一夜明けて

「ようやく来たニャ」



 昨晩はオリビアに抱かれたまま寝ていたアイン。

 朝起きてみれば、ベッドの上で同じく抱かれて寝ていた。

 いつのまにベッドに移動したのかと不思議に思った。だが絨毯には新たに根っこが増えていたのを見つけ、オリビアがドライアドになって移動したのだろうと考えていた。



 オリビアのドライアド姿、それを見られなかったことはとても残念だった。だがそんな気持ちも、昨晩見せた恥ずかしい姿を考えると鳴りを潜めるのだった。



 オリビアは昨晩のことを全く気にした様子がなく、アインと共にただ楽しそうに、会話や朝食の時間を送っていた。彼女は久しぶりにアインと二人で寝られたことにで、とても機嫌が良かった。



 その後は給仕がカティマの伝言を持ってきたため、身支度をしてからカティマの研究室へと向かったのだ。ちなみに一晩休んだことで、アインの腕は少しだけその機能を取り戻したようだ。



「急にどうしたのさカティマさん」


「徹夜して今回の件まとめたニャ。リッチの魔石と、海龍の魔石から吸い取れた内容に関してだニャ」



 バサッと音をたてて多くの書類が机に置かれる。カティマは昨日の夜に解散してからも、研究室に籠りその作業を続けていた。クリスが手伝いを名乗り出たようで、翻訳も進んだようだ。



「どれから確認すればいいかな」


「自分の事だから、全部把握しとくニャ。順序はどれでも好きにしていいニャ。あと同じ内容の報告書をお父様たちにも渡すからそのつもりで。ちなみに分かりやすいように、挿絵もしっかりと城の画家に用意させたから安心するニャ」



 そう言われたアインは、上から順に確認することにした。一枚目は海龍について。



「そういえば海流とかいうスキルももらったしね」


「まぁでも多分今は使えないニャ。自然現象を引き起こす程のスキルなんて、そう簡単には使えないニャ」



 大型の魔物たちは、その体に応じて膨大な体力や魔力を保有している。だからこそできることがあった。海龍のスキルもその一つということだ。



「少し質問なんだけど。あれだけ国宝クラスの魔石吸ってきたのにさ、それでも海龍たちと同じぐらいの体力とか魔力にはなれないの?」


「肉を1kg食べて、1kgすぐに太るかニャ?そんな簡単に成長出来たら、魔物たちの強さなんて今頃誰にも倒せなくなってるニャ」



 分かっていたことだが、そううまくはいかないようだ。



「というよりも、人型の存在には上限もあるからそれも影響してるニャ」


「ステータスの限界ってこと?」


「そうニャ。ここら辺まで行くとほぼほぼ上がらないっていう、一つのラインだニャ。999に到達したらもう上がりづらいとか、そういう仮説が昔からあるニャ。でもそこまで成長した存在なんて歴史上でも数人ニャから、断定はできてないニャ」


「なるほどね」


「まぁ吸収率についても今度実験するから、今は置いておくニャ。さっさと資料読め」



 そう言われ書類に目を戻す。

 海龍についての生態や、体長など多くの情報がまとめられている。



 推定とされる体力は数十万。その数字を見るだけでも本当の化け物だったと実感できる。

 だが参考となる個体数が多くないため、やはり資料の内容は少ない。新たに分かったのは、ブレス攻撃は使わず、主に肉弾戦で戦う龍種だということ。



「ねぇカティマさん」


「なんだニャ」


「デュラハンと海龍って、どっちが強い?」


「足場があるならデュラハンだろうニャ」


「やっぱりそんなに強いんだ」


「本物のデュラハンは、それだけの化け物だったってことだニャ」



 今となっては、どれほどの強さだったのかを実際に見ることはかなわない。

 だがあくまでも資料の中から読み取れる強さならば、カティマの考えではデュラハンのほうが強かった。



「ふーん……なるほど」


「言っておくニャアイン。アインのステータスの伸び方は、危険な魔物たちのそれと似ているニャ」


「何言ってるんだよいきなり。それってどういう」


「いいから聞くニャ。体力と魔力が以上に高く、防御が高い。生存能力がとても高いことの証明ニャ。危険な魔物たちはどちらかというと、魔力で体を強化したりして戦うニャ。だからこそアインのステータスは人というよりも、危険な魔物に近いのニャ」


