冒険者体験と、"彼女"の姉。
ロイド達は旧魔王領への第二回調査へ。
そしてクローネは街中での活動を。最後にアインは、ちょっとしたピクニック気分で町を出発していた。
もう赤狐の夫婦の死体は残っていない。だが周囲になにかあるかもしれない、そんな期待を胸に、二人の護衛を連れてアインは雪道を進んでいる。
「おいアイン。あの木の実は毒があるんだ、でも毒虫が良く食ってるしきっとうまいぞ」
「ご丁寧にどうも。頂きます」
何も気にせずその木のみに手を伸ばした。蛍光ピンクの毒々しい色合いをしていて、一目見て手を付けようとは思えない代物。
「酢っぱ!?なにこれおいしくないってば、教官嘘ついたでしょ!?」
「……人が食うもんじゃねえからな、どんな味がするかなんて知らねえよ」
「というか殿下。少しぐらい警戒して、口に入れたほうがいいわよ……」
どうせ毒ならいいや。そんな軽い気持ちで口にしてみたのだが、ただ酸っぱいだけで損した気分だ。
「どうせ効かないしね。おいしくなかったって覚えとこ」
所詮虫の味覚だ、畜生め。開き直って八つ当たりするアイン。
「そういえば殿下?毒が効かないのは聞いてるけど、それって普通の毒だけなの?」
「普通のって、例えば?」
「んーそうねえ……。動植物が作った自然毒だとか、もっと掘り下げれば神経毒とかいろいろあるじゃない?どこまでがその判定範囲なのかしら」
それを聞かれれば、効果範囲を調べてことなかったなと気が付いた。
少しの間考えてみるが、やはりどの程度まで通用するのかはわからない。なので過去の事例を説明することにした。
「どこまでだろう?俺にも分からないや。でもブルーファイアローズとか、洞窟の瘴気なんかは大丈夫だったよ」
このことを聞いたマジョリカとカイゼル。二人は同様にぽかんとした顔を浮かべた。
すると先に口を開いたのはマジョリカ。アインの言葉から、一つの答えにたどり着けた。
「ブルーファイアローズの毒は出血毒の亜種。瘴気なんかは大抵、あまり痛みを伴わない神経毒みたいなモノね。つまりそうした毒の系統の違いは、問題ないということかしら……」
「もう一ついえば、毒の強さだ。あのバラはアホみたいに強力だ。持ち運ぶのも命懸けだから普通は使わねえが、まるまる食わせれば中型の龍だって殺せる」
「新たな事実に俺も驚いてます……」
一番驚いてるのは本人で、この能力の凄さに感謝した。
昔はこの野郎!なんて思っていた能力だったが、今となっては立派な相棒。
「ってことはアイン。お前もしかしたら、"死神の墓地"なんていう場所にもいけるかもな」
「な、なんですかその物騒な場所」
「あぁあそこね、確かに殿下ならいけるかもしれないわ」
マジョリカも知ってる場所のようで、カイゼルに続いて口を開く。
「——……場所は旧魔王領の少し奥。そこにある山々の隙間にね、直径30mぐらいの沼地があるの」
アインにとっては、まるでボーナスステージの様なものだろう。なにせアインにとっては何一つ怖くない地であり、未開の地ともなれば心が躍る。
「ど真ん中に何か輝いてるのがあるらしい。なにがあるのかはわからねえんだけどな」
「輝いてるのは見えるのに、何かはわからないんですか?」
「あぁ。毒やら瘴気やらで、中央の視界が馬鹿みたいに悪いんだ。だからその姿までは誰も見たことがない」
「……だったら、遠くから何か伸ばして取ったりとかは」
それ用の魔道具を作ればいい。金掛かるだろうが、だがその宝が何か調べることができるのだから。
「魔物の素材にイストで作られる高級な素材。いろいろ試されたのよ……でもその空気に触れるだけで溶かされるの。空中から似たようなことをしたけど、結果は一緒。だからなんとかして入り込むしかないのよ」
