憑依型巫女系《シャーマニック》魔法少女男子モズヤン
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憑依型巫女系《シャーマニック》魔法少女男子モズヤン
「――あ、モズヤンだ」
と、あたしがついひとりごちたのは、ガッコのかえりにたまたまモズヤンをみっけてついでにその場所がちょっと意外だったからで、駅前のテナントビルの一階に入ってる本屋、の大通りに面してるガラス越しに、モズヤンがたぶんガッコがえりの学ラン姿のまんまのカッコで雑誌コーナーの一角に不動の体勢で陣取ってメッチャ立ち読みしてるのが見えた。というかガン立ち読んでる、モズヤン。
モズヤン、
でもあんまり本とか読むイメージがないので、あー、モズヤンどんなの読むんだろ?ってあたしはわりと軽率に店内に足を踏み入れ、
「オッス、モズヤンなに読んでんの?」
とわりと軽率に話しかけると、モズヤンは、
「おー。びっくりした。トキタ、なに、かえり?」
と、あたしのほうをチラ見して微塵もおどろいたふうもなく呟くとまた手にした雑誌を読みはじめる。あいかわらずなにを考えてるのかよくわからない無駄にいいテナーヴォイス。
ちなみに、あたし、トキタ、
「おー、かえりー。だからモズヤンなに読んでんの?」
と、モズヤンの手元をのぞきこんで、さすがにすこし考えることになった。
「あー、まあなー」
と、曖昧に返しながらモズヤンが依然ガン読みし続けている誌面では、わたし!自分のライフスタイルに全力でコミットメントでサクセスフル!って感じの自信にみちあふれた表情のおねーさんがビシッとキメたコーデでポージングしてる。
というかクラスの女子連中が読んでるようなティーン向け雑誌とかよりもタゲッてる層がだいぶ上目というか、下手するとアラサーとよばれるレイディたち向けの婦人ファッション誌をモズヤンはガン立ち読んでて、あたしはさすがにあっけにとられる。というか若干ひく。
「あっ」
「ん?」
「おつかい?」
おかーさんの?
「いや、うちかーちゃんいねえべ」
「あっ」
あたしは思わず真顔になる。
なんかモズヤン父子家庭らしい。
「ごめん」
と謝ると、
「べつに」
と、モズヤンはほんとにべつに気にしてなさそうなフラットなトーンでまた雑誌を読みはじめる。
「いや、おれも大変なんだわ」
と、べつに大変でもなさそうに言う。
「はあ」
「ミッチーこういうの好きみたいでさ、勉強しとかねえとさー」
「え、ミッチー?」
彼女?
「ミッチー彼女なわけねえべ」
わけないの?
「というか、トキタ、それどったの」
と、いきなり訊ねられる。あたしはきょとんとする。
「どれ?」
「頭」
「あー」
と、あたしはおでこを撫でておもわず顔をしかめた。やっぱまだ痛い。
「さっきコケちゃってさ」
と、それはもう見事なコケっぷりだったのである。
なんかしんないけど道でけっつまづいて自販機のカドに頭からゴーン!
たぶん結構リッパなタンコブできてるはず。
「トキタ最近おおくね、そういうの」
「あー」
そういえば最近おおいかも。膝も朝コケてすりむいてるし、こないだも校庭で野球部のファールボール直撃喰らったし。
と、あたしが直近のアクシデンツを頭の中でさらっていると、いつのまにかモズヤンが雑誌を読むのやめてなぜかわりと真剣な感じであたしのほうをジッと見てる。というか、え、あたし心配されてる?モズヤンに?
「トキター」
「うん」
「いっぺんミッチーんとこいくぞ」
「えっ」
なんでモズヤンの彼女のとこ?
