大団円 希望ノ轍

 あっ、こんにちは。覚えていらっしゃるでしょうか? ぺこりのマネジメントを担当しております、かっぱでございます。


 今回、本駄作の最終回にあたり、お詫びと訂正がございます。以前、“バー・ぺこり”でのランチパックのCMのくだりにおいて、愚か者のぺこりが出演者をバーチー、いえ千葉雄大さまと言っておりましたが、正しくは山崎賢人さまでした。実写版『キングダム』で信を演じられる山崎さまです。ヤマザキパンに掛けた起用だったらすごいですね。なんにしてもぺこりは年寄りですので、お若い役者さまやタレントさまの顔とお名前が一致しません。キンプリやらセクゾの皆さまの名前なんて一人も言えませんし、AKB48もその他関係グループも含めてわかるのは「柏木由紀と峯岸みなみだけだ」と自慢げに笑います。ましてや乃木坂、欅坂、けやき坂の方は「白石麻衣は美しい。齋藤飛鳥は愛らしい。西野七瀬は卒業しちゃったのね。で、生駒ちゃんは?」程度の知識しかありません。

 いろいろな意味を含めて、本当に、心からお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。(深く、一礼)


 クソッ、かっぱのやつ、所詮は化け物のくせに、サラリーマンの謝罪みたいなことしやがってさ。いいんだよ、誰もきちんと読んでいないんだから! あれっ、いつから聞いていました? もちろん、ジョークですよ。だいたい、今日はおいらの勘によれば、死刑執行日。もちろん、おいらのですよ。出入り自由だった独居房の入り口は頑丈な鍵で閉ざされています。万が一、おいらの支援者が侵入してきて、鍵を破壊しようとしても、そんなことはできないほど頑丈な、特別注文で入手したものを使用しているそうです。たぶん、おいらの組織の怪獣兵器、タートルキングと同じ金属を使っているのではないでしょうか? だから、実のところ、おいらの組織の科学者たちなら破壊できると思うのですがね。あえて、そういうことはしません。おいらは正直、死を望んでいるのです。ご存知でしょう? 飲めないワインを大量に飲んだり、クローゼットのポールにネクタイを結んで首吊りを図ったり、ノリトレンという向精神薬を大量に服用したり、いろいろな方法で自殺を図りました。しかし、なぜか、全て未遂に終わってしまいます。おいらは神を、いわゆる一般ピープルが信じる神様というものを否定しています。しつこく持論を言いますが、神とは大自然、地球、宇宙そのものなのです。そう思っています。では仏はどうか? おいらが不動明王を信じていることは覚えていますか? そうですね。だから、神よりは仏に気持ちは寄ってはいますが、なんというか、それは心の平穏の拠り所として大切にしているという感じです。なので、不動明王がおいらを死刑から救ってくれるなんて奇跡を想像してはいませんよ。だいたい、不動明王は仏教を信じない悪党を羂索という道具で、強引に冥土へ持っていくという、どちらかと言えば、恐ろしい仏であります。ただ、その本性は大日如来という御釈迦様よりもえらい最高の仏なのです。これらの知識は躁病でキチガイだった頃に勉強しました。


 さて、朝の食事が配膳されてきました。いつもの通りの弁当です。暖かくはありません。中身も、玄米入りのご飯、野菜の煮物、よくわからない魚のフライに漬物。なんだか、これを食していると「おいら、監獄にいるんだなあ」と思えて、感慨深いです。それまでが、あまりに自由でしたからね。

 さて、扉は閉ざされましたが、ネットの利用は許されているみたいなので、おいらはYahoo!ニュースを覗きました。相変わらず、この世にニュースのネタは尽きまじ。たくさんのニュースが目の中に入ってきます。

 NGT48の事件は、被害者の娘さんがなぜか謝罪してしまうという、驚天動地な錯誤状態っていうんですかね。しかも、謝罪をしたら、逆に怒られるというか、炎上しているというか。よくわからないや。でも、よくわからなくていいと思うの。最近のアイドルの世界って一度入ったら抜け出せない、密林だったり、底なし沼だったり、つまりは尋常でない世界。もしかしたら異世界っていう、おいらの嫌いなワードで表されるものではないのかな? ある人には桃源郷、ある人には地獄絵図。その頂点に君臨する秋元康先生にはお金というものがこれでもかと降ってくる。床が抜けなければよろしいですね。豪邸だから抜けないかな。

