第9話 ペーパーパイロット
扉を開くと、満面の笑顔を浮かべたリタが「いらしゃいませ、今日は祭りに誘ってくれてありがとう。」と出迎えてくれた。リタは普段車いすに乗っているので祭りに出かけるのは久しぶりと喜んでいた。彼女も頬に青色の二重線のペイントを施している。
リタは普段使っている電動車いすではなく珍しく手押しの車いすに乗っていた。
「君がリタをエスコートしてあげるんだよ。」とエリスが俺にリタの車いすを押していくよう促した。
初めからエリスはリタと俺の距離を縮めようと画策していたらしい。
俺はリタに「エリスじゃなく俺が押して行っていいのか?」と問いかけると「もちろん!」と笑顔でこたえてくれた。
エリスは初めからリタと話し合って今日のことを計画していたようだ。
それから俺たちは祭りへ出かけた。
今日一日は町全体がお祭りだった。行きかう人はみんな被り物をしたり顔にペイントを施していた。狼の被り物をした五人組や馬の被り物をしたお年寄り、頬に赤いぐるぐる巻きのペイントを施したおかっぱの少女など、行きかう人みんながそれぞれに仮装をして楽しんでいた。
露店もたくさん出ていて、ガラス細工のペンダントを売っていたり、お面を売っていたりと普段見かけないものがたくさん売られていた。俺は腹が減ったのでリタの車いすをいったんエリスに任せ、肉の串焼きを売っている店で三人分買い、リタとエリスへも手渡した。
エリスは「気が利くじゃん。」といい、リタは「ありがとうございます!」とにこやかにお礼を言ってくれた。 「なに、俺が食いたかっただけだ。」と半分照れ隠しでぶっきらぼうにこたえを返し、さらに人通りが多い道へ進んでいった。
リタは俺にエリスと出会った時期やどうして渡り鳥になったのかなど様々な質問をしてきた。
「エリスとは学園入学のときに出会った幼馴染で、渡り鳥になったのは、、、まあ流れでな。」と少しはぐらかしてこたえた。
渡り鳥になった経緯はあまり人に話す気にはなることができない。人に弱みを見せるような気がしてリタにも話すことがその時はできなかった。
代わりにエリスが「彼、はじめは飛行機の操縦ができなかったんだよ。」とリタに話した。
「違う、知識はあったんだ。ただ乗らなかっただけだ。」と俺は少し怒ったように返した。
確かに知識はあった。日の国は海洋国家だから学院に入ると船の免許か飛行機の免許を取ることが義務付けられていた。なんでもグローバルな人材を育成するために国外へ出る能力を養うのが目的だとか。その時俺は迷うことなく飛行士育成過程を選んだ。空に対する小さい頃のあこがれがきっかけだった。
しかしそれが地獄の始まり、俺はペーパーテストの成績は良かったが、技能はからっきしだった。二人一組で載る訓練機で教官に怒られながら何度も離陸や着陸の練習を繰り返した。しまいには、単位と免許はくれてやるが乗るな、お前の運転では人が死ぬといわれる始末。それ以来エリスと再会するまで俺はペーパーパイロットだった。
エリスに再会してからは渡り鳥として旅立つまで猛特訓の連続だったが、エリスのほうが教官よりも教え方がうまかったのか不思議と恐怖はなく、俺はペーパーパイロットという汚名を返上することができた。
そんな昔話をエリスと話しているとリタはくすくす笑い面白そうに俺たちの話を聞いていた。
ペーパーパイロット。
恥ずかしい話ではあるがそれも今では、一人の少女を笑わせることができる笑い話になった。
夢と約束の果てにあったもの @akk
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