「だから彼女じゃねえべ」
怒られた。
「トキタおまえマジそういうとこだからな?」
な?とわりとマジなトーンで言い聞かせられた。なんか心外。
「あー、堤防あっだろ」
「あー、てーぼう」
ハイコンテクストな会話だが、あたしとモズヤンの意思は疎通してる。
あたしたちのガッコのそばには川が流れてて、堤防一周3キロぐらいが冬のマラソン大会の定番コース。
「いっぺんかえって橋んとこ集合な」
「えっ」
「すぐな、すぐ」
モズヤンはめずらしくどこか有無を言わさぬかんじで、立ち読みしてた雑誌を閉じ、きちんと棚に、戻さず、レジに直行した。
買うんだ、マダム向け婦人誌、ちゃんと。
ついでにレジ袋も断ってたので勇者だなと思った。
つーことで、橋のとこである。
言われたとおり一旦ウチかえって私服に着替えたあたしはモズヤンが来るのを待ってる。
つーかウチからここにくる間にもなんとなればもういっぺんコケて手のひら剥いたので、やっぱりなんかおかしいのかなーって思う。そういや最近生傷が絶えない。生傷系女子。
そうこうしてるうちに視界になんかヤバイ人影が映り込んだのであたしはほぼ直感的に視線を逸らす。
ヤバイヤバイ、あれ目ぇ合わせちゃイケナイ系のヤツや。
そう思ってあたしが足元のアスファルトのヒビ割れから顔を出したツクシの生命感に思いを馳せていると、
「おー、トキター、待ったかー」
と、朴訥としたモズヤンの声が聞こえ、
「あっ、だいたい今きたと」
こ、とあたしは答えかけてヤバイヤバイ空耳だった目ぇ合わさんとこ、かなわんわほんましかしー、とふたたびツクシを凝視する作業に没頭しようとすると、
「おーい、トキター、聞いてるか、トキター」
とやはりモズヤンの声がするのであたしはふたたび視線を上げ、絶句した。
「トキター……だいじょぶか」
そうしてあたしの顔を覗き込んでくるのは、当の目を合わせたらあかんやつな人影で、モズヤンで、モズヤンだった。
モズヤンは顔にかかったサラサラヘアーを指でよけながら、再度問う。
「だいじょぶか?トキタ?」
もちろんさっきはそんなヘアーなどなかった。モズヤンはいつも適当な近所の理髪店の15分カットのみ2,000円みたいな感じだったし、それがいまや前髪パッツンのサラサラストレートロングを指にたばさみながら小首を傾げている。
「だい……じょひ……っ!?」
思わず奇声を漏らしながらあたしも小首を傾げるが、気持ちの中では小首どころか360度回転してあたしの首は捻じ切れている。
「ん?」
モズヤンが怪訝な顔でツケマ盛々の瞳を瞬かせる。タチの悪いことに化粧もバッチリ、ナチュラル系の薄塗りファンデだがきちっとチークとシャドーもさしてて春色カラーのリップがグロッシー。
こう見るとモズヤン、わりと顔立ちは悪くないんだな、ってあたしはヘンなことを考える。鼻筋スッととおってて目元涼しげなちょい凄味のある美人に見える。モスグリーンのマキシ丈ワンピにオフホワイトのサマーニットカーディガンを軽く羽織ったコーデも自然だ。
だが、なんというか、残念なことに、所作というか、動きが、モズヤンなのである。
こう、動作がいちいち、こう、外に開いてるというか、おくゆかしくないというか、いつものモズヤン。雑。
そのわりに足元はきっちり高めのピンヒール履いてて、そのせいで元々タッパあるモズヤンの上背がさらに限界突破してて異様だ。
人間の脳ってのは優秀だね?さっきは一瞬チラっと見ただけでそんな感じの情報を瞬時に処理して、あ、なんかヤバい人が歩いてくる、って判断したんだから?しかし、あー、よく見ると、あー、知人です、残念なことに、はい。
「あ、モズヤン、なにやってんの……?」
脳内ではモズヤンのことを新喜劇ばりにドツキ回しながら、あたしが実際にできたのは気弱そうにそんな声を漏らすことだけだった。
「あー、これ?」
モズヤンがちらっと自分の胸元を見下ろしながら言う。
「ヘン?」
オフクロがユニクロでダサT買ってきちゃってさ、のノリで、言う。
「あー……いや、似合って……んじゃない……?」
ヘンだよ!!!!!っていう脳内・あたしの絶叫は困惑するリアル・あたしのフィルタをとおして微妙に変調して出力される。
いや、コーデは悪くない。罪はない。いや、しかし……と懊悩するあたしをよそに、モズヤンは「おー、よかったー」と胸を撫で下ろしている。そして、言う。
「じゃ、いくべ」
帰りマック寄るべ、のノリで、言う。
「……い、いく?」
「おー」
モズヤンは手首を返しながらパチンと指を鳴らし(チェケラー(ウゼエ))、
「ミッチーんとこ」
え、ちょっと待ってそのカッコで行くの?勇者すぎない?
