暗黒ストロー ver.1
「よし……いける!」
「どうしたんですかアイン様?」
日の光が差し込む天気の良い日、アインはイシュタリカ王城”ホワイトナイト”の中庭に居た。
そしてうんうんと頷いてるアインを見かけたクリスが声をかける。
そこにいたのはアインだけでなく、第一王女であるカティマも共に居た。
「ニャ?クリスどうしたニャ」
「カティマ様とアイン様が中庭でなにかしていると聞いたので、様子を見に来たんですよ」
「ふっふっふーニャ。苦節8か月。アインとの共同研究がようやく実を結んだニャ。ほら拍手するニャよ」
全く何を言っているのか分からないクリスだったが、第一王女に言われては仕方がない。
素直に拍手をすることにした。
――アインがイシュタリカに来てから九か月が経った。
筋のいいアインは、3か月で吸収の無意識の作動を制御できるようになる。
その後はクリスとロイドが交代でアインの稽古をつけてきた。
内容は基本的な事が主で、体力作りや素振り……魔法についての授業だ。
そんなアインも6歳を過ぎ、もう半年ほどで7歳となる。
その間、カティマとアインが意気投合してしまったため、よく一緒にいるのを見かけている。
カティマはオリビアが帰国した際も研究室に籠っていたが、基本的に彼女はその研究室へは他人を入れることを良しとしない。
そんな中、アインだけ入室を許可されたことに使用人や騎士、そしてクリスたちも驚いたのだった。
「じゃあそろそろ実験するか駄猫……カティマさん」
「うむそうするニャ。クリスはちょっと退くニャ。そこは危ニャいニャ……あとアイン、駄猫とかいったかニャ?」
「気のせいですよ」
「危ない?……え、えぇわかりました移動します」
「はいここで取り出したるはみんな大好きリプルモドキ(生体)ニャ。さぁアイン!やるのニャ!!」
「……いっけぇっ!!」
カティマはおもむろに傍に置いていた箱から、生きているリプルモドキを取り出した。
リプルモドキは魔物ではあるが、その匂いで虫を引き寄せそれを食べるだけの魔物。
木の棒でも持っていれば簡単に倒せる。
「ア、アイン様っ!?」
アインが気合を入れて出したのは、手のひらから延びる黒い一本の触手だった。
その先には3本の指のようなものが付いていて、鋭利な爪らしきものが見えた。
そしてそれがリプルモドキへと刺さり、その腕を光る泡のようなものが流れていった。
「アイン様それは何をっ!」
「やった、やったよカティマさん……成功だ!ついに研究が実を結んだ!!味もわかる!すごいよこれ!……しかもこのリプルモドキ当たりだ、蜜の香りが強くて熟してる!」
アインはここ数か月の実験でいくつかのことを理解した。
魔石は同じ魔物の魔石でも、味に個体差がある。
作物と同様味に違いがあったのだ。
もう一つは吸い終わった後の空の魔石について。
これはたしかに同じ味はするものの、魔石の生命力を吸っている時と比べると質の低下を感じる。
空の魔石は脆くなる。
そして氷砂糖のように溶ける性質があったため、アインは空の魔石を粉末にして水に溶かして飲んでいた。
デュラハンやリプルモドキなど飲み物系統の魔石、それ以外の魔石の食べ方も研究している。
「やったニャ!!ついに私たちはやったのニャ!」
二人はクリスの声が完全に聞こえていないようで、反応しない。
「ア……アイン様っ!お願いします聞いてください!」
「……あ、ごめんなさいクリスさん。どうしたんですか?」
「どうしたも何もありません!なんですか今の禍々しいのは!」
「よく聞いてくれたニャ、クリス」
「えぇよくぞ聞いてくれました」
「ふ、二人していったい何を」
妙に意気投合している二人を見て、クリスは軽く恐怖を抱いた。
「これは俺と」
「私の最高傑作ニャ!その名も」
「「暗黒ストロー ver.1だ!(ニャ!)」」
*
アインが王太子となった日から数日後、オリビアのことが発表された。
ハイムへと嫁いでいたが離縁。
離縁した理由については公表されていないが、離縁したためイシュタリカへ帰国したと発表。
名がオリビア・フォン・イシュタリカへと戻ることとなった。
イシュタリカで人気だったオリビア、そのオリビアが帰国したことに喜びの声が上がる。
それと共になぜ離縁したのか?そもそもなぜハイムなんかに嫁ぐ必要があったのか?こういった声が多く上がった。
その数日の間、王都貴族の間ではそれなりの騒ぎとなる。
オリビアが帰国したことは勿論だが、更に大きな出来事として男の子を連れて帰国したこと。