「……昨日言ってた、ネームドとかいうジョブも?」


「そのせいだと思うニャ。とはいえ強くなれることに違いはないニャ。別にいいと思うニャよ」



 海龍やデュラハンといった危険な魔物たちは、まず第一にその高い生存能力が語られる。

 彼らが長い時を生きてきた証明なのだ。そしてその高い魔力で体を強化し、攻撃力に関しても高い技を繰り出すようになる。



「なるほどね……。というか、やっぱり海龍に関しては資料少ないね」


「個体数の少なさもあるし、なにより観察できることがなかったからニャ……」


「あ、でも俺いいこと分かったよ」


「っ!?教えるニャ!」


「海龍の魔石は、これまで食べてきたすべての食べ物よりも、美味しかった」



 カティマが座っていた椅子から転げ落ちる。



「そんなことわかってもどうしようもないニャ!」


「でもすごかったんだぞあれ。昨日食べた海龍のステーキあるでしょ?あれとは比べ物にならない味だったんだから……」



 さすがにそういわれてしまうと、生唾を飲み込んでしまうカティマ。

 昨日のステーキでさえ、今まで食べてきた食材の中でトップクラスだったのだから。

 それを聞くと興味を抱いてしまう。



「む、むむむ……でも私たちはそれ感じられないから、結局意味がないニャ!」


「まぁそうなんだけどね」


「ニャー!」



 飄々としているアインに、つい爪を立ててしまうカティマ。だがあっさりとアインにかわされてしまう。腕があまり動かなくとも体は動くアイン、避けるのは簡単だった。



「じゃあ次の資料……あぁ、この人が」


「ったくとんでもない甥っ子だニャ。……ニャ、その魔物の女がデュラハンの妻だった、エルダーリッチだニャ」



 口元しかわからないが、その姿は美しいのは理解できる。黒いローブに大きな杖を持ったその姿は、とても印象的に映る。



「なんかさ、悪いことしたなって思ったんだよね」


「ニャ?」


「最初から夫婦だったなんて知ってたらさ、すぐに会わせてあげたのにって。最初から怖がらずに、封印し直さなかったなってさ」


「……でも今はアインの体の中とはいえ、二人は一緒にいるニャ。だから少しはいいと思うニャ」



 魔物とはいえ、あれほどの愛と思いを見せつけられては、アインも早く会わせてあげればよかったと思ってしまう。

 リッチの魔石を吸収したとき、『ありがとう』という声が聞こえたのもこれが理由だったのだろう。



「あれ?この絵の剣って」


「昨日クリスが説明してたニャろ?エルダーリッチは、番となる相手に核を使って、短剣を作り出すって」


「言ってたけど。それがこの短剣……?」


「見覚え、あるニャろ?」


「あるよ。だって俺の相棒だったんだからさ」



 海龍討伐でアインが失った一本の黒い短剣。資料に書かれている短剣は、まさにその短剣だった。

 ここにもそれが現れることに奇妙な縁を感じる。



「その短剣の名前は『死祖の鉄屑』。リッチのもつ独自の方法で、自分の核を少しずつ削り取ってそれを使ってできた短剣だニャ」


「説明聴くだけでも恐ろしい製法なんだけど」


「……多分、海龍にとどめをさせたのはそれのおかげだニャ。その短剣は本来、最後の最後に使うためのお守りみたいな物。その真価を発揮すると、短剣は一撃で消滅してしまうんニャけど、その一撃は魔王ですら致命傷に値するかもしれないと言われていたらしいニャ」


「そんなすごい代物だったんだ。なら今までどうして発揮しなかったんだろ、というかカティマさん詳しいね」


「番に送る品物だから、番が使わなければ意味がないニャ。アインはデュラハンの魔石を吸収したニャ。だからこそそれで土壇場になって、その真価が発揮したんだと思うニャ。後この内容は全てクリスに翻訳させたニャ」



