第7話
「落ちついて。誰も君を傷つけたりしないから」
『ヴー!!』
「弱ったな…」
「何事?」
「あぁ、香夜。ちょうどよかったよ」
香夜たちより先んじて、子供の様子を見に来ていた柊が。部屋の外で立ち往生しているのを見つけた。
先ほどの会話からして、どうやら子供は目を覚ましたらしい。そして、かなり
柊のように、
なけなしの望みをかけて。直接子供を助ける手助けをした香夜に、必然的に賭けることになった。他の者は手出しすら出来ないのだから、仕方ないのだが。
これで香夜まで駄目だったなら。かなりの歳月を費やして、心を解きほぐすしかなくなる。それはとても手間で面倒だ。
時間が惜しい訳ではないが、香夜はこう見えて
「…それにしても、本性があるとは思っていたけれど。まさか『
「真神?犬神じゃないんだ」
狼本来の
「うん、あれは真神ね。間違えそうになるけれど、根っこの部分に
人語を理解し、人間の
また、厄除け。特に
「色々混ざっているから~…よーく見ないと気づかない」
「香夜は目がいいから」
「それほどでもある」
二人がのほほんと、会話に花を咲かせていれば。背後から椿の咳払いが聞こえ。同時に空笑いに変わった。
「…あれを放っておいてもよろしいんですの?」
「あら、可愛い」
部屋の奥にある
普通なら、どこから迷いこんできたのかと思うだろうが。子犬から発せられる気配と。布団に寝ているはずの、子供の姿が見えないことから。
「弱りきって、本性が現れたってところかしら」
どれだけ
必死に己の身を守ろうとしている姿は健気だが。どうにも微笑ましいと思ってしまう。緊張感が足りないのだ。
「可愛い坊っちゃん」
子供に対して、優しく話しかける。その
ただただ、怯えて怖がっている小さな子供のことを気づかい。救ってやりたいと願う、慈悲の心がにじみ出ている
「私たちはお前を傷つけたりはしない」
決して声を荒げることも、手を出すこともせず。子供に根気よく話しかけることに専念した。
「お前を助けてほしいと頼まれたのよ」
香夜自身は同情でも哀れみでもなく。己の欲の為に行動しているわけだが。子供自身が気にくわない性格だったら。たとえ欲しい物が手に入らずとも、決して助けなかっただろう。
だが、小さな体で精一杯の
「お前の大切な人…いたでしょう?愛して、慈しみ、心からお前のことを案じてくれていた人が」
死してなお、老婆は孫のことが気がかりで仕方がなかったのだろう。他に頼れる者も無く、かといって子供一人では心配で。
そんな時に、香夜という存在を見つけた老婆は。
人柄を見こまれたことは、素直に喜ぶべきことなのだろうが。子供が香夜を、信じられるかどうかなんてわからない。
信用してもらいたい、信じてほしい。欲徳のことだけでなく。ひどく傷ついている幼い子供を、助けたいと願うから。
心をつないで愛(信仰)をもらう 桐一葉 @bonmocoan
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