王位継承権の問題や、彼の将来のことなど。
多くのことが話された。
将来ラウンドハートから口出しをされないか?いや出されても問題はないたかがハイムだ……数多くの意見が話された。
そんな中、アインの王位継承権……王太子となることの発表。
これにはそれなりの反対があった。
ラウンドハートの問題もだが、イシュタリカにとっての僻地ハイム……そこの血が混ざることを良しとしない貴族がいる。
だが宰相ウォーレン、元帥ロイド……そして近衛騎士団の副団長クリス。
王都でも発言力の高い3人がアインを支持した。
ウォーレンやロイドに面倒を見てもらってきた貴族達は、勿論アインを支持。
様子を見る者達も居たが、決してアインに対して否定的ではない。
城に仕えている騎士や給仕たちの間でも、アインは素直でいい子、そして人当たりが良かったため評判は悪くなかった。
そのため現状ではイシュタリカ王家や王都の有力貴族など、こういった面々の中でも大きな問題は起きていなかったのだ。
*
「はっはっは!暗黒ストローとな!」
会議室にロイドの笑い声が響いた。
中庭での騒ぎを聞きつけ、クリスへと報告をさせていたのだ。
「伝説といってもよいデュラハンの暗黒騎士……そのスキルを使ってできたものが、ストローとは……これまた、くくく」
近くにいたウォーレンまで小さく笑いだす。
彼らとしても、暗黒騎士のスキルを使ってできた最初の技が、まさかストローの名称となるとは思ってもみなかった。
「笑い事ではありませんよ……いきなり何をするかと思えば、全く……カティマ様も次は一言ぐらいくださいね?
「ニャ?」
共に報告に来たカティマ。
彼女は茶請けでもらった甘いお菓子を頬張りご機嫌だった。
「き、聞いていない……」
「まぁ特別大きな事件ではないしよいではないかクリス殿、のうウォーレン殿?」
「そうですな。念のための報告をしてもらっているだけですし。カティマ様、よろしければ原理をお伺いできますかな?」
「むむっ!よく聞いてくれたニャウォーレン!苦節八か月、ようやく完成した暗黒ストロー ver.1について教えてやるニャ」
クリスは考えていた。
ver.1と言っているのだ、つまり改良……次世代機が来る可能性があるのかと、そう思うと少しげんなりしてしまった。
「暗黒騎士のスキルは幻想の手という魔力でできた第三の腕を出せるニャ。これは使い手のさじ加減でどうとでも強くなる暗黒騎士の基本の技で、主力といってもいいニャ」
「聞いた事がありますな。とはいえこの目でみたことはありませんが」
「ロイド殿。もうすでに実際に目で見ることは不可能でしたからな」
「確かにその通りだ」
暗黒騎士のスキルは、数多くの技が使える。
その中の一つ"幻想の手"は、黒い第三の腕を作り出す。
攻撃力や耐久性、腕の長さは使い手のさじ加減で変わるため、使い方によってはそれだけでも驚異的な強さとなる。
「それとドライアドの吸収を組み合わせたニャ。吸収だけでも魔石の魔力は多少吸い取れたニャ。だからこその暗黒ストローのコンセプトニャ!!」
その小さな体で両腕を組み、見下すように立ち上がった。
身長が小さいため実際に見下すことはできなかったが。
「特別製の爪を装着することによって、貫通力と魔力などの伝達力を高めたニャ。グサッと行けるニャ」
「ふむ。カティマ様?それでは確かに突き刺さるのでしょうが、その結果どうしてストローとなるのですかな?」
「よく聞いたニャ!ロイドはいい子ニャ。後で自家製の栄養剤あげるニャ」
「それはありがたい」
優秀な研究者であったカティマ。
彼女が作り、気分で渡してくる栄養剤はとても効果が高かった。
それは元帥のロイドとしてもありがたいと感じる程。
とはいえ調合された素材は秘匿されているため、少し怖い。
「特別製の爪が効果を発揮するのニャ。グサッといくと魔石から魔力を吸えるニャ。でもこれで終わりじゃニャい……暗黒ストローは魔石の生命力を、魔石を体から取り出してなくとも吸える、画期的な発明ニャ!!」
クリスは頭を抱えた。
なんという危険な物を発明したのだこいつらはと。
「カティマ様……それはなんとも強力な」
「でもまだまだ改良の余地があるニャ。アインの魔力に集中力の消費が激しすぎるニャ。あとそれなりに力が強いのが相手ニャと剥がされてしまうニャ」
いくつかの弱点がある、それを聞いても凶悪な能力だった。
寝てさえいれば、確実に魔石から生命力すらある程度吸ってしまうのだから。