あたしが戸惑う間にも、モズヤンは踵を返し、ずんずん歩き始める。いつものマラソンコースとは逆方向で、車止めのポールの向こうに一回り細くなった堤防の道が続いていて、その先はこんもりした森、というか山?の中にすっと吸いこまれている。
そっちにも道があるのは知っていたが、その先になにがあるのか、あたしは知らない。たぶん、クラスのだれも、知らない。
モズヤンだけが知ってる。
「ところでモズヤンさ」
「んー」
「あたまどしたの、それ」
「あー」
「カツラ?」
「いや、ウィッグな」
「ウィッグ」
ウィッグて。
モズヤンが、ウィッグて。とあたしがツボにはいっていると、
「トキタ」
と、モズヤンがわりとマジな声を出すのであたしは、
「えっ」
とすこし姿勢を正す。モズヤンは、やっぱりわりとマジなトーンで、
「ミッチーへそ曲げるとむずかしんだからな?おまえのことだぞ?な?」
「あっ、うん」
「ちょっと、そういうところだからな?トキタ?な?」
なぜかまたも日頃の素行もふくめて言い聞かせられてる感じになってあたしは理不尽なものを感じるが、ここはあたしがわるかったっぽいのでおとなしく自身の不明を恥じるしかない。
しかし、なんだかんだ、なんというか、慣れた。
はじめはすげー戸惑ったけど、モズヤンがあまりにもいつものモズヤンなので、まあ、そういう日もあるのかな、って感じになってきた。トモダチだからね。フレンズ。こう、広い気持ちで受け止めることにするよ、うふふ。
と、あたしは現実逃避する。
でもさー、これ、なにが正解だったのよ?あのとき「ヘンだよ!!!!!」って言っとけばそれなりの対応を取ってくれたの?くれない気がする。「あっ、マジ?サガルわー……」とか言って、ふつうに「じゃ、ミッチーんとこいくべ」ってなってそうな気がする。モズヤンはそういうとこある。
というか、これはいまなにをしてるんだろう?あたしたち、どこに向かってるんだろう?人はどこからきて、どこへ向かうというのだろうか?
つかよくあんなヒールで歩けるな。さっきから折れそうでこわい。あたしマジムリ。
あれから道はガチ山道に突入して、はじめは雑なコンクリ舗装があったけどすぐ途切れて獣道みたいな道なき道になり、そこをモズヤンはたっかいヒールでひょいひょい登ってく。あたしは適当につっかけてきたクロックス(のバッタモン)を後悔してる。
というかミッチーってなんだよ?そもそも人名なんだろうか?そうだとしてこんな山の中にいったい誰かしらがいるのだろうか?それにしても疑いようもなくもはや山である。そんなとこに女装してるとはいえ男子と――むしろ女装してるあやしい男子とふたりきりというのはアリなんだろうか?あたしはさっぱりわからなくなってる。
そんなあたしが笛吹きケトルなら真っ赤に赤熱してピーーーーーッ!!と笛を吹き鳴らしてる加減に内圧が上昇中のとき、モズヤンがふいに、
「ついた」
「えっ」
「ミッチーんとこ」
と、道無き道の脇を指す。
目をやると、落ち葉に埋もれかけているが、たしかになんか石の段々がある。
見上げると、苔むした鳥居。
「っへぇー」
あたしは思わず素直にそう口に出す。神社だ。神社である。
堤防の先の道がこんな山ん中まで続いてるのもそうだけど、こんなとこに神社なんてものがあることをあたしは生まれてこのかた十五六年ほどその周辺をウロチョロしながらまるで知らなかった。
というか、なに?ミッチー?ここが?
疑問に思う間にモズヤンは石段を登り始めていて、あたしも後を追う。鳥居をくぐる瞬間、なにかひやっとしたものに体が触れたような気がする。
「ん」
なんか手ぇ洗うとこ(水はすでに枯れている)の前で、モズヤンが提げてたリングハンドルにストロー素材がおしゃれなトートバッグから水筒を取り出して、あたしに手を突き出してくる。
「ん」
あたしも手を突き出すと、モズヤンが水筒の水をあたしの手にパシャパシャかける。ちめたい。その流れで口もゆすぎ、んぺっ、と干からびた水盆に吐き出す。
「いちおーな、いちおー」
そう言ってモズヤンも手をパシャパシャして、口をんぺっとした。
「んで」
と、向き直ると、古びた木の……なんて言うんだろう?祠?があって、手前になんか半分穴が開きかけてる賽銭箱とかがある。
さすがになんとなく私もわかってきた。
「これがミッチー?」
「ミチハヤミズハノヒメな」
パードゥン?なんて?