「そう考えればアイン。お前今度行ってみるといい、なにがあるか気になるだろ?」
当たり前だ。自分しか行けない場所にある宝、それにロマンを感じない男の子なんていない。
そう考えても、第一の問題は"許可"が下りるかどうかということ。さすがにそんなに危険な場所ならば、素直に許可されるとは思えない。
「行きたいけど難しいですね……」
「はー……ったくお前は。いつもの元気はどこに行ったんだよ、あんだけ好き放題してるってのに」
「ちょっとカイゼル?殿下は貴方と違って、しっかりと物事を考えられるの。これだからトサカのない鶏は……」
「なぁお前。昔から思ってたんだが、そのよくわからねえ例えは今考えたのか?おい」
「あ、そういえば殿下?足は平気?雪道だと疲れるでしょ?」
きっとカイゼルはこうした役回りだったのだろう。パーティの苦労を背負い、皆のまとめ役をしていたのかもしれない。
一言で言えば苦労人だが、なくてはならない存在だったと思う。
「また無視かよ……」
「マジョリカさん……無視していいの?」
「いいのよこんなやつ。それで、大丈夫?」
「そ、そっか。 ——……ちなみに体はなんともないよ、こないだの旧魔王領行った時の方が疲れたぐらい」
いくら雪道とはいえ、ほぼほぼ平坦な道のりを進んできた。
時折少しの坂を上ることもあったが、旧魔王領へ行った時と比べれば、その斜面もささやなかものだ。
「それはよかったわ。さぁ目的地までもう少しよ、ほら貴方も気合入れなさい!」
バシバシと、逞しい腕で背中をたたかれるカイゼル。
面倒くさそうにしていながらも、決して嫌そうな様子を見せることは無い。なんだかんだこの二人も、仲のいいパーティだったということだろう。
*
「アインー!どうだー?」
「殿下ー?なにかあったかしらー?」
宿を出発してからおよそ1時間程度。道のりは比較的楽な道だったが、ちょくちょく道草をしてこの時間となっている。
この地は林に覆われているが、目的地となったこの場所は、木生えておらず開けた土地になっている。クローネからの情報によれば、ここには小さな村があったらしく、赤狐の夫婦のは素性を隠して住んでいたのでは?と予想していた。
「んー……なんにもないよっ!ただ木とか岩が転がってるだけ!」
古びた井戸や、ごみ捨て場と思われる大きな穴は見つけることができた。だがそれを見つけたというだけで、それ以上の情報の得ようがない。
昔その死体があった。それだけの情報であり、発見されたのは最近の事じゃない。なので無駄足となることを予想していたので、半分ピクニック気分のアイン。
「まあ昔の話みたいだしな。そう簡単にはいかねえだろうよ」
「……そういえば殿下?その死んでた赤狐って、どういう死に方だったのか記録は無いの?」
もう少し詳しい情報が欲しくなり、アインへと尋ねた。するとアインはマジョリカに対して、明るい声で返事をする。
「あぁそのことなら聞いてるよ。クローネがギルドに昔の記録を調べてもらってたからさ、ちょっとまってね」
羽織った厚手のコートを開き、胸元から一枚の羊皮紙を手に取った。
冷たい空気が流れ込むが、歩き続けて火照った体にはそれが心地よい。ついでに深く深呼吸をし、この綺麗な空気を味わった。
「えーっと、夫と思われる赤狐は心臓を一突き。妻と思われる赤狐は、全身に切り裂かれた跡と、火傷の跡。更に目と子宮をえぐり取られてたとか……」
なんでこんな違いがあるのか分からないが、妻の赤狐は散々な死体だったそうな。
その所業を聞いた二人は複雑な心地になり、口をまごつかせる
「な、なんで妻の方が散々なのかしら……」
「やることがえげつねえな……。まず人がやったのか魔物がやったのかもわからねえが。アイン、魔石はどうなってたんだ?」