「おおっ!インスピレーションが働いたニャ!じゃあカティマはお暇するニャ~」
そう言い嵐のようにカティマは去っていった。
爆弾が如く説明をした後に。
おそらくこれから研究室へと籠り、あの物騒な物の改良の研究をするのだろう。
「はぁ……あの二人は全く。オリビア様とカティマ様が混ざったようなお方だ」
「はっはっは!全くアイン様は逞しく育たれている」
「カティマ様もある程度危険な事はわかっているでしょうし、たまに報告を受ける程度でいいでしょう」
「承知いたしました。それで……ウォーレン様達からもなにか話があるとか?」
クリスを報告に呼んだウォーレン。
だがウォーレンとしても、クリスへと伝えることがあった。
「……ハイムにて情報収集をさせている者からの報告です。ラウンドハート家が取り潰しとなった」
「それはいい知らせですね」
ウォーレンが口にしたのは、ラウンドハート家が取り潰しとなったという話。
クリスとしてはとても良い話だった。
「続きがあるのだろうウォーレン殿?」
どうやらこの報告を受けるのはクリスだけが初めてという訳ではないようで、ロイドも続きを促す。
「目ざといですなロイド殿は……えぇあります。港町ラウンドハートがあったラウンドハート領ですが、これはハイム王家の管理となるそうです、名義は変わらず港町ラウンドハートと」
「なるほど。それで続きは?」
「……ローガス殿が、聖騎士を持つ子をハイムへもたらしたことによる功績で叙爵。希望した名はラウンドハートで変わらずとのこと、爵位は子爵だそうです」
ウォーレンが語った事。
それは胸糞悪いただの出来レースだった。
「それは……本当なのですか?」
「ウォーレン殿。土地は与えられたのか?」
「王都内にそれなりに大きな屋敷だけのようですね。ハイムとしては罰をこのぐらいで抑えたかったのでしょう。ラウンドハートはハイムでは指折りの名家でしたので」
「納得できません!そんなのって」
「クリス殿。確かに我々も納得はできぬ……だが」
クリスは納得が出来なかった。
自分がずっと世話をしていたオリビアが、あんなにも辛い思いをしたというのにこの仕打ちだったから。
「実質の子爵への爵位の降格と、領地没収……とはいえ王都に大きな屋敷は貰ったようですが」
「罰としてはそれなりではあるが……まぁ事情は分かっている。我々が戦争は仕掛けないのを理解しているからこそ、このぐらいにしたのだろう。ハイム王家としても『このぐらいで許して欲しい』という気持ちなのが良くわかる。曲がりなりにもハイムはあの大陸の王と言ってもよい、だからこその強気な部分があるのだろう」
「だからって……被害を受けたのは姫ですのに、気分が良くないですね。舐められすぎるのも気に入りません」
「まぁ我々としても報復……とまでは言えないかもしれませんが、考えてはいますよ」
ウォーレンがクリスへと、フォローするように告げた。
「さしあたり、港町ラウンドハートから出る船は一切が入国できません。それと同時に国交を断絶ですな。あとはイシュタリカ内のギルドにも、ハイム向けの依頼は載せることも禁じられます。それともう一つ……エウロの件です」
いくつかの対抗措置を挙げるが、その中でもウォーレンとして最も推したいのがエウロとの件だった。
「ウォーレン殿、エウロとの話はまとまったんですな?」
「えぇ先日まとまりました」
「エウロとの……海結晶の件ですか?」
オリビアがエウロとの取引を手に入れ、イシュタリカへともたらした。
そのやり取りを少しずつしていたウォーレン。
そしてその取引内容が決まったのだった。
「それは私も気になりますな」
「はっはっは、今から説明しましょう。……とりあえず、エウロと決めたのは海結晶の取引額。これは採掘にかかる諸費用も含みますが、まぁ安い物でした。そしてもう一点、エウロは継続的に海結晶の採掘場を探すこと。それに対する我々の見返りは、エウロがイシュタリカと取引をしていると宣言することの許可です」
海結晶の取引だけでもイシュタリカとしては万々歳の結果となっていた。
そしてエウロから一つ話を持ち掛けられる。
それはイシュタリカの人を何人か派遣してもらい、エウロの民と共に新たな海結晶を探すこと。
発見までにかかる諸費用はエウロの負担とする、ただ代わりにイシュタリカと正式に取引をしていると公表したいとのことだった。
「なるほど。後ろ盾となってくれとは言わないが、匂わせる行動をとらせてくれということですか」