 竹田IOC委員長がフランスで贈賄だかなんだかで事情聴取を受けているとか、訴追の準備を取られているとか? 詳しくはおいらの脳みそでは理解できませんが、この小ちゃな脳みそで、考えたんですよ。もしかしたら、竹田IOC会長とカルロス・ゴーン被告の人質交換をフランスは狙っているのではないかなあと。ヨーロッパの戦争って、敵の武将を捕らえて人質にすると、金と交換したり、人質交換をしたりしていたと世界史の授業で習ったような、習わなかったような? ヨーロッパ人の気質は当時とそんなに変わらないでしょうから、この作戦で、ゴーン被告を取り返そうとしているのではないでしょうか? つくづく、東京でオリンピックを! なんて意気込んでた人たちがバカに思えます。あの時、都知事だった人って、なんか賄賂だか不正融資の問題で吊るし上げられて、鞄に模造のお札の束が入らないっていう赤っ恥なシーンをテレビで全国に放送されて辞任した作家でしたよね。当の本人は自分よりかなり若い写真家さんと再婚して喜んでいるらしいよ。呑気なもんだね。

 まあ、あとちょっとさあ、おいらご立腹なんだけど、日本テレビさんが、なんかやたらと、五代目、圓楽師匠のドラマを宣伝しているでしょ? 主役はおいらの高校の後輩である、谷原章介だって? 笑点メンバーも出演だと! うわあ、絶対観ようって思ったら、BS日テレじゃん。そんなの地上波で宣伝しないでよ。勘違いしちゃうじゃん……と、思っていたら、いつもの看守の先生が入り口に立っていました。

「囚人444号よ。仮にBSが房内で観られたとしても、残念だが、お前はそのドラマを視聴することは出来ない」

 よく見でみますと、たくさんの看守の先生や、刑務員の先生方が立っています。お待たせしました。その時が来たようです。

「囚人444号、出房!」

 静寂の中にひときわ大きい命令の声。おいらはおとなしく房を出ると、手錠を掛けられ、腰縄をきつく結ばれました。おいらは、お世話になった先生方に深々と一礼しました。なぜか、泣いている先生もいます。おいらは特に、何も感じませんでした。


 おいらは小さな部屋に連れていかれました。「ああ、ここか」と思います。よくTVで観る、教誨室というやつです。中には神父さんではなくて、坊さんがいました。やっぱりね。裏のお寺さんの坊主が教誨師役なんだな。

「囚人444号さん。いいえ、よろしくま・ぺこりさんに戻りましょう。あなたは日本国憲法および、刑法に定められた規則に基づいて、この世を離れなくてはなりません。それについて、何か希望があればおっしゃってください」

「あのう……」

「なんでしょう? 恥ずかしがらずにおっしゃいなさい」

「はい……では、申し上げます。天然のうな重の特上が食べたいのですが……」

「えっ……あなたはクマですがサケではなくて、特上のうな重が食べたいのですね?」

「ええ。ムリですか?」

「いや、なんとかしましょう」

 やがて、岡持ちを持ったおじさんが現れ、特上うなぎのお重が出前されて来ました。おいらは一心不乱に食します。ご飯粒ひとつ残しはしません。

「満足されましたか? ぺこりさん」

「あのー……」

「うん? 心残りがあるなら、おっしゃいなさい」

「はい……ローソンのプレミアムロールケーキを五個ほど、食べておきたいのですが……」

「はあ。確か駅前にローソンさんがありましたな。小僧に買わせに行きましょう」

「ありがとうございます」

 小僧さんは全速力で走って来たのでしょう。息を切らしていました。おいらはプレミアムロールケーキを五ついっぺん、口に頬張りました。

「もう満足かな?」

「あのー……大変申し上げにくいのですが、おいら、ドクターペッパーを五本ばかり飲みたいのですが……駅の向こう側のダイエーなら売っていると思います」

「ああ、そう。じゃあ、仕方ない。小僧を走らせるかな」

 坊主の機嫌が悪くなって来ました。でも大丈夫。おいら、すぐに死ぬのだから。

 小僧は青い顔で帰って来ました。おいらはドクターペッパーを一気に飲み干し、豪快にゲップをしました。

「もう、いいでしょう」

 坊主がちょっと強めに言ってきました。その態度にカチンときちゃったおいらはわざと炊きつけるように言いました。

「煙草が吸いたいのです」

「机の上にあるでしょう」

「これはダメなのです。これは“メビウス”。つまり、かつての“マイルドセブン”です。マイセンはおいら体質に合わなくて、すぐに頭が痛くなってしまうんです。おいらの所望は“キャビン”のタール3mgなんです。お願いです。これで最後にしますから」