「それは残ってなかったみたいです。赤狐は心臓の場所に魔石、その反対側に核があるみたいで、魔石は抉り取られていたみたいです」
「なんとも気味の悪い話だな。目的が全く分からねえ」
カイゼルの言葉に同意するアイン。わざわざこんなことをして殺すのがわからない、だがまるで楽しむかのような犯行は、赤狐らしさを感じさせた。
「享楽主義ってことらしいし、同族の犯行……とかかな」
「あながち間違えじゃないかもしれないわ。更に妻に強烈な殺意を抱く者……もしかしたら、痴情のもつれとか?」
「ぷっ……なにそれマジョリカさん。ずいぶん赤狐も人と似てるんだね」
「あらでもそうでしょ?しっかりとした自我があって、男と女だもの。愛憎に嫉妬、それに性欲があるのだっておかしなことじゃないもの」
体をクネらせてそう口にする姿は、なかなかの衝撃を与えてくれる。だがマジョリカのいうことは説得力があった。
「だけどなんも手がかりはなさそうだな」
「そうねぇ……。赤狐にもこんな人間らしさがあった。そう結論付けるぐらいかしら?」
「うんそうだね。何もわからないよりは、ちょっとした考察でも無いよりましかと」
赤狐夫婦がされた凶行については、犯人捜しをするつもりが無ければ、これ以上の考察をする予定もない。
1時間ほどこの一帯を探してみたが、進展は何一つ見られなかった。
「そろそろ昼にしようぜ、そろそろ休憩入れとこう」
「そういえばいい時間ねぇ……何にしましょうか」
「二人とも現地調達するっていってたもんね」
気分を入れ替えるためにも、カイゼルが昼食にしようと提案した。マジョリカにアインもそれには同意で、腹が空いてきたことを自覚し出す。
「ちょうど上にいいの飛んでるからな。あれでいいだろ、マジョリカ3号玉持ってるか?」
「持ってきてるわ、はい使って」
「火は任せるぞ。それじゃアイン、いいもの見せてやるよ」
「いいもの?……てかその玉なんですか」
マジョリカがコートを開き、ズボンのポケット……ではなく、ズボンの中に手を入れて玉を取り出す。”なんの"玉なのか気になるところだが、指摘したら負けな気がしてならない。
「これはな。今空を飛んでる馬鹿みたいな鳥を、簡単に捕獲できるすげえ玉だ」
なるほどすごい玉なのか。出元はマジョリカのズボンの中だが、それを思えば反応に困る。笑うところなのだろうか。
「ちなみにあの鳥ってなんですか?」
上空に目をやると、アイン達の覗き込むように、ぐるぐると回り続ける鳥の姿。
グレーの羽毛にハゲた頭、大きさは3~4mだろうか?3羽でそこを飛び続けている。
「リックバードっていう魔物だ。獲物が寝たり弱らない限り手を出してこない、臆病鳥なんて呼ばれることもある鳥だな」
「あーそういうアレか……」
慎重といえば聞こえはいいが、どことなく卑怯に感じてしまう。だが過酷な自然を息抜きために必要な事なのだろう。
「その鳥に、この玉をぶん投げる。すると……おらあっ!」
そうしてカイゼルは、マジョリカの玉を空に放り投げる。
力強く投げられたその玉は、避け遅れた1羽のリックバードに直撃した。
「ギャギャアッ!?」
直撃すると同時にそれは一瞬で飛び散り、半透明の四角形のケースの様なもので、リックバードを包み込んだ。
当然飛べなくなったリックバードは、地面に真っ逆さまに落ち続け、とうとうドシンという音を立てて地面にぶつかってしまう。
地面に衝突すると、すぐにその半透明の物体は消え去ってしまった。
「というわけだ。簡単だろ?マジョリカはこういうの作るのうめえからな」
「ちょっとー落としたなら早く血抜いてよ!くっさい肉なんて食べたくないわよ!?」
