二回目の遠出、(違う大陸の)王都を目指して
ガタンゴトン……ガタンゴトン……。
オリビアから衝撃的すぎる説明を受けてから、数時間。
アイン達は既に巨大な船をすでに降り、別の場所へと移動していた。
余談だが例の船には名前があり、プリンセス・オリビアというのをクリスが説明していた。
「(完全にお母様専用の船だよね)」
もうプリンセスとか言ってるわ、オリビアとかいってるわで、アインとしてはここまで現実見せられたら納得するしかなかった。
プリンセスオリビアの移動速度は尋常じゃなく、港町ラウンドハートから船で通常2,3日はかかる距離、そこにある大陸イシュタル、その大陸にある統一国家イシュタリカまで、港町ラウンドハートから王都へ向かう時間より、短い時間で着いてしまった。
クリスの説明によれば、動力源はハイムにある船と同様に、魔石を燃料にして推進力を得るらしい。
ただ同じ燃料を使っても、速度に大きな違いがでる理由があり、それはエンジンの数やサイズに大きな違いが出るから。
炉の素材などは詳しくしていないが、通常の炉を設置するときは、地盤の固さに合わせてサイズや配置する数を決める。
それが段違いに優れているというならば、船の骨が何か別の、アインが知らない特殊な素材を使っているのだろう。
なぜかはわからないが、魔石を山ほど使っているらしいこの乗り物はアインにとって心地が良かった。
満たされるような満腹感ににた満足感を得た。
「まぁ船の速度よりも、お母様の出自の方が問題だったわけですが」
「アイン?どうしたの?何か言いましたか?」
「いえ、すごい船でしたねお母様」
「ふふ……そうでしょう?私の自慢の船ですからね」
軽くつぶやいたのがオリビアの耳に少し入った。
とはいえあまり気にしていない様子だ。
統一国家イシュタリカ、第二王女オリビア・フォン・イシュタリカ。
オリビアの元の名……いや、もう離縁したのだからこれが今の名前に戻ったといっても良いだろう。
国家に関する勉強をしている時に、アインはもちろんここイシュタリカについても頭に詰め込んだ。
国の面積がハイムvsイシュタリカでは太刀打ちできず、ハイムがあった大陸vsイシュタリカの勝負となる。
それでも、ダブルスコアからトリプルスコアに近い差が付いて負けてしまう。
大陸イシュタルにある、周辺の小さな島の総てを加算したときが、トリプルスコア程で、それを加算せずメインの大陸同士ならば、これでよくやく2倍の広さになる。
その小さな島にも人は住んでいるものの、大概が農民や領民といった職の者たちであるため、そこに軍事的強さは基本的にはあまりない。
というか、アインからしてみればそんな国からどうしてわざわざハイムに嫁に出されたのか、不思議で仕方がない。
*
「……お母様」
「ん?どうかしましたかアイン」
「やっぱりまだわからない点が多すぎて……」
俺が聞いたこと、まずお母様が第二王女だったということに、ラウンドハート家に嫁いだのはイシュタリカにとっても必要なことがあったからということ。
あとは金髪の女性騎士クリスは、お母様の元専属騎士達の一員だったということ、今は別の部署で騎士として任務にあたっているらしい。
ガタンゴトン……ガタンゴトン。
最後に一つ、今向かっている場所についてだ。
その場所はイシュタリカの王都、その中にあるお母様の実家……つまり、城。
白く美しい(らしい)その城は、ホワイトナイトと呼ばれていると聞いた。
名前の由来は、大陸イシュタルを統一した初代の王が、白銀の騎士だったということから。
……俺が一番わからないのは、なぜ第二王女だったということを隠していたのか、もう一つはイシュタリカにとって必要なこととはなんだったのか?
だってそうでしょ、すごいもんここの技術とかいろいろ。
資源も豊富だし、食べ物にも困ってない、戦力だって十分ある。
わざわざあんな国に姫を嫁がせてまでほしいものって、一体なんだ?