「ああ、絶対最後じゃぞ」

 坊主は小僧を呼びましたが現れません。走り疲れて、リタイアしちゃったみたいです。

「仕方ないなあ。拙僧が買い求めてこよう」

 坊主は教誨室を出て行きました。すると、ひょっこり、先ほどの小僧がやってきて、おいらに言います。

「準備万端整いました。あとはご武運をお祈りします」

「ああ。でもおいら、武士じゃないからご武運は違うんでないの? もっと、勉強をしなよ」

「はい」

 小僧は出て行きました。


 やがて、坊主が帰ってきました。

「一箱でよろしいな?」

「もちろんです。煙草を吸いながらで、失礼とは存じますが、お話をしてもよろしいですか?」

「ええ、もちろん」

「おいらね、正月というか、冬休みにTVで中継される学生のスポーツって大嫌いなんですよ。正直、『ガキどもの部活動をなんで観なきゃならないんだよ!』と思っています」

「ふーん。そうかなあ? 拙僧は青春の汗、好きだけどなあ」

「ただね、今年はちょっと感動して、珍しく、涙が出そうになったのです」

「ほう」

「まあ、本放送ではなくて、ニュースショーで観たのですが、『全国高校サッカー選手権』の開会式で、広島代表の瀬戸内高校のキャプテンくんの選手宣誓だったと思うんですけど、彼がね、昨年の多くの災害の被災者に寄り添ったことを言ったんですよ。これって異例なことだし、文章を考えるのだってたいへんだったでしょうね」

「拙僧も観た。とても感動的じゃった。僧侶として、とても考えさせられましたな」

「でしょ? ああいう、若い人がたくさんいれば、日本も安泰だなと」

「拙僧はぺこりさんは、ジョークとギャグとフェイクしか話さないと聞いておりましたが、真面目なことも言うのですなあ」

「あのですねえ。死を前にして、ジョークなんて言えるのは映画『マン・オンザ・ムーン』でジム・キャリーが演じた、コメディアンくらいですよ。あの人はすごいです。名前は忘れましたが。死んでいるのに、なぜか今だに年に一回くらい姿を表すんですよ。もちろん幽霊ではない。まあ、誰かが変装してるのでしょうが、すごく壮大なジョークですよ」

「ほう、面白いですな」

「すみません。あとはこれだけ言っておきたいです」

「なんでしょう?」

「映画の『カメラを止めるな』、金曜ロードショーで近日放送だって。おいら死んじゃうから観られないじゃないっすか! すげー、無念です」

「映画館で観ればよかったですな」

「お金がありません。区役所から戴いているお手当は食費で消えて行きます。おいらのエンゲル係数は森永の“チョコボール”で金のエンジェルが出る確率の……すみません。おいら、計算苦手。何を言っているのか自分でもわからなくなっちゃいました。へへへ」

「比べるものにかなり、無理がありましたな」

「そうですね。ついでに、本当に最後にしますけど、ちょっとだけ毒を吐きます。ブルボンさんの“アルフォート”というチョコレート菓子なんですけど、なぜか、“ミルクチョコ&リッチミルクチョコ”が混ざったものしかないんです」

「申し訳ないが、拙僧は和菓子しか食べないので意味がわかりません」

「説明しますね。要はリッチミルクチョコの方がミルクチョコより断然に美味しいのです。だからリッチミルクチョコだけの商品を出せばいいのに、そういうものは存在しないんですよ。ですから、おいらが元妻とアルフォートを食べていると、どっちがリッチミルクチョコを多く食べたとか言って、大げんかになるんです。どう思われます?」