「……ついでに捌き方も教えてやる。興味あるか?」
「え、えぇ。せっかくなので是非……」
マジョリカの声に一瞬呆れたカイゼルが、気を取り直してアインに尋ねた。
「なら特別な課外授業といこうじゃねえか。ナイフ貸してやる、じゃあまずは絞め方からだけどな……」
カイゼルが手に取ったナイフを受け取り、落ちたリックバードに近づくアイン。
まだ死んでおらず、今は気絶しているようだ。
「鳥みたいな魔物なんかは、もちろん締めるのが簡単な部類に入る。まず今は気絶していて大人しい。いいな?」
「はい。確かに気絶してます」
「あとアイン。これ持っとけ直ぐ使うから」
更に手渡すのは一本のロープ。それなりに太く丈夫な高品質なもので、冒険者としては必須のアイテム。
「気絶したらまあ5分ぐらいは起きねえんだこいつらは。……まずはロープを足に括りつける」
慣れた仕草で巻き付けていく姿は、彼が長年冒険者をしていたことの証明。
学園では見ることのないカイゼルの姿は、口にはしないがなかなか凛々しかった。
「ほんで適当な木に掛けて……アイン引っ張るの手伝え!」
「はーいっ!」
二人が狩りで引き揚げて、リックバードの体を木に吊るした。残ったロープも木に強く巻き付ける。
「するとだ、頭に血が上るだろ?」
「自分は絶対されたくないですね」
「お、おう。そりゃ誰だってそうだけどな?まぁここまでやれば簡単だ。首のここら辺、スパッと切ってしまえ」
「えーっとここ……ですか?」
指さされた部分にナイフを向けてカイゼルに確認を取る
すると彼は笑顔で頷き、『いけいけ!』といわんばかりにアインを煽り立てた。
「……よっと」
カイゼルのナイフは切れ味がいい。アインがそれなりの強さで振ったそれは、想定以上に刃が通ってしまった。
「上出来だ。すると地面に血が垂れ始めるだろ。こうすりゃ簡単に血が抜けるってことだ」
「おー……めっちゃ赤い」
大量に漏れてきた血液により、雪模様が赤く染まる。これが綺麗に見える人が居れば、不気味に見える人もいることだろう。
「今教えたのは太い血管を切って絞めるやり方だ。ぶっちゃけると、俺なんかはいっつもこうしてたけどな……よっ!」
カイゼルがリックバードに近づいたかと思えば、なんの躊躇いもなくアッサリとナイフを振った。
「えー……なにそれ。俺の意味ないんじゃ……」
「はっはっは!まぁこんな楽な方法でもいいんだけどな、せっかくの授業だ。ちゃんとしたこと教えとかないとな?」
リックバードの首を切り落とし、勢いよく血が流れ始めた。
彼は面倒くさがって、パパッと首を落とすことが多い。それが何よりも手っ取り早かった。
「本当はもっといろんな血抜きがある。それこそ高級食材用の処理なんていくらでもな。だがまあこれぐらいでも味は悪くならねえ、だから心配するな」
「……楽なのは大事ですけどね」
「はははっ!だろだろ?それじゃちょっと置いてから精肉すんぞ。こいつは皮まずいから、羽毛は皮ごととっちまう。だからあとで腹開いて中身出すぞ」
思いのほか男らしい捌き方だが、楽なのは違いない。実際今までの経験により、こうした捌き方をしてきたのがカイゼルなのだ。
アインとしても、なんだかんだと勉強にはなっているのだから。
「あれ、これ魔石ですか?」
「首にあるのは魔石だぞ。ほしいならやる、別の価値があるもんじゃないしな」
「本当ですか?じゃあお言葉に甘えて……頂きます」
「頂きます……?って、おい!?」
アインの頂きますという言葉に、何言ってるんだという目を向けたカイゼルだったが、次にアインがしたことに驚きを隠せなかった。
「うーん、調味料のかかってない茹で卵……。味気ないなあ」
スゥっと光をだして、その中身を吸収した。シルヴァードからこのことは聞いていたが、目の当たりにすると衝撃が違う。
