初めての遠出、王都を目指して。

 というわけで王都に向かってます、初王都。

 二台の馬車で王都へと向かう。一台目に父上とアルマ、そしてグリントの3人が乗った。後ろに乗ったのが俺とお母様の二人だ。



「お母様、何考えてるか当ててみせましょうか?」


「あらなにかしら?」


「もう少し…アインのことを考えてほしい、とか?」


「…本当に賢い子ねアインは」



 それはもう、お母様に関して言えば誰にも負けませんよ。

 グリントを次期後継とするとお婆様から聞いてからはや数か月…その間毎夜欠かさず俺を寝かしつけてくれたお母様には愛が限界突破していそうです。



 多少このことが不満だったようだが父上は。

 ふん、お母様のことを大事に考えないから夜も拒否られるようになるんだあのがっかり頭め。



「でも正直、このほうが俺は嬉しかったですよ、お母様と二人のほうが俺は嬉しいです」


「まぁ…ふふ。嬉しいわ、ありがとうアイン」


「いえいえ。そういえばお母様?王都まではあとどのぐらいかかるのでしょうか」


「もう3時間は乗ってるから…もう半分くらいね、疲れちゃった?」


「疲れてはいません、ただ初めての遠出ですから…どのぐらいかかるのかと思って」



 そう、実はこれが俺の初めての遠出なのだ。

 ラウンドハート領である港町はとても賑やかでわざわざ買い物に行く必要もない、それこそ王都と比べても負けないほどの品ぞろえを誇っているから。



 将軍である父上は、何度か国内の砦に足を運んだり城に行ったりと忙しいときもあったが、5歳になったばかりのこの俺がそれについていくはずもなく…。



「そうね確かに。どう初めての遠出は?」


「港町で見ることがない道とか…旅人が多くいてとても刺激的です!」


「ふふ、そうね。では問題です、この歩いている旅人さんたちは何をしている人たちでしょう?」


「え?旅…じゃないんですか?」



 旅人が…?

 旅がメインなんじゃないの?いろんなとこいって、好きに生きて…え、違うの?



「正解はギルドに登録している冒険者よ」


「冒険者!?こんなにいたんですか!?」



 冒険者だと?!

 そしてギルド!そう…夢にまでみたギルド(記憶は消えてるからあんま覚えてないけど)

 でも憧れがあったのはわかる!



「そう、こんなにいるの!」



 ラウンドハート領の港町…名前は港町ラウンドハートとかいうそのまんまの都市だが、そこから王都への道は国内でも一番といっていいほど安全な道だ。



 完全に舗装されていて歩きやすくなってるし、商人も…それこそ徒歩で王都まで行く民もいる。



 それはこの道が王都にとっても港町にとっても重要な道だから、お互いに生命線となっているこの道は王国としても一番金をかけて防衛に関してもだし、舗装丁寧にしているらしい。



「僕もこうしていろんなところに行けるようになるのかな…」


「そうねアインなら…うん、アインならなんでも挑戦できるわ。だからもう少し大人になったら登録しにいってみましょうか?」


「いいんですか?ってそうかやっぱり年齢制限があるんですよね」


「たしか12歳だったかしら。アインは冒険者になったら何がしたい?強い魔物に挑戦したい?それとも新発見をして名を残したいかしら?」


「お母様にキレイな宝石を取ってきますよ」


「まぁ、素敵だわアイン。ありがとうね、こんないい子が息子で幸せだわ」



 まあどこまでいってもマザコンなんですけどね。

 でもそうか…魔物ね。俺が強くなれるなら挑戦してみたいけど、先行き不透明だからね。

 とりあえず保留ということで!




 *




「まだ着かないのですかお父様…もう疲れましたよ」


「グリント、もう少しだから待ってくれ」


「さっきもそう仰っていましたよ」


「むぅ」



 前の車両の中ではアインの弟、グリントが愚痴をこぼしていた。



「いい子だからもう少し我慢してねグリント?後ろが静かなのに、優秀なあなたが我慢できないと恥ずかしいでしょ?」


「っ!?アイン兄様に負けるなんて恥ずかしいことはできない!お父様申し訳ありませんでした」


「よい。初の遠出だからな、疲れて当然だろう」


「そういえばグリント?出かける前に手紙を受け取っていたでしょう?教会からの」


「はい!実は俺のステータスカードが届いたんです!」


「まぁすごいわ!お父様とお母様に見せてくれる?」



 グリントがステータスカードを手に入れたのはアインよりも一年以上早くなるが、これは祖母のイシスが受け取るのを急かしたからだ。

 父のローガスとしても別に急かされたからと言って、それを否定する必要もなかったため貴族用のステータスカードを教会に依頼。



 それが今日出立する前に届いたということだ。



 グリントとしては兄のアインに負けていないか内心ドキドキしていたが、母のアルマと父ローガスはそんなことありえないだろうと考えていた。

 なにせ聖騎士の才能を得ていたのだから。



「ステータスカード…さぁ俺の強さを見せてくれ!」




 グリント・ラウンドハート


[ジョブ] 無し、ラウンドハート家次男


[レベル] 3



[H P] 120


[M P] 94


[攻撃力] 35


[防御力] 41


[敏捷性] 33


[スキル] 聖騎士、防御力成長率UP




「こ、これは…」


「まぁ…まぁまぁ!すごいわグリント!」


「お母様?どうでしょうか?どのぐらい強いですか?」


「グリント!よくやったぞ!」


「わわっ、お父様っ!?」


 両親が大いに喜ぶのもそのはず。

 彼のステータスは12才のいわゆるギルドに登録できる年齢…一人立ちしていると認められる者たちのステータスと比べても勝っているからだ。

 特に体力はずば抜けている。



「本当にお前を次期当主に指名してよかったと思っているよ、今ではこれが正解だったと確信できる」


「ありがとうございますお父様!」


「それにしても…ねえローガス様?聖騎士がスキルですけど…ジョブにはならないのですか?」


「聖騎士のスキルをある程度熟練させていけば、自ずとジョブもそうなるのだよ」


「そうなんですね、安心しました」


「お父様!神は人の思いを聞き入れ、ジョブを変えてくれると聞きました!」


「うむ、グリントはよく勉強しているようだ。その通り…自ずと手に入れたジョブを進化させることもできる。聖騎士の次は天騎士という、我が国でも過去に3名しかなれなかった伝説といってもよい上級職がある」



 それを聞いてグリントは歓喜する。



「では俺はその天騎士を目指せばよいのですね!」


「そうだ。そして私は、お前にはそれができるだろうと思っている」



 天騎士…魔法にもすぐれ、その耐久力はまさに一つの城ともいわれるほどの頑丈さをもち、その一振りの攻撃は千の兵士を屠るといわれる騎士の中でも最強との声が高い職業。

 ステータスも他とは比べ物にならないほど高くなり、まさに敵なしと言われている。



(これで本当に当主はこの子ね…アイン?貴方はもう引き立て役になるしかないの)



 ローガスもべた褒めのグリント。

 もはやアインなんて目に入らないだろうと確信したアルマは優しくグリントに微笑む。

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