「ごめんなさい。急にいろんなことを考えさせてますねアイン」
「い……いえ大丈夫です!別にこれから、お母様と離れ離れになって一人にされるという訳でもないのでしょう?」
よくある話だ。
母が自らを犠牲にして、息子を逃がす。
そうして子は、その母を亡き者にした奴に復讐を誓う。
「それは何よりもあり得ませんよアイン。ラウンドハートで船に乗るまでなら、もしかしたらそういうこともあるかも……って考えてたわ、でも今はそんなこと”できません”から。いろんなこと教えてほしいわよね?私だけで判断できないこともあるの、だから明日……あぁもう日付変わっちゃってますね、今日の朝お城に着いたら説明するわねアイン……いいかしら」
「わかりました。不安だったというよりも、少し興味本位な所があったのでっ!それでしたら、静かに待ってることと致しますね」
「……本当に良くできた、いえ……聡明なお方ですね、オリビア様」
「えぇいい子でしょう?」
クリスさんは船から降りても、近くに控えていた。
彼女曰く、今近くにいる中で私以上に強い者がいないから、とのことだ。
王女の護衛をしていただけあって、やっぱり優秀な騎士なのだろう。
「アレからよくここまでのお方が……・っ申し訳ありません、失言でした」
「……いいのよもう、別にあの人への後悔とか情なんてものは、もうしばらく前にほぼ消えてるんだから、最初からあったかすら危ういのだけれど」
アインの父をアレ扱いし、オリビアとしても、旦那の評価はうーんといった感じの表情。
「(クリスもお母様も、結構言うよね……)」
「あっ!そ……そういえば、今乗ってる乗り物は一体なんなんですか?船を降りるときトンネルみたいなのを通って、そのまま乗り込んだのであまり分かっていないのですが」
乗り換える時には船の中と同じような、しっかりとカーペットをしかれている豪華な道を通ってから、また同じく豪華な部屋についたから、正直なにに乗り移ったのかあまりわかっていない。
外からは、聞きなれていたガタンゴトンという音が少し聞こえてきていた。
だが確信はできなかった。
「これは失礼いたしましたアイン様。乗り換えたのは水列車でございますよ、たしかハイムには似たような乗り物はありませんでしたからね」
「み……水列車?」
やっぱり列車だったのか。ガタンゴトンって音鳴ってたから想像はしてたけど……あぁそうか考えてみれば、あんなバカでかくて高級な船作れる技術があるんだから、列車ぐらいできるか、資源も豊富だし。
でも水列車ってなんだ?水の上走ってるのかこれ。
「はい、水列車です。原理を簡単に説明すると……魔石を砕いたものを、特殊な形の水槽に沈み込ませます。その水槽の底には特別な層があり、外部からそれに作用させ、砕いた魔石に熱を発生させます」
なるほど蒸気か。
石炭とか使ってうごかすより自然に優しそう、煙とかも黒くなさそうだし。
「蒸気を発生させて、それで動かすんですか」
「……驚きました。まさか仕組みをご存知でしたか、アイン様」
「アインいつの間にお勉強してたんですか?」
「たまたまそういった本を読んでいただけですよ」
ごめんなさい、蒸気出すところまでは知ってるけどそれ以降は知りません。
なんかこう……その発生した蒸気の勢いで、タービンとか回すのは知ってるけどもう分かりません。
そもそもタービンの形とか原理も詳しく知らん。
それっぽい雰囲気を醸し出しただけなんです。
「なるほど、そういった勉学も欠かさないとは……」
「本当にたまたまですからね!」
「いい子ですねアインは」
お母様が褒めてくれたから満足です。
たまには知ったかぶりもいい仕事をするもんだ。
「ちなみに、この水列車はどのぐらいの速度が出ているのですか?随分揺れを感じないので」
「速さがあると揺れることもお分かりでしたか……。ご説明させていただきます、最高時速は1100Rですが、通常運行する際の速度は、850から950Rでございます」
Rっていうのはkmと同じ意味を持つ単位でロードと読む、数字の対比は、地球の記憶と同じだからいつも助かってます。
「そんなに早いんですかっ!?」
時速800km~が旅客機の速度と考えれば、列車としてのこの速度の凄さがよくわかる。
だというのに全く揺れず、音もたまに聞こえるガタンゴトンって音以外、聞こえてこない快適さを誇っている。
「はい左様でございます。揺れを感じないのは、この水列車の空間管理装置が特別製のものでございますので、その効果によって制御しているのですよ」
何その空間制御装置って、ここ異次元みたいな何かなの?