「クリス殿の言う通りです。実りのある取引でした。我々としては安価に海結晶を購入でき、継続的に採掘できる場所を探してくれるとも言っている。これには我々の人員が同行するため、嘘は付けないでしょう」
「ふむ、なかなか良い取引として終わったのではないだろうか。エウロとしても我々のことを口にすることで防波堤を築くことができ、我々としてもハイムへのちょっとした意趣返しとなるわけだ」
エウロとしてもイシュタリカとしてもお互いによい取引となった。
イシュタリカも、ハイムへとちょっとした意趣返しもできているわけで、少しは気が晴れるというもの。
「舐められているのは納得できませんが、今できる中では最大限の報復ですかね」
ハイムはこれでエウロに強く出られなくなる。
クリスの溜飲が少しだけ下がった。
とはいえ本音で言えば完全なラウンドハートの取り潰し、そしてローガスの処分これを望んでいた。
「これで……問題は一つだけ残ったということです」
「なんだウォーレン殿、まだあるのか」
「私も、もうお腹いっぱいなところがあるのですが」
「アイン様に関係することです、是非ご意見を」
「……我らが王太子のことと聞けば」
「引き下がることはできませんね」
アインについてだと言われ、ロイドとクリスはしっかりと話を聞く体制となった。
ロイドは最初からアインへと好印象だったが、今となっては彼の性格や訓練への姿勢をみて好ましく思っており、純粋にアインのことを認めていた。
「どうしても伝えてくれと言われたことがあります。内容を書面にしてありますのでどうぞご覧ください」
「……ふむ」
「これはエウロ経由で?」
「えぇそうですぞ。正直私としてもこの件をオリビア様たちに伝えてよい物か迷っております」
ウォーレンが言うのは、エウロ経由できた一つの連絡だ。
内容は、とある貴族を匿って欲しい、アインとオリビアの知り合いである……とのこと。
もし可能であればエウロ経由でイシュタリカへの便に乗せて欲しいとある。
「名は聞けていないのですか?これではアイン様たちも全く分からないのでは」
「残念ですが、許可を頂けるまで教えられないと。ただ一つ聞けたのは……アイン様に頂いたお花をいつも身に着けておりますと伝えてくれ、そう言っていましたな」
「アイン様もハイムでは意中の女性が居たのですかな?クリス殿聞いていませんか」
「私も聞いた事はありません……ですが、伝えるべきかと思います」
クリスはこの名を知らない貴族の依頼を、アインへと伝えるべきだと感じた。
どういった人が相手なのか、なぜこちらに来たいのかは理解できなかったが、それでもオリビアの知り合いでもあると言っていたのだ。
だからこそクリスは、オリビア達へと伝えることなくこの件を無かったことにはできなかった。
「では伝えましょう」
「うむそうだな、クリス殿がこう言っているのだから伝えてもよいだろう」
「え?そんな簡単にいいんですか?」
「いいも何も……うむ、ウォーレン殿」
「はっはっは。オリビア様とアイン様に誰よりも接しているのはクリス殿ですからな、そのクリス殿がいいと言うならおかしなことにはならぬでしょうし。ですが匿えるようになったとしても、しばらくの間エウロに停泊する予定の我々の船の中ですな。すぐにこちらへ向かうのは日程的にも厳しいでしょう」
クリスは城で一番アインとオリビアに接していた。
……いや、アインについていえばカティマと同程度だろうが。
そのためロイドもウォーレンも、クリスが大丈夫と言うならば伝えようと考えていたのだ。
*
クリスがオリビアとアインへと先ほどの件を伝え来た。
マーサに淹れてもらったであろうお茶を楽しむ二人、その二人をサロンで発見した。
「ほんと素敵でしたよアイン。技の名前も可愛いし、すごいものを発明しましたね」
「カティマさんのおかげです。とはいえうまくいってよかったです」
「ふふふ。でもアインが頑張ったもの、いい子ね。クリスが生意気だったら使ってもいいのよ」
「そうですね、何かあればグサッといっちゃいます」
うぅ……何この会話。
なんで私が刺されることになってるの……。
報告に来たら変な事話してるし二人とも……。
「オリビア様。アイン様……よろしいでしょうか」
少し怖いけど逃げるわけにはいかない、きちんと報告しなきゃいけないから。
「えぇいいわよ、ちょうどクリスのことを話していたの」
「どうぞクリスさん」
うん聞こえてましたからね?
