また少し時間が経って……

「ふっ…ふっ…!」


 日課の素振りをする。

 もうすぐ五歳になる俺は、ようやくパーティに参加させてもらえることとなった。



 パーティといっても、王都近くに住んでいる貴族達が子供を連れてくる、いわゆる顔見せのような場だ。



 そこに、俺と弟のグリントが参加する。

 3歳のグリントも行くのは、俺と一緒にお披露目が出来て都合がいいからだ。

 父上としては、俺と同じく5歳になるあたりでと考えていたようだが、母のアルマがそれを遮った。

 ——勿論理由は



「うちには立派な子が二人もいるのです、特に聖騎士という輝かしい才能を得たグリント、この子もお披露目に連れていくべきでしょう?」



 つまるところ俺を使って、弟のすごさを目立たせようとしているのだろう。

 父も父で、なるほど一理あると言ってそれを認めたし。

 お母様は後でごめんなさいって俺に謝ってくれた、お母様が悪い事ではないのに。



「はぁ…1000回終わりっと」



 4歳から父と始めたこの訓練、それも今となっては自主練が課せられるほどにはなった。とりあえずの気持ちではあるが俺がやってるのは1000回の素振り。

 さすがにこの歳で1000回なんて無理だろって?そりゃそうだよだから特別製の超軽い木剣です。



 毒素分解はどうしたかって?もう考えるのはやめました。

 努力で成り上がるんだ俺は。



「あらあら今日もお疲れ様アイン」


「お母様!見てたんですか!」



 今となってはお母様の癒しが俺の人生の潤いです。

 だから将来結婚して。



「えぇ見ていましたよ。随分きれいに素振りができるようになりましたね?」


「毎日の訓練の成果がでてきたようでうれしいです」


「…旦那様は?」


「父上はグリントの…訓練といいますか、なんというか」



 父上は最近俺の訓練にあまり顔を出さなくなった、それゆえの自主練である。

 最近彼は弟のグリントの訓練…まだ訓練ができる状態ではないため、剣の握りや立ち方などそういった小さなことからだが始めている。



「…長男を放って、全くあの人は」



 でもいいよお母様、そのおかげでお母様があの人と仲良くしてないのは僕にとっての最高の戦果です。



「俺は一応自主練ができますから、グリントは教えてもらわなきゃ…」


「もうっ…ほんとにいい子ですね、アインは。いい子ですね」


「お母様っ…い、息が」



 この豊かな胸に押し付けてもらえるのは嬉しいが、それでも呼吸がですねお母様…。



「あ、あらごめんねアイン…今日の自主練は終わったのかしら?」


「はい!」


「そうなのね。なら私お買い物に行きたいわ…騎士様、護衛してくださいますか?」


「喜んでお供いたしますお母様!!」


「ふふ…ありがとうかわいい騎士様」



 お母様が買い物に行く?なら俺が守ってやるしかないだろ。

 任せとけ、父上が来ようとも指も触れさせてやらないぜ!



「オリビアさん?お買い物にいくのなら…あら、あなたもいたのね」


「…お義母様」



 俺の嫌な奴2号。

 父上の母、イシス。若いころは美人だったんだろうなと思うけど、どうにも好きになれない。

 ちなみにグリントを愛しすぎて俺を邪魔に思ってる節がある人二号、一号はアルマ。



「…お出かけかしらアイン?不思議ね…弟のグリントが頑張っているのに貴方はもう終わりだなんて。才能で劣っているのだから、数倍の努力をしなければなりませんよ?」


「ご心配おかけして申し訳ありませんお婆様。日課の自主練を早くからしておりましたので…ケガをしないうちにと思って、そろそろ切り上げようかと」


「あらそうだったのね、これは失礼しました。グリントができることとあなたができることを一緒にしちゃだめよね」



 ほんと会うたび会うたび毒吐きやがって。

 分解すんぞ?あ?俺の毒素分解舐めんなよEXだぞ?神のお墨付きのデトックス効果を舐めちゃいけない。



「いえ…ご忠告ありがとうございました」


「いいのよ、いくら不出来だろうとも我が家の跡継ぎの…補佐をしてもらわなきゃならないんですから、当然ですもの」



 これまた何度も言われてるが、こいつらの中で俺はもう跡継ぎにはなれないらしい。

 まあそうだよな、聖騎士なんてもう主人公じゃん。



「そ、それでお義母様?なにかあったのでは?」


「あぁそうなのよオリビアさん。お紅茶を見てきてくださらない?貴女の方が商人より信用できるもの」


「わかりましたわ、いくつか見繕ってきます」


「えぇお願い…あぁそうそう、あと今度のお披露目なんですけど」


「はいなにか?」


「正式にローガスと決めました、グリントをうちの跡継ぎとして公表すると」


「…そう、ですか」


「そうなの。だからそのつもりでお願いしますね?じゃあお気をつけていってきて」



 最近父上がどうにもアルマと話をしてると思ったら、なるほどこういうことか。

 確かにこうして公表するほうがメリットはあるんだろうな。嫁とるにも楽だろうし立場を明確にするのはいいことなんだろう、俺のお母様が悲しそうな顔をしているの以外は。



「お母様、さぁ参りましょう?」


「…アイン、でも」


「私はお母様をしっかりとお守りできるならなんでもいいですよ。それができないのが一番辛いですから」


「…ごめん、なさい。本当に…ごめんなさい」



 とはいってもなあ。

 これが本心なのは否定できない、だんだんマザコンが極まってきたと思うけどそれを治すつもりもないし。

 おかげさまで父上もここしばらくアルマとしか夜も仲良くしてないしで、いいこと尽くしだ。とりあえずお母様、さぁ参りましょう?