当然のようにそれをするアインを見て、本当にでたらめだと心の中でため息をつく。
「お前本当にそれ吸ってんのか?てかなんだよその味気ないってのは……」
「吸ってますよ。一応これで強くなれたりもしますし。味気ないってのはなんだろ、魔石吸う時って味があるんで。リックバードの魔石は茹で卵の味だったなってことです」
「……意味分からないことだらけだなお前は」
魔石を吸う人間なんて考えられない、それが以前までのカイゼルの常識だった。だがアインと関わる中で、いくつもの常識が崩れていくばかりだった。
*
マジョリカが火をおこし、そこに解体し終えた肉を持っていく。
勿論気の利いた調理器具なんてものは持っておらず、木に括りつけての"焼き"調理一択だ。
調味料?そんなの知るかといった様に、振りかけるのは少しの香辛料と塩のみ。
こうした雪景色の中のバーベキューなんて初めてのアインは、そうした大味なランチながらも、その雰囲気に酔いしれた。
「大味だけど、雰囲気のせいか美味しく感じる」
「だけどなアイン。こういうのに慣れちまうと面倒だぞ、家で料理するときも似たようなのに……ってお前は関係ねえか」
「王太子殿下を捕まえて置いてなに言ってるの、馬鹿なの?」
「……こればかりは言い返せねえ。だけどお前一々うるせえなほんっとに!」
雪の上に布を敷き、賑やかな雰囲気の中リックバードの肉を味わう一同。
するとカイゼルが急に黙り込んでしまい、マジョリカもどうしたものかと様子を窺い始めた。
「……」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ急に黙って……」
「ん?あぁ……いやな、色んなところ行ったなって。つい思い出しちまった」
久しぶりにこうした冒険者の様な活動をして、昔の事を懐かしんでいた。
それはカイゼルがパーティを組み、大陸イシュタルを冒険していた頃の話。
「そうねえ……。私に貴方、そしてセレス。たまーにロイドも居たわね」
「え、待ってマジョリカさん。ロイドさんが……嘘でしょ?」
「あら聞いてなかったの?ロイドも昔、私たちと旅をしたことがあるのよ」
当然聞いた事なんてあるはずがない。だがロイドがマジョリカ達に護衛を任せた理由、それが分かった気がする。
「し、知らなかった……。でもそれってつまり、4人で旅をしてたの?」
「んーと、正しくは5人ね。もう一人だけ居たのよ」
マジョリカもカイゼル同様、昔を思い出して優し気な表情になった。だがその顔は、何かを後悔しているような、そんな悲しい感情が見え隠れしている。
「そのセレスって人と、もう一人?」
「そうそう。ちなみにそのセレスってのは、セレスティーナっていってクリスのお姉さんね」
食事を続けながらも、流れ続ける新事実はまだ終わらない。クリスティーナにセレスティーナ……うん、たしかに姉妹っぽい。
「例の前にいってた問題児とかいう……?」
「問題児だ?はっはっは!おいマジョリカ、お前そんな風に教えてたのか?」
「実際そうでしょ?問題児だったもの」
カイゼルも、そのクリスの姉との思い出がある。
問題児という言葉を聞いて、肉をほおばりながらも笑みを浮かべた。
「あぁ確かに問題児だ、頭に超って入れていいぐらいのな」
「確かにそのとおりね。それと……"超"強かった」
「あーそうだな……あの女は強かった、馬鹿みてえに強かったな」
「ロイドさんより強かったとか聞いたけど。本当にそんなに強かったの?あの人も無駄に強いんだけど」
先日見た一刀両断。あのような強さを持つロイドを凌駕するのが、クリスの姉のセレスティーナ。
だが圧倒的に想像が追い付かない。なにせアインにとっての最強はロイドなのだから。