「……ちょっと、答えに窮しますな。拙僧の勉強不足です。アルフォートでしたな。今度、小僧に買って来させましょう」

「ああ、おいらの生きているうちには答えが聞けないのですね」

「うぬう。申し訳ない。ところで、あなたはクマですが、拙僧のような仏教徒の教誨師でよかったのかな?」

「ええ、大丈夫ですよ。でもお坊さんのところは曹洞宗ですよね。おいらの宗派は違います」

「どこの宗派でしたかな?」

「華麗宗です」

「な、なんと。あの、謎多き宗派ですか。その辺のお話も聞きたかったが、もう、かなり予定時間をオーバーしているようです。心は落ち着きましたかな?」

「はい。腹はくくっています」

「そうですか。まあ、執行の時は僭越ながら、拙僧が読経いたしますので」

「ありがとう存じます」

 やがて、教誨室の扉が開き、刑務員の先生たちにおいらは連れ出されました。


 死刑執行室は真っ白な色に塗装されています。天国に一番近い場所というイメージからでしょうか? でも、ほとんどの死刑囚は閻魔大王の裁きで地獄に落とされるわけですから、どす赤い塗装の方がいいんじゃないのと、おいらは思いました。いやあ、考えていたより冷静だな、おいらってば。

 死刑執行を監察する場所には、あの山下法務大臣を始め、警察庁長官、最高検事総長、最高裁判所長官、国家公安委員長、警視総監など法務関係のお偉いさん方が多数お見えでした。中には「ヒトが死ぬところが見てみたい」とかいう、ミーハーな輩もいるのではないでしょうか? 残念でした。おいらはクマ。ぼくはクマ。イッツ・オートマチック!


 なんか、風の噂で聞いたのですが、国連の安全保障理事会ではアメリカ、ロシアはおいらの処刑に賛成したものの、東南アジア、中東、アフリカ、中南米各国の国連大使の皆さまがおいら、というか妹がかつて行った、善意の行為? まあ要するに、お金のばら撒き的なこととか、余剰戦闘員を動員した人道的行為を賞賛して、おいらの助命、さらにはノーベル平和賞への推薦まで議題に取り上げたらしくって、かなり紛糾したんだって。最終的には中国が拒否権を発動して、流会。結局、答えは何も出なかったんだそうです。

 山下法務大臣は相当焦っていたみたいです。だって、天皇家のお代替りまであと数ヶ月。もたもたしていると、その方の準備が忙しくなってしまう。で、新天皇が御即位してしまうと、縁起が悪いから一年くらい、死刑は執行できないし、恩赦で、おいらの罪が減じられる可能性があるわけさ。やるなら、今でしょ、という感じなわけですよ。阿呆首相もたいそう気をもんでるんだってさ。だから、今日という日を迎えたのです。なんだかさあ、おいら、政治利用されてるのですね。


 みなさん、こんにちは。この回の冒頭に現れました。よろしくま・ぺこりにかつて命を救われ、家来となり、今は動物プロダクションにて、ぺこりのマネジメントをしております、実は河童国のプリンス、でも泳ぎが下手な、F .かっぱでございます。本シリーズにおいては終盤まで、ほとんど出番がなく、たいへん気に病んでおりましたがプロデューサーたる、作者の方のぺこりさんにお声がけいただき、かなり露出が増えました。なので本作を通読されていられる酔狂な皆さまには認識をされているのではないかと期待しております。

 ええと、今回わたくしが出てまいりましたのは、ひとえに、わたくしの主人であり、大切なタレント。そして数少ない親友であり、盟友でもある、ぺこりの最期をどうしても、目に焼き付けておきたくて、関係各所にムリなお願いをいたしまして、立会いの場にいるわけでございます。結構な大金を使いました。下げたくない頭を下げました。大事なお皿を触らせろという変態趣味を持つ輩もいました。ええ、わたくし、我慢をいたしました。まあ、そのことはどうでもいいのです。

 ああ、ぺこりが引き立てられてきました。刑場の前で、目隠しをされています。ウッ、ウププ。刑務員さんはヒト用の目隠しを準備していたようで、ぺこりの両目はバッチリ見えています。刑務員さんたちがかなり、動揺しています。あっ、ぺこりが何か言っています。「おいら、怖くないから目隠しはいりません」ですって。ウソですね。ヤツが小心者だということは二十年来の付き合いがあります、わたくしが誰よりも知っています。あれ、刑務員さんの一人が何か言い返していますよ。ああ、そういうことですか。頸をつって落下した時のショックで、目ん玉が飛び出してしまうそうです。それを防ぐために目隠しが必要なんだそうです。なるほど、勉強になりました。そういえばぺこりは何かにつけて勉強と言って、わたくしや自分の部下たちに、偏った知識をひけらかしていましたね。