 クリスさんお疲れさまでしたと、アインは心の中で礼を言う。



「なるほど。じゃあ海底に落ちたとかじゃなくて」


「とどめを刺して消え去ったのニャ。感謝するニャよ……アインが英雄の働きが出来たのは、このエルダーリッチのおかげニャよ」


「うん……感謝することにするよ」


「たぶん城にデュラハンの魔石が運び込まれたとき、同じような場所から運び込まれて、宝物庫に眠っていたんだと思うニャ」



 デュラハン、エルダーリッチ、そしてあの短剣。魔王の魔石の元にこの要素が集まっていたことに、何か強い縁を感じる。引き合うという漠然としない言葉に、アインの意識は強く持っていかれる。



「後最後にこれ、見てみるニャ」



 語りながら数枚の紙を取り出したカティマ。一枚目にはこう記されている。



『魔王の行動についての仮説と、一つの裏切りの疑惑』




 *




 著者であるエルフは、長い時を生き数多くの伝説を調べてきた。

 その中でも特に彼が注視したのは、魔王の行動についての矛盾点。それについて記されている。



 魔王は数百年前、イシュタリカを襲う。だがそれほど強大な存在が急に現れたことが不思議でならない。魔王の強さはまさに強大であり、ただの一度の魔法で数多くの命を奪い去った。



 それほどの強さがあったからこそ、しばらく姿を見せなかったことに疑問を抱いた。

 結果、数えきれない犠牲の上でようやく魔王、デュラハン、エルダーリッチの三名は討伐される。



 だが側近であった二人にも疑問が残った。デュラハンはなぜ敵を待つだけで自らは動かなかったのか、そしてエルダーリッチは決して攻撃魔法を使うことは無く、妨害に徹していたのか。



 断言しよう。デュラハンが先手を取りに行動していたら、エルダーリッチが攻撃魔法を駆使し人々を駆逐していたら、イシュタリカは間違いなく滅んでいた。だからこそ不思議でならない。



 人々を舐め切っていたのか。それはないだろう、なにせこの二人は死ぬ最後に時まで、そのスタンスを保ち続けていたからだ。何度も言うが、だからこそ私はそれを不思議に思った。



 長年の研究により、いくつかのことが発見される。まるで泣き叫ぶように魔王が暴れていた際、デュラハンとエルダーリッチのその動きは、人々を誘導するかのような働きだった。まるで人々を魔王から遠ざけるかのようなその動きは、人々を助けているように思える。



 そしてもう一つ。これが最後のカギとなるだろう。

 魔王のそばにいたもう一人の側近、女型の赤狐の魔物だ。彼女は決して、魔王の本拠地から動くことはなかった。魔王やほかの側近が戦っているにもかかわらず、彼女は何一つとしてしなかった。