「まー、略してミッチーな」
まー、ようするに災難続きのあたしのために加持祈祷しに連れてきてくれたってことだろうか?
「トキター、おまえなんかわるいもん憑いてんべ」
「え、マジで」
マジらしい。
「え、なに憑いてんの?」
「わかんね」
「ちょ」
キッパリと断言された。
「まー、そこらへんふくめてミッチーにみてもらっから」
というかミッチーミッチーいいのかよ?ミッチーむずかしんじゃないの?
「ってどうやんの?」
見てもらうって?
「つか女装どしたあああああ!?」
今まで触れないできたけどおおおおお!?とあたしはふいに限界を迎えキレる。
「えっ」
あたしのシャウトにモズヤンはビクッと肩を跳ねさせ、不思議そうに自分のことを指差す。
「おれ?」
おれだよおおおあんた以外だれがいんのよおおおお!?
「あー、だってよ、考えるべ」
「おう」
「例えばさ、トキタ」
「おう」
「どうせ乗るならノーベルとか乗りたいべ?」
「んん?」
んん?
「おれならシャイニングでいっけどさ、やっぱミッチー的にはライジングとかなのよ」
「いや、あたし乗るならマンダラとかがいいな」
ネーデルとか。
するとモズヤンはあたしのことを指差し、「っはぁー」と心底残念そうな溜め息を吐く。
「トキタ、マジそういうとこだからな」
な?と言い聞かせられる。理不尽だ。
というかほんとに話が見えない。え、なに?ミッチーどこいった?
「だから、いまからミッチーにオりてもらんの」
「オりる?」
「あー、おれの体かすんだわ」
「っへぇー」
そんなことできんの?
つか体かすってすごいじゃん、もうそれゼータだよゼータ、うおおおおれの体をみんなに貸すぞおおおおお!!
そういえばモズヤン父の仕事はフリーの神主っていうか、教団ひとり、みたいな、なんかあやしげなアレだったことを思い出す。
「で、そのとき、ミッチー、ヒメだから、女のカッコしてないと怒るべ?」
「っへぇー」
なるほど?
「えっ、じゃあそんで女装?」
「んだべ」
「……あのさモズヤン」
「んー?」
「着いてから着替えたらよかったんじゃね?」
うわ、とモズヤンが片手で口元を押さえる。格好が格好なので完全に、あらやだいやだわ奥様、のポーズ。
「トキタマジさえてんな」
「まじで思いつかなかったのかよ!!」
「ちがっ」
自然と「ちょ、待てよ」とキムタクのモノマネしてる人みたいになりながらモズヤンが言う。
「メイクとかいろいろあんだよ」
「あー、まー」
実際あたしより気合入ってるというか、逆にあの短時間でこの仕上がりを叩き出してくるモズヤンのエキスパートぶりにあたしは慄然とする。
「まあ、今からミッチー呼ぶから」
と、ついにモズヤンが祠のほうに向き直る。
呼ぶつってもどうやるんだろう。まずはやっぱお賽銭かな、と思ってると、モズヤンは例のバッグの中からさっき買ってた例の婦人誌を取り出し、賽銭箱の向こう、祠の軒下に丁重に置いた。よく見るとそこには似たような雑誌が何冊も積み重なってる。うぉいミッチー興味津々だなファッションに。
モズヤンは賽銭箱の前に戻ると、二回お礼し、パンパン、と二度柏手を鳴らした。それでもう一度礼。
へぇー、ここはふつうなんだ、と思っていると、モズヤンは一心になにか唱え始める。
お経よりかメロディアスな独特な節回しで、カシコミカシコミ、とかフレフレとか、えー、なんとかフルーリーフルリレロみたいなそんなフレーズが切れ切れに聞こえる。
それも段々低くなって聞き取れなくなり、ついにぽそぽそとかすかな呟きに変わって、途切れてしまう。
そしてふいに、カッと顔を上げると、
「モズヤン?」
ぞくっとする。
目の前にいるのは、モズヤンではなかった。
さっきまでこう、外側に開いてた感じの関節がくっと内側に入る感じというか、たたずまいがオトメ。背もひとまわり縮んだような錯覚を受ける。
その顔はいつものモズヤンの顔と変わらないはずなのに、モズヤンが絶対に浮かべない静かな表情をたたえていて、あたしは思わず身震いする。
