遥か遠くの地にて

夕闇 夜桜

プロローグ

「……」


 いつもと変わらぬ、太陽光が木々の合間から漏れ出て、窓から光射す室内。

 机に椅子。備え付けられた本棚に入りきらないほどの大量の本は床に置かれ、そのうちの何冊かには何枚かの何かが書かれた紙が挟んである。

 そんな穏やかな風景をも連想させる光景だが、ただ一つだけいつもと違うところがあった。

 というのも――……


『りっくーん、せいちゃーん。

 二人とも、もう私がいなくても大丈夫だと思うし、最後まで言わなくても良いと思うから……ガ・ン・バ・レ~o(*≧∀≦)/\(*⌒0⌒)b♪♪』


 飛んでいかないように重しを乗せられ、机の上に置かれた置き手紙。

 顔文字と軽い口調で書かれた、明らかに読み手を馬鹿にしているであろう手紙それを読んでいた一人の読み手は、わなわなと震えていた。


「クソッ、やられた!」


 一人の読み手こと赤い髪が特徴的な少年が、読んでいた手紙を机の上に叩き付ける。


「何。師匠ってば、置き手紙一つ残して、出て行ったの?」


 今まで外に居たのか、室内なかへと入ってきた青い髪の少女が、少年により叩きつけられた手紙を一瞥する。


「しゃーない。とっとと用意して、探しに行くぞ」

「ん、それなら、もう出来てる。後はどっちに向かったのかを考えないと」

「相変わらずの早さだが、やっぱそっからかぁ……」


 少女の準備の良さに若干呆れながらも、予想していた問題点を提示され、少年もがっくりと肩を落とす。

 何だかんだでずっと一緒に居たとはいえ、気まぐれで行く先を決めるような人物(の思考)を相手に、どの方向に向かったのかを考えろというのは難しい。


「けどまあ、長期戦はいつものことだし、ロクが一緒なら大抵のことには困らない」

「勝手に言ってろ。ただ、今回も発揮するんじゃねーぞ、その人たらし」

「今回も、って言うけど、前もしたつもりはない。逆にロクがハーレム作れるように頑張って」

「ソウ……テメェ、好き勝手言いやがって……!」


 地味に気にしていることを指摘され、赤い髪の少年――ロクが突っ掛かるが、そうなることが分かっていたとばかりに、青い髪の少女――ソウは避ける。


「大陸越える?」

「国境はあっても、それは無いと思いたいな」

「国内でとどめたい」

「無理だろうな。溜まっていた鬱憤を晴らすために動き回るんだから。あの人は」


 口を動かしながらも、二人の動きはまることなく、火の元や戸締まりを確認して、家を出る。


「で、どこから行くよ」

「とりあえず、アルメニア方面目指す。今まで立ち寄った場所を思い出すと、そっちにはまだ行ってないから、向かってる可能性がある」

「なら、行くか」


 ひとまず目的地を定め、二人は家のある『森』を出るべく歩き出す。


 これは、家出癖のある師匠を探して、各地を旅することになる弟子二人――リーロック・ロークウェルとセリアーヌ・ソーウェルの物語である。


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遥か遠くの地にて 夕闇 夜桜 @11011700

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