 二人でする買い物(護衛近くにいるだろうけど)が楽しみで楽しみで仕方ありませんから。



「そ、そうだわアイン!頼んでおいたものが届いたの!」


「頼んでおいたもの、ですか?」

 

「うん!ほら…楽しみにしていたでしょう?これを受け取るのを」

 

「これって…お母様っ!」

 



アイン・ラウンドハート


[ジョブ] 無し、ラウンドハート家長男


[レベル] 2



[H P] 55


[M P] 41


[攻撃力] 22


[防御力] 21


[敏捷性] 25


[スキル] 毒素分解EX,HP自動回復,訓練の賜物




「う…うわあ!ステータスだ!やった!」


「ふふ、おめでとうアイン。急いで送ってもらってよかったわ。ごめんね?貴族向けのは偽造とかも含めてそういうのうるさいから、手間がかかるの」


「いえありがとうございます!うわあ…あれ、HP自動回復なんて俺持ってたんですか…?」


「あぁそれは私から受け継いだものだと思うわ、両親から一つだけ受け継ぐことができるの」


「へぇ…俺が持ってるのは毒素分解だけだと思ってたので、驚きました」


「少し成長しないとわからないものもあるのよ、それが親から受け継ぐものなの。ちなみにHP自動回復は1%ぐらいずつ、5分に回復するようなものだからね?」



 なるほどそういったトリックがあったのか。

 一瞬チートかと思ったけど5分に1%ならまあ…いやそれでも強いけど。



 5歳の平均がどのぐらいあるかわからないけど、これはどうなんなろ?数字もぶっちゃけよくわかってない。

 …って考えたらお母様が察してくれた。



「いい?HPは貴方の生命力、無くなったら死んじゃうの。五歳の子なら…HPとMP以外は10ぐらいが平均的だった思うわ」


「それじゃ俺は」


「えぇ、平均よりもとても強いわ。おめでとうアイン」

 

「あ…ありがとうございます!」



 なるほどなるほど、お母様に褒められたことで全部吹き飛びそうになったが。

 つまり前に考えた通り素質とかに関して言えば常人より高いんだな。

 正直安心しました。



「あれ?修練の賜物って…何だこれ」


「そう。私はそれがすごく誇らしいの」


「へ?」


「ひたすら真摯に何か一つのことをずっと続けた人が、世界に認められて得ることができるスキル…。子供なのに頑張って毎日つづけた素振りが、神様に認めてもらえたのよ」


「確かに毎日続けてきましたが…このスキルってすごいんですか?」


「えぇ、鍛錬を続けているときに体が疲れにくくなるの、地味っていう人も多いけれど…でもそのすごさを理解できない人たちだわ」



 確かにすごいと思う、自主練を続けてても疲れにくいなんて、回数増やせるしいいことじゃないか!

 でも俺みたいな歳の子がとれるもんなのか?神様もしかして…。


 いや、無粋だな。

 貰えたんだから、素直に喜んでおこう。



 でも、もし神様が見ていてくださったなら、ありがとうございます。

 俺は俺なりに幸せにやってますよ。




「お母様お母様!はやく!」


「はいはい待ってねアイン」



 お母様との買い物。

 ラウンドハート家が管理しているのは王都すぐそばの港町だ、だから様々な場所から本当に色々なものが店に並ぶ。



「お義母様に頼まれたお紅茶もいいものがあったし…あとは、アイン?何見てるのかしら」


「なんですかこれ?中がピカピカ光ってる水晶みたいな」


「あぁそれは魔石よ」


「魔石?」


「魔物が持ってる…人間の心臓みたいなもの。それの魔力を燃料にしてお風呂を用意したり水を綺麗にしているのよ」



 へぇ…あると思ってたけど、まさか本当にこんなものがあるなんて…ていうか普通に露天に売ってるのか。

 まあどの家でも必需品みたいだしそりゃ並べちゃうか。



「そんなに高くないんですか?」


「ものによりけりね。強い魔物から取れたものならそれこそ大規模な儀式でも使えるし…国が侵略されそうになったら、それを使って大きな魔法を発動させたりもできるから」


「へぇ…じゃあ普通にお湯を沸かすならどのぐらいなんですか?」


「一月分で…そうね、3000Gもあれば十分ね」



 余談だが、俺は貨幣価値について結構助かったと思ってる。

 1円=1Gでおおよそ間違いがなかったからだ。正直ありがたい。

 そしてお湯を沸かすのに一月分なら3000円か…一人暮らしのガス代とそんな変わらないな!



「なるほどそれぐらいなんですね。あれ?なんか甘い匂い…」


「あらもう日が傾いてきてるわ…そろそろ帰りましょうアイン」


「あ…はいお母様!…って甘っ!?」



 なんか魔石が甘い匂いだったから隠れてチロっと舐めてみたらキャラメルみたいな甘さだった。

 おやつにいいかもしれませんね、これ。


 

「…あん?なんだこりゃ、おいおっちゃん!」

 

「はいはいなんですがお客さん」


「この魔石なんだ?もう中身ないじゃねえか…ただの水晶みたくなっちまってる」


「ん…?あぁ500Gの魔石でしたか失礼しました。だけどおっかしいなあ…きちんと検品したのに」




アイン・ラウンドハート


[ジョブ] 無し、ラウンドハート家長男


[レベル] 2



[H P] 57 2UP


[M P] 41


[攻撃力] 22


[防御力] 21


[敏捷性] 26 1UP


[スキル] 毒素分解EX,HP自動回復,訓練の賜物

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