人喰い
ame
第1話
何か、大切な事を忘れている気がする
目を覚ますと
電気の消えた教室にいた
空のオレンジの光が教室を染めていた
いつの間に寝てしまっていたんだろうか
誰も起こしてくれないなんて・・・ツイてないな
スマホを見てみると
映ったのは18:30の文字
テニス部の友達が、部活でまだいるかもしれない
少しの期待を胸に、窓を覗いた
「あれ」
目に入ったのは
誰もいないテニスコート
いや、そこだけじゃない
グラウンドにもプールにも、誰もいない
今日は部活動がない日だったっけ?
まだ寝ぼけているのか
全然思い出せない
私一人だけの空間に
壁につけられている時計の針の音が響いた
私はこの音が嫌いだ
急かされているような気分になるから
なんだか嫌
「・・・帰ろう」
大きな独り言を言い放ち
教室の扉に手をかけた
ヒュウウ
その瞬間、風の音が聞こえた
窓でも開いているのだろうか
さすがに開けっ放しにして帰るのはな・・・
掲示物をちらり、と見ると
『最後の人は戸締まりと電気を消すのを忘れずに!』
という紙
うん、しとこう
もし何かあったとき、責任が生じるのは嫌だからな・・・
カーテンを開けて、開いていた窓を閉める
私はそのときに違和感に気がついた
なんでカーテンが閉まっていたのに
風で揺れなかったんだろう
そう思うと、少し気味が悪くなった
こんな時間まで残ったことがないから
なおさらだ
早く帰ろう
昇降口へ向かう道のりが
とても長く感じる
帰宅部の私は放課後になったら
すぐに家に帰る
まだみんなが騒がしい時間だから
誰もいない時間がこんなに静かなんて知らなかった
私の足音しか聞こえない
そういえばそうだ
まるで私しかいないみたいに静か・・・
見回りの先生や
まだ残っているはずの先生達の
話し声や移動の音も聞こえない
なにも・・・
カツ
私の靴とはまた別の音が鳴った
ヒール?女の先生かな・・・?
やっぱり一人だから不安なんだろうな
今の足音だけでも、心臓が飛び跳ねたままだ
落ち着くように深呼吸をしているときに
私は気がついた
あぁ、スマホがあるんだった
お母さんか友達に連絡しながら帰ろう
そしたら安心できるはずだ
スリープ状態を解除して
画面を見ると
鳥肌が立った
『圏外』
なんで?
ここは田舎じゃないし
すぐそこにコンビニだってあるし・・・
カツ、カツ
頼りにならないスマホを鞄にしまって
早足で昇降口に向かう
カツ
カツカツカツカツカツカツカツカツ
私が早足になると
その音も早くなっていく
「なんなんですか!!」
耐えかねて大声をあげて振り返る
黒いパーカーのフードを深く被って
パーカーと同じ色のスキニーを履いている
そのせいで細い足が目立っていた
なるほど、ブーツの音だったか
と一瞬考えたが
目の前の人物を見て、体が恐怖に溺れる
まるで暗闇が人型に切り取られたようだった
身長は180cmあるのではないかというくらい大きく
おそらく男性のようだった
「・・・―――。」
ぺろ、と舌なめずりをした“その人”
真っ白な肌に真っ赤なその舌が妙に目立った
なんて言ったの?
何も聞こえなかった
最期に見えたのは
悲しそうな表情
あぁ、どうか泣かないで
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