 そして彼女の死体は確認されておらず、彼女の引きいていた種族も姿を消した。そして率いていた種族も例外なく、魔王の戦いには参加していなかった。



 赤狐といわれる魔物は、今でも謎ばかりの種族だ。人を化かすことだけでなく、享楽主義なその性質は今だ詳しく解明されておらず、姿を見せることもないため謎ばかりが残る。



 これ以上は私の身に余る事と考えられたため、この研究はここで終えることとする。

 そのためここまで分かったことから、私なりの研究を締めくくる結論を出そう。



 『側近であった赤狐。彼女が魔王の暴走の引き金の可能性が高い』




 *




「……読んだけど。なにこれ、つまりどういうことさ」


「魔王は何かのきっかけで、暴走を始めたということニャ。そしてその結論として、暴走のきっかけとなったのは、一匹の魔物だったと予想されているということだニャ」


「それってさ。つまり魔王自体には、もしかしたら狂暴性はなかったかもって?」


「ていうことだろうニャ。この絵でもみるニャ」



 手渡された一枚の絵。銀髪で儚げな表情を浮かべ、15歳程度に見える可愛い少女の姿。



「えっと、誰?可愛いとは思うけど」


「魔王だニャ」


「っ!?これが、多くの犠牲を生んだとかいう魔王!?」


「魔王はそれなりに多くの人に見られたからニャ。その絵に間違いはないニャ」



 お花畑で遊んでいる姿が似合いそうな少女。それが魔王といわれたアイン。



「彼女が謁見の間にある魔石、それの持ち主だった女の子だニャ」


「……見た目からじゃ、聞いたような悪いことをするような人には見えないね」


「それは同意するニャ。でも結局見た目だけじゃわからないこともあるニャ。……それと、さっきの資料を信じるなら、側近に何かされたというのもあるニャ」


「魔王みたいな存在が、側近にそんなうまく嵌められるかな?」


「何事も可能性として除外するのは愚策だニャ」



 確かにと思ったアイン。実際生きていれば何が起こるかなんてわからないものだ、だからこそ今回の事も、決して可能性がゼロとは思えなかった。




 *




「グラーフ様!頭部の解体終了致しました!」


「ご苦労。では次にだな……」



 彼はグラーフ・アウグスト。今ではアウグストという名前は使わず、グラーフ・オーガストと似たような名を使っていた。

 ここは王都の港。昨晩アイン達が持ち込んだ海龍を陸にあげ、解体する作業にあたっている。



 なぜグラーフがその仕事場にいるのかというと、彼の今の仕事が関係しているからだ。



 彼はハイムにおいて、陸運の総てを担っていた貴族といっても過言ではなく、ハイムでは貿易の覇者と呼ばれていた時代もあった。



 その功績が評価され、ウォーレンから手渡されたいくつかの仕事をこなしていくうちに、イシュタリカ出資の元で新たな商会が作られた。



 オーガスト商会。数多くの商会や貴族と伝手を持ち、大きな信頼を得ている。今ではイシュタリカ王都でも有名な大商会となっていた。その出資元に王家もいることが、何よりのアドバンテージともなっている。



 販売だけでなく、流通や開発業にも手を伸ばし、今回もその流れからウォーレンより依頼を受けて、海龍の素材の管理に勤しんでいる。



「こりゃ随分でかい魔石だ。空っぽになってるが、こんなのを持つ魔物を討伐するたぁ王太子はすげえな!」


「未来は明るいもんよ!さぁ次だ次ー!」



 選ばれた優秀な職人たちが、素材の確保を続ける。海龍はそれなりの巨体であるからこそ、事業としても今回の作業は大切なことだった。



「グラーフ様!グラーフ様ーッ!」


「む……なにか問題があったか?」



 商会所属の職人がグラーフを呼ぶ。



「ちょっと確認してほしいことがありまして、こちらに来ていただければと」


「あぁわかった。アルフレッド、ここは任せた」


「承知いたしました」



 そして今いる現場をアルフレッドに任せ、グラーフは確認に向かう。

 そこは海龍の腹の近く、まだ陸にあげられてないため、海に浮かんでいる。

 海上で解体作業をしていた職人が、あるものを見つけたという。



「急にお呼びして申し訳ない。会長」


「構わぬさ。なにがあったのだ?」


「あれを」



 職人が指さしたところには、二つの大きな青い物体が置かれている。



「なんだあれは?」


「海龍の腹の辺りから採れました。……中は動いています」


「っ……まさか、卵なのか?」


「おそらくは。我々ではこれ以上の判断はできないため、お呼びした次第です」



 アインが倒した海龍は雌で、つまりあの2頭の海龍は番だったということだろう。

 とはいえグラーフも、こんなものが見つかってしまっては自分では判断できない。

 そのためウォーレンへと連絡することにした。




 *




 グラーフの連絡を受け、城から2台の馬車と馬に乗った騎士達が現れた。



「……グラーフ殿。連絡を受けて参った、卵というのは誠なのか」


「正直儂には判断がつかぬところがありましてな。確認して頂きたい」



 到着し、一番に降りてきたのはロイド。そして続いて、アインと共にクリスとディルがその場に姿を現す。昨日付でシルヴァード専属護衛となったロイドだが、事が事なだけあり、ロイドもこの場に足を運んだ。その装備はまさに圧巻。傍にいるだけで圧倒されるオーラがあり、これこそが長年イシュタリカで元帥を務めてきた男の姿だった。