窓の近く行くの怖くなってきた。
「な、なるほど……イシュタリカの方達は移動するのも快適なわけですね」
「これほどまでの水列車は民生用としてはありませんよ、ちなみにこの列車は、王都の一番大きな駅であるホワイトローズという駅までの直通です。港から出ている他の水列車とほぼ同様の道筋を辿って参りますが、線路も専用線をそばに敷いてございますし、もちろん駅での降り口も専用の場所がございます」
それで船から列車に直接乗り込む道があったのか。
うーむすごいVIP待遇受けてる気がしてきた。
「でも王族専用車両に乗り込むなんて……少し申し訳なく思っちゃいますね」
アインがそう口にするとオリビアがくすくすと、口に手を当てて小さく笑う。
「お……お母様?何か変なこといいましたか?」
「えぇアインが少し面白くって……ごめんなさいね」
「えぇー……」
俺何か言ったのか?と疑問に思っていたらクリスがそれを説明してくれる。
「アイン様、今まで知らなかった事であり、すぐにすべてを納得するのは難しいとは思いますが……」
軽く申し訳なさそうに、でも説明を続けてくれる。
「アイン様も正統なイシュタリカ王家の王族でございます。第二王女であるオリビア様の正当なご子息であらせられますので、ですのでもちろん正当な権利としてお使いいただけます」
た、確かに俺も王族だった!
それも第二王女とかいう、立場いい人の一人息子じゃん!
そりゃ乗っても当然だよ!また乗せてもらお、ジュース美味しいし。
「正直すっかり忘れてました。確かにお母様の子ということは俺も王族でしたね」
「ご理解頂けたようで幸いです」
「悲しいことを言わないでねアイン?嘘じゃなくて私のただ一人の子なんだから……ね?」
朝には馬車(後方車)に乗って、ハイムの王都では次男に優先順位で負けてパーティに出られず、二次会みたいなものにも当然の如くはぶられたというのに、今となっては王族の一員としてVIP待遇を受けている。
うーんこの流れは予想できなかった。
本音を言うと、神様に頂いた第二の人生の一部なのかと考えたけど、でも確かあのガチャでは伯爵家と書いてた。
だから純粋にこれは、こういう運命だったということだろう。
「ところで……オリビア様」
「はいなにかしら」
「一つ問題……という訳ではありませんが、城に着いてから起こりえる、オリビア様たちにとっての面倒ごとがございます」
「少しぐらいしょうがないわ、急に離縁なんかして帰国したのだから」
「いえ、実はその件で」
クリスさんが言いづらそうにする、どうしたんだ。
「……オリビア様の送ってくださったメッセージバードは確かに到着し、城の王家付きの執事室に届けられました」
メッセージバードとはたしか鳥ではなく、受け手と送り手がワンセットを持つことによって使える使い捨ての連絡器具。
一つの魔石を特殊な加工で二つに分けて、繋がりを保ったまま作動させる。
利用できる距離によって金額が高くなり、今回のように大陸間をまたぐようなものでは価格も相当になる。
金額もネックになるが、一方通行の連絡を一度のみのため使い勝手は決して良いわけではない……と聞いたことがある。
「そうね、だからクリスたちが迎えに来てくれたのだから」
そのおかげであんなにも早く、港町ラウンドハートへと迎えが来たのだ、そうでなくては往復の連絡便を使ってのやり取りとなるため、一週間なんて余裕でかかってしまう。
「届けられましたが、執事室から私共のほうへと連絡が来てから……いえ、来る前もですが陛下……他の王家の方々には、オリビア様が戻ることをお伝えはしておりません」
「あら」
お母様があまり気にしていない反応をする。
けどそれって、結構問題行動になるのでは。
「今回の場合、王族であるオリビア様のご連絡ということで、王家専用列車やプリンセスオリビアの利用権限は、オリビア様が認可されたものとして処理されております」
「えぇそうなるわね」
