第8話 祭りの約束
しかしリタは優しい子だった。俺たちが手紙を届け終わって飛行場に帰ってきたとき、決まってエリスだけでなく俺にも「ありがとうございます。」と礼を言い、ときには自分で作ったお菓子を俺たち二人に差し入れしてくれた。
ある日、エリスが宿屋で飯を食うとき「リタ、本当は君とも話したいんだよ。ただ君がすぐ少し離れたところに行ってしまうから話しかけにくいだけで。」と話してくれた。
「リタの話だと今度この町でお祭りがあるみたいだから三人で行ってみない?いや、一緒に行こう!」とその時エリスが少し強引に誘ってきたので俺は断ることができなかった。
まあ、断る理由もない。俺は、「わかった。」と言葉少なに返事をし、エリスは「約束だよ!約束だからね!!」といってうれしそうに笑っていた。
約束の祭りの日、俺は宿の一階で目覚まし代わりに少し濃いめのコーヒーを飲みながらエリスが下りてくるのを待っていた。約束した時間を少し過ぎている。これからリタを迎えに行かなければならないのに。
そしたら「お待たせ!」とエリスが俺に声をかけてきた。「やっと来たか、お前自分で誘っておいて寝坊でもし、、、」俺はエリスの姿を見て声が詰まった。
エリスは普段着ているフライトジャケットではなく、白のワンピースに、顔の頬には青色の二重線をペイントして、帽子はいつの間に買ったのか猫の耳のような飾りがついているものを被っていた。
「君、今日はお祭りだよ、なんでいつもの格好をしているの?早く着替えてって、あーもうリタを迎えに行かなきゃ!」
騒がしい奴だ。しかしこの国の祭りには参加したことがなかったので勝手がわかっていなかったのは俺のほうだった。
この国の祭りでは仮装をするのが習わしらしい。一般的には被り物をしたり顔にペイントを施すだけのようだが。今日のエリスの衣装は少し気合が入っているようだ。
リタを迎えに行く道中、俺はエリスに無理やり頬に青い二重線をペイントされた。
「青は渡り鳥のシンボルカラー。それに私たちは二人組だから二重線。単純だけど色々考えたんだから!」とエリスは少し興奮気味に話した。
思えば俺が誰かと祭りに行くなんて学園を卒業して以来のことだった。それはエリスも同じだったらしい。俺は学院に入ったら勉強漬けの毎日。エリスはエリスでマルゲン帝国の内紛で祭りどころではなかったそうだ。
「今日はとことん楽しもう!」エリスは本当にいい笑顔で笑う。
学園でのエリスはこんなに行動的ではなかったし、あの時は俺がエリスを連れ出して祭りに行っていたなと立場が逆になってしまったことについて考えてしまった。
そして俺たちはリタの家の前に約束の時間ギリギリになって着き、玄関の扉をノックした。
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