アイン様が開発したのをグサッと刺すって……暗黒ストローとかいうあの物騒なやつですよね?
やめてくださいね?
あれ本当に物騒ですからね?
「はっ。ご報告があって参りました」
「何かしら?私に?アインに?」
「お二人へでございます」
「俺にも?わかりましたクリスさん、続けてください」
でもオリビア様も嬉しそうにしてるし、アイン様も幸せそう。
それが私は一番幸せだった。
グサッと刺されないように気をつけよう。
*
「エウロから?」
「はい。エウロ経由で来たとのことです。そのためなんという名の貴族かも、どこに住む貴族なのかもわかりません」
「お母様。俺が知り合いの貴族なんて僅かしかいないのですが」
クリスが貴族を匿って欲しいという話を報告する。
やはりアインとオリビアも、あまりピンと来ている様子ではなかった。
「えぇそうね……私もアインと共通のと考えると思い浮かばないのだけれど、他に何か情報は無いの?」
「俺も全然わからないです。もう少し何かあれば考えられるのですが……」
アイン達にそう言われ、クリスはもう一つの情報を告げる。
「アイン様に頂いたお花をいつも身に着けております……そう伝えて欲しいと言われたようです。あとはイシュタリカとして受け入れてくれると返事をもらえなければ、名乗れないと」
「……アインがお花をあげた?」
「俺が花をプレゼントしたなんてありましたか?」
この返事を受け、念のため報告したクリスだが語りだったようだと考えた。
「語りでしょうか。アイン様とオリビア様に取り入ることを考えている輩の」
「っ……アイン、お母様分かっちゃったかもしれません。その人の事」
「え、本当ですか?俺全く分からないんですが」
「オリビア様、本当ですか?知り合いというのは……」
「ふふ、そうね知り合い……もうちょっと仲がいいかもしれないわ。でもイシュタリカに来たいだなんて、なるほどなるほど……」
オリビアが誰のことかわかったようだ。
アインは今だ考えているが、自分が花を上げた人なんて記憶になかったのだ。
「アイン、ヒントをあげましょうか?」
「お願いします!」
「ヒントはね。ただのお花をあげたんじゃないわ。アインが作ってあげたの」
「俺が作ってあげた……作って……作って……あぁっ!」
「アイン様?一体その方はどういった方なのでしょうか?そしてイシュタリカにお連れしても良いのですか?」
アインもその人を分かったようで、クリスは呼んでよいものか尋ねる。
話している様子を見る限り、相手は悪い人ではなさそうだ。
「お母様。なんでイシュタリカに来たいのかわかりませんが、大丈夫じゃないでしょうか?」
「えぇいいですよ。なんならそのまま城に住んでもらえばいいし」
「それはさすがに嫌がるのでは……というわけでクリスさん、返事してあげてください」
「承知いたしました。ですがその方の名を聞いてもいいでしょうか?念のためウォーレン様達にもお伝えしなければならないですし」
クリスとしても、念のため名前を確認しておかねばならない。
あとで別人だったとなれば、また問題が起きてしまうからだ。
「えぇいいですよ。……その子の名前はですね」
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