魔石の古い記憶[2]

「はぐはぐはぐはぐっ!」


「ほんと、よく食べるわね。そんなにお腹空いてたの?」



 旅を続けてきた。二人は長く歩き続け、多くの場所を見て回った。

 出会った時は小さなスケルトンだった彼も、今では立派なリビングアーマーへと進化を遂げている。

 彼には新たに名前が出来た。カインという名で、エルダーリッチのシルビアが付けた名だ。



 今ではもうしっかりと話ができるカイン。長い間シルビアと旅を続けてきたが、今は数十分前に行き倒れの子を見つけ、シルビアが食事を与えていたとこだった。



「ねぇシルビア。この子はなんていう種族なの?」


「夢魔……かしら?それにしては体がまだ小さいわね」


「はぐはぐはぐはぐっ……ふぅ、お腹一杯……ありがとう、でも一つ言いたい。私は将来性の塊……っ!」



 銀髪の少女はどうやら夢魔らしい。行き倒れていた理由はしらないが、とりあえず元気を取り戻したようだった。



「あ、あらごめんなさいね。でもどうしてこんなところで一人でいたの?」


「私は尻尾がない、羽もない。だから捨てられた……それだけ」


「……そう。一人で頑張ってたのね」



 そうしてシルビアに抱き抱えられた夢魔の女の子。孤独に我慢できなかったようで、つい泣き出してしまう。



「っ……」


「お腹はもういっぱい?」


「う……うんっ……!」


「それはよかったわ。じゃあ行きましょう?ここで寝るのは少し大変だから」



 休憩していた場所は山中だったが、坂が急な場所だったため、長い時間いるには向かない場所だった。



「ふぇ……?行くって、私が?何処に……?一緒に?」


「場所は決めてないの。ただいろんなものを見に行くだけ、さぁ一緒に行きましょう?世界には、たくさんのいい物があるんだから」


「……うんっ!」


「ところで君は、何て名前なの?」



 彼女もカインと同じく、ようやく一人じゃなくなった。そしてシルビアとカインの二人と共に、世界を旅することにした。



「……名前?」


「そっか。君も名前はないんだね」


「ほら何をしてるの二人とも、行きますよ。カイン……アーシェ」



 シルビアにアーシェと名付けられた夢魔の少女。初めて自分が手にした名前に、言葉にできぬ嬉しさを抱く。



「アーシェ……アーシェ……っ!私は……アーシェ!」


「よろしくアーシェ。俺はカイン」


「カイン?」


「そう。カインだよ。これから一緒にいろんなところに行こう」


「うんっ……カイン、カイン……お兄ちゃんっ!」


「え、えぇっとお兄ちゃんって」



 少し困った様子のカイン。体をシルビアの方にむけ、どうすればよいのかと様子を伺う。



「あらカイン。妹が出来たのね、じゃあ私はどうなるのかしら?アーシェ、私はシルビアよ」



 アーシェはカインを兄と慕い始める。そしてシルビアにはどうなるだろう?シルビアは珍しくうきうきしてしまった。



「シルビアお姉ちゃん!」


「まぁ嬉しい……ありがとね、アーシェ」



 その言葉を聞いて、嬉しさを滲ませるシルビア。

 山を歩いていたら行き倒れを拾い、その子は妹となった。そうして旅の仲間は3人に増え、旅はこれからも続く。



 旅の先に目的は無く、ただただ世界を楽しみ続けるこの旅。

 人と違い長い時を生きる彼ら、だからこそ移り行く世界を見ながら、時の流れまでも楽しんでいた。



 行き倒れていた夢魔の女の子、名前はアーシェ。

 彼女は長く美しい銀髪を風に揺らし、足取り軽く共に歩き出す。これから先のことを考えると何か幸せで、とても楽しみに感じていた。

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