 おや、今、別の刑務員さんがかなり長めの布を持ってきました。ぺこりは「これシルクだよね? ナイロンだと、アレルギーが出ちゃう」とか叫んでいますが、誰も相手にしていません。ぺこり、諦めたのか、おとなしく目隠しをされています。

 そして、刑場に連れて行かれます。おとなしいです。暴れません。ヤツだって本来は凶暴なクマなんだから刑務員くらいやっつけられるでしょうに。なんで、暴れないんだよ! なんで、悪あがきしないんだよ。生きる努力をしろよ! バカヤロー。

 あっ、たいへん失礼しました。わたくし、友人の死を前にして取り乱してしまいました。恥じ入ります。


 ああ、今、頸に太い縄が装着されました。執行のボタンは三つあり、三人の刑務員さんがスタンバイしています。取材によると、このボタンのうち二つは空打ちで、一つだけが、床の奈落に通じているそうです。これは他人の命を奪うという職務がかなり、刑務員さんの心のストレスというか負担になるので、可能性を三分の一にすることで、若干でも負荷を軽くするという配慮だそうです。まあ、今回縊り殺すのはクマですけどね。刑務員さんの負担を軽減したいなら、AI搭載のロボットにやらせればいいと思うのですが、失敗のパーセンテージが上がるので、現状では採用できないそうです。まあ、将来はどうなるかわかりませんけど、われわれ庶民は真っ当に生きている限り、死刑にはなりませんから、どうでもいいことです。ちなみに、死刑執行は一人、一回のみ。失敗したらもう一回やり直しとはならないそうです。じゃあ、失敗しちゃった死刑囚はどうなるのでしょう? 今まで、何人の死刑囚が執行の失敗という場面に遭遇したのでしょうか? 取材元の方は笑って答えませんでした。


「執行準備。用意はいいか?」

 所長が言います。

「用意よし!」

「了解! 執行!」

 ブザーが鳴り響きます。三人の刑務員さんがボタンを押します。奈落の口が開いた! 

 その瞬間、わたくしは見てしまったのです。ぺこりの口がイタズラっぽく、笑ったのを。


 VIPたちは固唾を飲んで執行の瞬間を凝視していました。


 すると……


『ドッスーン!』

 ものすごい音がして、地響きがしました。まさか、こんな時に、第二次関東大震災? と思えたほどの揺れが起きます。


 続いて……

「うわー、痛ーい。救急車呼んでー」

 という刹那な叫び声が響きます。


「なんだ? どうした?」

 所長がものすごく慌てています。

「だ、誰か、地下一階を見てこい!」

 唇を震わせて、所長が命令を出しますが、刑務員さんも、居合わせた看守さんも腰が抜けたようで動けません。


「クソッ、だらしがないやつばっかりだ。私が見てくる。所長、地下一階にはどうやって行くんだ!」

 ごうを煮やした、山下法相が所長をせきたてます。二人は走り去っていきました。


 申し訳ございませんが、わたくしに言える事実はここまでです。はっきりとは申せませんが、さる筋からの強烈な圧力がかかっているのです。わたくしには妻も可愛い子かっぱもおります。家庭の平穏を守ることが一番大切なのです。どうぞ、ご理解ください。さらに、お詫びがあります。ここで、この駄文も終わりです。わかる方にはわかると思いますが、「えっ、結論は?」と思われる方もいるでしょう。でも、嘘偽りなく、これでこのエッセイと言っておきながらフィクションばっかりと批判を受けそうな駄文は幕を閉じます。作者曰く、「フィクションと感じられる部分は全て、キャラクターぺこりの妄想、または夢なの。だから、厳密にはフィクションではないのさ」だそうです。わたくしは思います。キャラクターとか言っている段階で、アウトだろ、と。現代ドラマに移れよとも。あれ? 喋るクマとかわたくしのような妖怪が出てくるということは? もう、ジャンル分別不可ではないですか! まあ、長くなりましたので終わります。いつかまたお会いできたらいいですね。あれ……どこかで、ぺこりは次回作のこと言ってませんでした? えーっ?。


(おしまい)

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出入り自由な独居房〜かくも長き余生〜 よろしくま・ぺこり @ak1969

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