「この青い2つのものが」


「うむ。卵と思われる代物ですな」



 多くの騎士達に囲まれる卵。相手は海龍、たとえ生まれたてだろうと油断はできない。そして海に逃がすわけにもいかず、大所帯で港に来たのだった。



 卵なのかと確認している最中、その2つにヒビが入る。



「っ!ロイド様、孵るのでは!?」



 クリスの声にロイドにも緊張が走る。そして持ってきた大剣を抜き去り、それを構えた。

 その姿を見た騎士達も同様に剣を抜き、それを構える。



「アイン様。お下がりください」


「わかってるよ……今日は無理しないってば」



 無理を言って付いてきたアイン、今日ばかりはクリスとディルの鉄壁の守りから、前に進ませてもらえない。クリスが言うことに素直に従った。



 殻にはいったヒビはすぐに全体へと伝わり、それはすぐに破られた。



「ピィー!ピーッ!」



 姿を現したのは、2匹の小さな海龍。青白く輝くその体は、まさに海龍そのものだった。

 ヒレでペチペチと自分の体を確認している姿、それはとても可愛らしく見える。

 体長はおよそ1m程、胴体は太めで、海にすむ恐竜のような外見をしている。首と尾の部分が長く、まさに龍といった外見に、龍独特の鱗に覆われている。



「クリス殿、ディル。アイン様を」


「承知しております」



 そして剣を持ったロイドがその2匹に向かって行く。今のうちに息の根を止めておかねば、将来危険をもたらすことになるだろう。



「え、クリスさん?ロイドさんあの2匹殺しちゃうの?」


「当たり前ですアイン様……逆に何故始末しないのですか」



 ロイドが近づいたのを確認した海龍の赤子、寄り添いながら甲高い声でロイドを威嚇する。

 体を震わせながら徐々に下がる姿を見て、アインもつい同情の気持ちを持ってしまう。

 そう思っていたら、その2匹と目が合ったような気がした。



「……そっか。もう親が居ないんだもんな」


「アイン様?今何か仰いましたか?」


「それで……親は俺に魔石を吸われた、か。ううん……」


「アイン様……先ほどから何を」


「ロイドさん。止まって」



 その声を聞いたロイドは、振り返ることをせずに足を止める。



「どうなさいましたかアイン様」


「危険だから殺すんだよね?」


「左様でございます。これから先、イシュタリカの障害とならないようにするためです」


「ねぇ。王都では一般的じゃないけどさ、別の都市ではあることだよ。飛龍便とかね」



 イシュタリカにある数多くの都市、その中には魔物を利用している者達がいる。

 幼い頃より飼いならされた魔物たちは、飼い主の言うことをよく聞き、従順に育つ。

 親に忠実な魔物の特性を利用したものだった。



「……なりません」


「クリスさん。ディル。ついてきて」



 突如歩き出したアインを、咄嗟に止められなかった二人はアインに着いていく。

 そのアインを見て、2匹の海龍はピーピーと声を上げ、アインに近づこうとする。



「っアイン様!」


「あぁやっぱり。思ってたんだよね、多分この2匹にとっては、俺が親みたいなものなんだよ。刷り込みとかじゃなくてさ」


「まさかアイン様。海龍の魔石を吸い取ったことで、親と思われていると?」


「クリスさんが説明してくれたけど、そういうことかな。海流のスキルもとってるし、なんとなくそこらへん分かるんだと思うよ」



 2匹の声はキュルルルと甘えるような声となり、アインへと近づこうとする。ロイドが居て近づけないものの、それでもなんとかして甘えようとしているようだった。



「ほらこんなに甘えてきてるもん。クリスさんどう思う?」


「た、たしかにそう思いますが……ですが、危険に変わりはっ!」


「ねぇロイドさん。この2匹、殺すのは簡単?」


「……一息で葬って見せましょう」


「クリスさんとかディルでも同じく?」


「問題ありませんな。今ならば、城にいる騎士たちでも問題なく討伐出来ましょう」



 ロイドに問題ないと言われ、考え始めるアイン。



「檻にいれたら、今日一日だけは管理できる?」


「その程度なら問題はありませんが……どうするおつもりで?」


「こういう時はさ、相場が決まってるんだよ。拾ってきた動物を飼っていいか?ってお願いするのはね」



 まずは親に聞くんだ。そう言ったアインに、ポカンとした顔を浮かべたロイド。クリスとディルは頭を抱えるばかりだった。

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