第35話こころとこころ ⑪
今ひとつハッキリとした答えを出せないでいる俺に、美咲ちゃんはにっこりと微笑む。
「もちろん、お兄さんだけに負担を負わせるつもりは無いんですよ。わたしもそれなりの覚悟を決めています!」
覚悟って、美咲ちゃんは何をしようって思ってんだ? 彼女は結構思い込みの激しいタイプなので、いやな不安が頭をよぎる。
「えーと、覚悟というのは?」
「それはもちろん、わたしがミステリー研究会に入って、お兄さんのお手伝いをするんです」
「えっ、あ、あのさ、今やっているテニス部の方はどうするの?」
美咲ちゃんは県大会で三位以内に入る実力があるのだ。
「それはもちろん、続けますよ。でも、それと同じくらいお兄さんのお手伝いをしたいって気持ちも強いんです」
美咲ちゃんははにかんだ様に耳を真っ赤にしている。
な、なんだこれは、何か一転して、告白タイムみたいな雰囲気になってきたぞ。
俺の顔まで熱くなってくる感じがする。
「あのぉ〜〜〜っ、二人の世界に入り込んでらっしゃるようですけど、誰かお忘れになってません?」
おっと、すっかり、葵の存在を忘れていた。
葵はほっぺたをリスが木の実を頬張っているように、プクゥーと膨らせて怒っている。
「あ、ああ、ごめんごめん」
「まあ、いいわ」
腕を前で組み、相変わらずふて腐れた表情で、
「で、何時までここにいるつもりなの? 時間も遅いし、大事な話も終わったんだから、後は明日でいいんじゃない?」
「ま、まあ」
「ええ、そうね」
俺たちは互いに色々なわだかまりも消え、柔和な表情で別れの挨拶をして家路についた。
正直、こんな形で結論が出るとは思いもしなかった俺にとっては、本当にあの場面で葵が来てくれなかったらと思うとゾッとする。
「ありがとうな」
公園からの帰り道、俺の前を鼻歌交じりで歩いている葵に声をかけた。
「ん? なに? 気持ち悪いなあ!」
振り返り露骨に嫌そうな顔をしている。
そうかよ!俺の感謝の言葉がそんなに気持ち悪いんかよ。くそっ、感謝して言葉にしなきゃ良かった! 俺のありがとうの言葉を返してくれ。
「でも、今回はわたしが頑張った訳だし、なんか、ご褒美的なものがあっていいと思わない?」
なんか、言い方が気に食わないけど、まあ、しゃーないか。
「シャルロッテのケーキ3個でいいか?」
「5個!」
「5個って、お前、そんなに食べれるのか?」
「全然大丈夫だよ。あそこのケーキは超美味しいから10個くらいはいけるかも!」
その細い身体の何処に10個のケーキが入るんだよ! っていうか、どうしていつも甘いものをたくさん食べてるのに、その体型を維持できてるんだ?
「しゃーねーな。5個ってことで」
「やったぁ!」
まあ、いろいろ問題も残ってそうだが、俺の探偵人生の第二章が始まるのかな?
ケーキ! ケーキ! ってご機嫌に歌いながら歩いている葵にやや苦笑しながら、新たな出発を期待して俺の頬も緩む。
そんな俺の姿を、振り返った葵が怪訝そうな顔で見ている。
「何ニヤけているのよ! 気持ち悪いなぁ!」
「いや。別にニヤけてなんか無いし…………」
「へぇ〜」
葵は俺の顔を首を傾げながら覗き込み、そしてニヤリと微笑んだ。
「あのさ、ひとつ言っておくけど」
「なんだよ」
「あんたのことを完全犯罪で殺せるのは、私だけだからね」
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」
こいつは俺にとって、最高のいも……いや、最高に怖い妹なのかもしれない。
俺と妹が美少女から受けた依頼はストーカー事件ではなかったのか? ワイルドベリー @tuka_you
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます