2018年4月13日「明日になったら」

一日一作@ととり

第1話

福田明日香は痩せたかった。楽して痩せる本をこの前、古本屋で見つけて買ったのだが、あれはどこへ行ったのか、買って来るや否や、自室の物の中に吸い込まれて見つからなくなってしまった。もう春だというのに、明日香の部屋は炬燵を中心に物でうずもれている。冬も中ほどになって寒さに勝てず出した炬燵が、まだまだ明日香の自堕落な生活をぬくぬくと温めている。

明日香はパジャマのまま炬燵に入ってごろりと寝そべっていた。もう日は落ちかけている。今日も一日ごろごろとして過ごしている。このままでは駄目だ。第一太る。そうは思うものの、着替えて外に出かける気にもならない。そう思いながらごろごろしていると、玄関から急に物音が聞こえた。妹の桜が大学から帰って来たのだ。


「お姉ちゃん、グロス貸して」妹は帰って来るや否やノックもそこそこに明日香の部屋に入ってきた。グロス?そんなものこの部屋にあったっけ?そう思う明日香を尻目に、桜は明日香の部屋のタンスの引き出しを開けまくる。「ひー!ぐちゃぐちゃ」そういいながらお目当ての物を見つけ出すと、「ちょっと借りるね」といって持って行ってしまった。グッバイグロス、新しい人生(?)を新しい主の元で送るがいい。きっとそっちの方が幸せだよ。


桜と明日香は一卵性双生児なのに、こうも性格も体格も変わってしまっている。桜は活発で運動神経が良く、スリムだ。一方明日香はインドア派で、どんくさく、太めだ。その差はどんどん開いていく。こうやって明日香がごろごろとしているうちにも、桜は外を闊歩し、どんどんエネルギーを燃焼している。明日香の体には使われなかったエネルギーが脂肪という形で蓄積されていく。ああ、嫌だ。これ以上、見た目に差を付けられるのは嫌だ。


ずるりと、明日香は炬燵から出てくる。動こう。そう思ったとき、目の前に本が見えた。「部屋を片付けると痩せる」とその本のタイトルは囁く。ふむ、明日香は考え込む、物を買うのが大好きな明日香に対して、妹の桜はすっきりとした生活を好む。部屋はその人を表すのかもしれない。そう思った明日香は、部屋を見回した。ゴミと物が分別されずに散乱している部屋。これが良くないのだ。片付けよう。明日になったら。


(2018年4月13日 了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2018年4月13日「明日になったら」 一日一作@ととり @oneday-onestory

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る