を強める。



「殿下。お下がりください」


「う、うむ!頼むぞローガス!」



 ——しかし、なんとも大きな魔物だ。



 心の中で、二頭のことを考える。

 どれほど強いのだろうか、何という魔物なのだろうか……と。



 そうして膠着状態にいると、一人の男が声を上げた。



「エル、アル!殿下がお呼びだぞ!」



 ティグルはその声がする方向を見て、誰が来たのかと姿を伺う。

 そしてそのやってきた男は、自分も見たことがある男だった。

 なにせ彼は、アインの護衛を務めていた、ディルという男なのだから。



「キュアッ!?」


「ギャウッ!」



 すると勢いよく海中に潜り、元気よく、アインのいる方へと戻っていった。



「キュルルッ……ペッ!」



 だが、エルが去り際に、ハイムの船に水を吐きかけていった。

 ハイムの者達からすると、ただ水を吐いたようにしか思えなかったが、ディルは別の感想を抱く。


 

 明らかに、唾を吐きかけていったな……と。



「先程の二頭は、王太子殿下の飼う魔物で、人に害を与えることはありません」



 この際、エルの所業については見なかったことにした。

 一方、グリントもその声の主に気が付き、睨み付ける様にその男に視線を送る。



「私の名前はディル。王太子殿下の専属護衛を務めております」


「っ……ち、父上!あの男が、エウロで私戦った男です……!」



 グリントはローガスに近づくと、不機嫌そうな声色でこう口にした。



「……なるほど。あれが、ディルという男か」



 そう言ってローガスは、ディルの立ち姿を観察する。

 敵なしだった息子が、完膚なきまでに負けてきた相手。

 興味を抱かないはずがなかった。



「建設された施設まで案内を致します。どうぞ、こちらへ」



 ハイム一行の動揺も気にせずに、ディルは足を進める。

 一方ティグルは、先ほどの双子の件で、ディルが謝罪をしなかったことに気分を悪くしていた。



「待て。父上と兄上が、まだ降りてきていないのだ」



 ハイム王と第一王子のレイフォンが、まだ船の中に居た。

 ティグルはそのことを、ディルに向かって伝える。



「船に居る二人にも、あとで案内をだな——」


「でしたら、私が今案内を終えた後、ハイムの方で案内をしていただければと。私以降の案内は、そちらにお任せします」



 ——どうぞ、こちらです。



 ディルはそう言って、足を止めることなく案内を続ける。

 そもそも、そこまでしてやる義理も必要もない。



「——くっ……!」



 苛立ちを顔に浮かべたティグルは、それを無礼だと指摘しようとした。

 だが、進み続けるディルを見て、なんとかここは……と抑えることにしたのだ。



「ところで、あの無礼な王太子は来ているのか?」



 ほんの悪戯心だった。

 それを伝えれば、ディルという男はなんと反応を返すだろうか。

 ただそれだけの言葉だったが、その言葉を聞いたディルは、足を止める。



「……えぇ、勿論です。我らが王太子殿下は、私情に流されることなく、公務に就いております。ですので、本日もこの場にいらしております」



 エウロでのティグルの行いを、ディルは少しばかり皮肉った。

 それは、連絡もなく突如やってきて、他国の会議に乱入した件の話。



 だが、この程度の皮肉では、残念ながらティグルの耳には効果が無い。

 ディルはそれを伝えると、すぐに足を動かして前に進む。



「ふん。ならいいんだ、前回の件もある。言いたいことは山ほどあるのだからな」



 ——……どういう神経をしているのだろうか?



 わざわざ煽るように、言葉を口にしたティグルの事が、ディルは理解できなかった。

 この会談の意味を理解しているのか、それすらも疑問を抱く。



 すると、様子を窺っていたローガスが口を開いた。



「ディル殿といったか。一つ尋ねたい」



 彼が口を開くのは意外だった。

 ディルはもう一度足を止めて、今度は振り返ってローガスを見る。



「どうなさいましたか?」


「……うむ。なんというか、一つあってだな」


「どうぞ。ご遠慮なさらずに」



 言いづらそうにしている姿を見て、ディルが続きを促す。



「……オリビアは、この場に来ているのか?」



 ——あぁ、さすがにそれはいけない。



 ローガスは、オリビアの名を呼び捨てにした。

 それを聞いて、ディルは質問に答える前に、別の事をローガスに告げる。



「呼び捨てにするのは無礼です。オリビア王女殿下は、我がイシュタリカの第二王女です。失礼ですが、貴族が呼び捨てにしてよい相手ではありません」



 毅然とした態度で、ローガスに向かってそれを告げる。



「……あぁ、そうだったな。非礼を詫びよう」



 だがローガスは、ディルの予想を裏切って、素直に謝罪をした。

 正直言って、拍子抜けでしかない。



「わかりました。では次回より、気を付けてください」



 本来ならば、その一言の謝罪では帳消しになんて出来やしない。

 だが現状を考えれば、こうするのが最善と判断した。



 もし、この場にクリスが居たならば、間違いなく切りかかっていただろう。ディルはそう思った。



「——質問にお答え致します。オリビア王女殿下もいらしております。ですが、お会いできるという訳ではございませんので、ご了承ください」



 何かの間違いが発生しないよう、ディルはこうして念を押す。



「……一言でも、なんとかならないだろうか」



 なにを今更伝えるのだろうか。

 食い下がるローガスを見て、ディルが考える。



「少なくとも、私に判断できることではございません」



 とりあえず、明言は避けることにしよう。

 実際、ディルだけで判断できることでもない。



「では、アインなら……——」



 その時だった、ディルが腰に下げた剣に手を伸ばしてしまったのは。



「っ……!?」



 ローガスもその動作を見て、咄嗟に剣に手を伸ばす。



 無意識ながらも、剣に手を伸ばした事を悔いたディル。

 もし剣を握っていれば、面倒な事にもなっていただろう。



「ローガス殿。アイン様は、我らが王太子です。貴族が呼び捨てにしてよい相手ではございません。……心苦しいですが、以降、ローガス殿の質問に答えるのは、差し控えさせていただきます」


「……すまなかった」



 ——まただ。



 どうしてすぐに詫びてくるのだろう、ディルは再び疑問に思う。

 今更になって何を告げたいのか、それが欠片も理解できない。

 ……こうなるならば、最初から"嫌な奴"でいてほしかった。



 ディルが抱いたローガスへの印象は、よくわからない男。ただそれだけだった。



「ローガス殿。一度落ち着きましょう?……気持ちはよく分かりますから」


「エレナ殿……。あぁ、申し訳ない。柄にもなく、冷静さを失っていたようだ」



 ローガスの失態を擁護するかのように、エレナが語り掛ける。



 ——あの女性がエレナ……。クローネ殿の御母上か。



 ディルは二人のやり取りを聞いて、エレナという女性に目を向ける。

 会談では、クローネとどのような再会となるのだろうか。ディルはそれが気になってしょうがない。



「……案内を続けます。どうぞ、こちらへ」



 だが、まずは自分に任せられた仕事が優先だ。

 気持ちを乱されることもあったが、気を引き締めて職務に向かおう。

 そう考えて、気持ちを入れ替える。



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