第2話





「何あの人、気持ち悪いんですけど。」


「セクハラされたんです・・・」


「他に好きな人が出来たの。離婚してください。」


「君の代わりはいくらでもいるんだよ」


「明日から来なくていいよ」


「年齢的に、難しいですね・・・」


「バイト?若い子で十分だよ」


「何あのおっさん、ぜってぇ痴漢すんじゃん」









ガンッッッッ






怒りに任せて机を殴り叩く

その衝撃で頭の中を駆け回る苛立ちが収まった




職場の女性にはセクハラだとか無いようなことを言われ

妻には離婚しようと言われ、娘もあっち側

そしてとどめには職を失い、途方に暮れていた




バイトの面接や会社への売り込みで街を彷徨っていると

女子高生には後ろ指を指された




少し前までは夫婦円満で

大事な仕事も任されていたのに・・・



急展開した俺の人生は

止まることなく深い深い谷底へ堕ちていった





何故こうなってしまったのか





見当もつかない






生まれたときからやり直したい


やり直しても結末は変わらないだろうか?





机の上に溢れんばかりのビール缶

割れた食器と食べかけのコンビニ弁当



酔い潰れて寝てたんだっけか

全然思い出せない


ああくそ

頭いてぇなあ







棚に飾ってある家族写真が目に入る



こんなに終わった人間でも

まだまだ涙は流れるんだな、と


しゃくりをあげるほど号泣しているくせに

そう頭の中で考えていた







どうしたら戻れるんだろうなぁ


もう娘とは会えないのかなぁ






ふう、と溜息をついたら

一人の部屋に酷く響いた




まるで『お前は孤独だ』と

全てに言われているかのような感覚






もう眠ってしまおう

次に目が覚めたら、俺が俺じゃなくなってりゃいいのに



ふらついた足で寝室に向かうと

寝室の前に誰かが立っていた







「洋子か?」




俺はここにいるはずのない

洋子・・・元妻の名前をポソリと呟いた









「あ・・・お邪魔してます」








空気を切り裂くような声が聞こえたかと思うと

俺はもう動けなかった






「ホントはおじさんは趣味じゃないんですよ」



「でも、あなたを救いたいんです」





そいつは意味のわからないことを言う


俺は何も言わずにただただ、見つめていた





「人間って、ホント嫌になりますよね」


「・・・お前は誰なんだ?」


「僕?うーん、なんだろう」





そいつは顔を上げて口を開いた


そいつの目は闇そのものだった

何も映らない瞳はただただ深くまで暗く・・・







「あぁ・・・そんな長く話したら情がわいてしまう」





「僕はたぶん、人じゃないんですよ」




「どうか恨まないで」




「今日はなかなか楽しかったんです」




「少しでもお話しできてよかった」




「でも僕は悪魔なんだ。」




「驚いたでしょう」









そう言って笑ったそいつは


触れたら壊れてしまうんじゃないかってくらい


儚げだった






笑ってたのに




泣いているように見えた









楽しかっただなんて




久しぶりに言われたな








そういえば最近人と会話もしてなかった






『楽しかった』


なんて









そんなの



俺もだったよって







言えたらよかったかなぁ





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人喰い ame @amemaru

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