えんのしたホテル

@mairymairo

えんのしたホテル

 山のそばにある、大きな古い家におばあさんがひとり住んでいました。

 ある年のことです。

 その年の冬はとても急いでやってきて、山もおばあさんの家もすぐに雪でいっぱいにしてしまいました。

 ある日の朝、おばあさんは縁の下にはめてある格子が外れているのに気づきました。

 縁の下には小さな足跡が続いています。

「あらあら、きっと寒いから山の動物が入り込んだのね」

 家の中へ入ってくることはないでしょうから、おばあさんは縁の下の格子も外れたままにしておきました。

 次の日、おばあさんが見てみると足跡が増えています。

「あらあら、居心地がよくてほかの動物もきたのかしら」

 おばあさんはちょっと考えて、ホワイトボードに大きく書きました。


  『えんのしたホテル 一泊につきどんぐり一個

            ごはんつきはどんぐり二個』


 山の動物が文字を読めるとは思えませんが、なんとなくおばあさんは楽しい遊びを思いついたように、ホワイトボードを縁の下に立てかけました。

 さあ、ホテルを開館したとなったらお客さんをもてなさないといけません。

 おばあさんは、取っておいたじゃがいもやりんごなんかを、適当な大きさに切って浅いバケツに入れ縁の下の入り口に置きました。

 お客さんたちは最初は遠慮していたようですが、だんだんと置いておく食べ物はなくなっていきました。


 やがて雪がやんで、暖かい日差しが差し込み始め、おばあさんの家の屋根から雪解けの水がこぼれるようになると、バケツの食べ物は残るようになってきました。

 そして山の雪がほとんどなくなったころ、お客さんはだれもいなくなったようでした。

 おばあさんは少し寂しい気持ちになりながら、ホワイトボードを書き替えました。


   『えんのしたホテルは閉館しました』


 寂しかったのはしばらくだけで、おばあさんはすぐに春の支度を始めなければなりませんでしたから、ホテルのこともだんだん忘れていきました。

 そんな春の朝、目が覚めて玄関を開けたおばあさんはびっくりしました。

 家の戸の前に、どんぐりが山と積まれています。

 芽吹いたばかりの山菜も置かれていましたし、どんぐりに混じって古いお金やきれいな石もありました。

 お客さんたちが宿代を払いに来てくれたようです。

 おばあさんはそれはもううれしくてうれしくて、ホワイトボードにこう書き加えました。


   『ふゆになったら またのおこしをおまちしております』

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