「ああそうだアイン。ロイドよりもっともっと強いぞ、というか足元に及ばないどころか……」
「それどころか、ロイドの師匠だったものねあの子」
「ロ、ロイドさんの師匠!?」
あの男に師匠が居たことは当たり前だろう。だがそれが、まさかクリスの姉とは思わなかった。
無作法だが、口に含んでいたリックバードを少し吐き出してしまったアイン。
「落ち着けってアイン!教えてやるから!」
「ご、ごめんなさい……っ。でも師匠っていうことは、そのセレスさん?も大剣を使う方だったんですか?」
「いや違うぞ?あいつが使ってたのはナイフと弓だ、剣なんて使った所みたことねえよ。なぁ?」
「えぇそうね。なんか『腕が太くなるのいやぁ!』とか言って使ってなかったわ」
随分と可愛いことをいってるが、それでもロイドを凌駕する実力者だったという事実。
空いた口が塞がる気配のないアイン。
「でもそれじゃ剣は教えられないんじゃっ」
「それがね、あの子本当にセンスいい子だったのよ。どんな武器でも上手く使えるし、アドバイスも的確だったのよね」
「で……出鱈目だ」
そんな教え方があるのかと驚愕する。
もはや片手間に話す。それとあまり変わらないじゃないか、と納得ができない。
「そんなにすごい人だったのに、今はどこに……」
正直に言えば、そんなに凄い人なら手伝って欲しい。赤狐の調査は当たり前のことだが、海龍の件を思い出してしまう。
クリスが死ぬ間際だったことを考えれば、どうしてその場に居なかったのかと憤りすら覚える。
「あー。そうだよな、やっぱりそれ気になっちまうか」
「……どうしましょうか、でも教えてないクリスが悪いし。ううん……」
ばつの悪そうな顔を浮かべる二人。どうしたものか考え始めたのを見て、アインは何かあったのだなと確信した。
おそらく死んだとかではないだろう。死んだのならばさっさとそう口にするはずだから。
「教えてやれよ。俺らが教えるのは違うかもしれないが、でもアインは王太子だ。知る権利がある」
「そ、そうよね。うん……殿下も気になってるし」
「あの無理しなくてもいいけど……」
アインの想像以上に重い内容のようで、マジョリカは少しばかり躊躇っている。
アインとしては無理やり聞くのも好ましくないので、この辺で引こうと思ったのだが……。
「いいやこれは知るべきことだ。だから教えてやれマジョリカ、大罪を犯した二人の事をな」
中途半端に終わることを良しとしないのがカイゼルだった。
アインが遠慮しようとした矢先、カイゼルは話を続けるようにマジョリカに告げる。
「大罪?それに二人……?」
二人とはどういう意味だろう、一人はクリスの姉のセレスで確定だ。
だがもう一人のことが分からず、ボソッとそのことを口にした。
「色々とタブーな内容だからな。これから聞く話は、どこに行っても口にするんじゃないぞ、いいなアイン?」
「は、はいっ……わかりました」
カイゼルの作る空気に圧され、正直に頷いてしまったアイン。そしてマジョリカが咳ばらいをし、口を開いた。
「じゃあ教えてあげるわ殿下。彼女はとある人を、とある場所に案内してしまったの。そして二人は、この世界から居なくなった」
「……そのとある人っていうのは?」
生唾を飲み込み続きを促す。とある場所というのも気になるが、まずはその人物について尋ねたい。
マジョリカも一度深呼吸をしてから、その人物の名をアインへと告げた。
「第一王子ライル・フォン・イシュタリカ。カティマ様とオリビア様の実の兄君にして、私たちの5人目のパーティメンバーよ」
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