「陛下に申し上げなかった理由については……」
「大体想像はできるもの。お父様が知ったらホワイトキングを出して来ちゃいそうだし」
「お母様、ホワイトキングとは?」
知らない単語が出たので一応聞いておく。
「お父様……シルヴァード陛下の専用船のことですよ、プリンセスオリビアより大分大きいし、攻撃できるものたくさんついてるしで、あまり出航させるべきではないもの」
「オリビア様の仰る通りです、そして我々が陛下を抑えることは不可能ですので……色々な意味で」
なに色々な意味って、怖い。
「クリスが何を考えているのかはわかっています。執事室の者達を気遣うのを忘れるわけがないでしょう、感謝してもそれを仇で返す真似はしないわ」
「お心づかいに感謝いたします」
お母様自身が王達には伝えるなと命じた、という形に収めるのだろう。
王家専用列車を使う権限についても、プリンセスオリビアの利用権限や出向権限もお母様が持っているようだし。
執事室としてはこういった面で問題がなく、また第二王女であるオリビアから口外するなと命令があれば、従わなければいけない義務もあるんだろう。
「でもそうね……あら、ということは私は急に連絡もなしに帰宅した娘、ということになるのかしら」
「……表現は納得できかねますが。大凡間違いはございません」
「ふふ、いいじゃない。それはそれで楽しそうなんだから」
俺はお母様が楽しそうで何よりです。
「お父様の明日のご予定は?」
「オリビア様をお迎えに出航する前に確認した際には、特別なことはございませんでした」
「そう、ならいいわねいつもみたいに普通に城に入って、お風呂に入ってから私の部屋に向かいます。何か問題があるかしら?」
「い……いえございません、ですがその前に陛下に一言は」
「アインが疲れちゃってるもの。お父様にはアインがしっかりと休んでから、二人であいさつにいくわ。問題あるかしら?」
私にとっては何一つ問題はないと、そういった意思を露にするお母様。
ここまで自由に……自分の意思を素直にいえて、少し強気なお母様は初めて見るな……。
(こういうお母様もいいよね)
とはいえ少し陛下が可哀そうだしフォローに回ろう。
「お母様、急に帰国などということがあれば、陛下もお母様のご家族皆さまも心配してしまいます。クリスさん、この列車が駅に着くのは何時ころになりますか」
「は、はい予定では朝11時頃となっております」
「ありがとうございます。ちなみに王都のホワイトローズ駅から城まではどのぐらいかかりますか?」
「専用馬車で20分ほどでございます」
なら早くて朝の11時半には城に到着だ、城に着いてからはお母様がお風呂に入りたいといっているから……。
「12時半頃に、軽く食事できるようにご用意してもらうことに致しましょう。そして少し急なスケジュールですが1時頃には一休みし、午後の三時過ぎに陛下にお目通り、ということでどうでしょうかお母様?」
「うーん……アイン、それで大丈夫ですか?どうせなら2,3日休んでからでもいいんですよ?」
待たせすぎだ。
さすがにそれはやばい、なんか襲撃されそう。
「お世話になるわけですから……俺にも陛下へ、早めの挨拶をさせてくださいお母様。オリビアの教育は大したものではなかった、なんて思われるのは一番の侮辱となりますし」
「……本当に可愛くていい子ですねアインは、わかりました。そうしましょうね」
よっしゃ抱っこ頂いた。
「そういえば俺の部屋は用意していただけるのでしょうか?いきなり出向くわけですし、失礼にならないか心配です」
「失礼など何をおっしゃいますかアイン様っ……もちろんお部屋は」
「とりあえず私と一緒の部屋にするから問題ありませんよアイン?」
最良の結果に落ち着いたようでなによりだ。
おいクリス、そんな微妙そうな表情で俺たちを見るな。
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