知らない人(というかこれがミッチーなんだろう)になったモズヤンは、ツケマ盛々のマブタを優雅にしばたかせると、
「あら」
と、やはりいままで聞いたことのないモズヤンの声で言う。
自分の服装をしげしげと見回し――くるっと袖や裾をひるがえす動作もとってもオトメ――ついと優雅に口許に手を寄せた。
「
モズヤンじゃないモズヤンの声で話すモズヤンの姿のモズヤンじゃない人(めんどいので以後ミッチー)はうっとりと呟くと、くるりと可憐にターンを決める。
「
動きにあわせてチラリチラリと覗く足首の白さがまぶしい。ムダ毛処理の余念なさにあたしはモズヤンのマジ気度を窺い知る。
「しかしのう、これに合わせるならヒールでなくとも、ほれ、この間の夏号に載っておった、サンダル、そう、コルクウェッジのソールのやつじゃ、あれとかがじゃな……」
「あのー」
と、会話が外に丸聞こえの脳内会議を始めるミッチーに思い切って声をかけてみると、びくっとミッチーがこちらに向き直る。やはりその顔はモズヤンなのにモズヤンじゃなくて、あたしはドキッとする。
「おお……」
ミッチーはあたしの顔を見るなり、喉を震わせると、優雅に口許を隠し、
「
「えっ」
「
「そんなに!?」
そんなにヤバイの!?
「そなたよく生きとるのう……」
しみじみと言われた。
「あのー、なんか憑いて、ます……?」
あたしがおずおずと尋ねると、ミッチーが盛大に眉をひそめる。
「いと
「えっ」
「口に出すのも
「えっ」
「
「えっ」
最後のそれ本格的にヤバイやつじゃない?
「まあ、こやつと
イゲンあふれる声音でミッチーが宣う。
「
「まじっすか!?」
まじで!?
「あ、でもあたしお供えとか持ってきてねっすわ……」
「ふむ」
ミッチーは優雅に頤に指を添えると、思案気な声を出す。
「ま、初回じゃしのう、限定お試しサービスじゃ。ロハで構わぬ」
「おっ、あざーっす!!」
話わかるぅー、というかサービスとかロハとか通じるのか、フランクだな、神。
「その代わり」
「えっ」
「この者のこと、今後ともよしなに」
そう言って頭を下げるミッチーはやっぱりモズヤンじゃないモズヤンの顔をしていたけれど、モズヤンにおかあさんがいたらこんな感じなのかもしれない、という気がした。
モズヤンはなに考えてるのかよくわからないけど、話してみるとわりとおもろいのでクラスのみんなとゆる~く友達というか、でも逆にそれってみんなからゆる~くハブられてるって感じで、そういうふうに自分からしてる感じがあって、それっていいのかなあ、と思ってたけどあたしはバカなのでモズヤンにちょいちょいからむぐらいしかできない。でももうちょっとぐいぐいからむことにしようかな、とあたしは思う。
「それでは、娘」
「あ、はい」
姿勢を正したミッチーがあたしを指差して言う。
「動くでないぞ」
「あ、はい」
そう念を押すと、ミッチーはヒールを脱ぎ捨てる。むき出しになった裸の足が、すうっと落ち葉の積もった石畳の上を滑った。
ひゅうと風が鳴った。
ミッチーの動きは止まらない。スケートのような地面との摩擦を感じさせない動き。だけど、フィギュアとかバレエとかそういうのとはどれとも違う。
弛まぬ弧を描く下半身の動きと、ゆるゆると波間をたゆたうような上半身の動きが不思議と同居したまま、あたしの周りで円を描きながら移ろっていく。
もしかしたら、これが舞踊っていうもののもっとも古い在り方なのかもしれない。そんなことを思う。
ちょうどあたしの周囲を一周して、ミッチーの舞は終わった(その位置は、きっと元いたとこの足跡と1ミリ単位でぴったりになってる)。
あるべきものがあるべきところに、ぴたっとハマった感触がした。
強引な静止の気配はない。ミッチーが生み出したなんかの流れみたいなものがいまもあたりをうねりながら流れているような、そうした気配の中、ミッチーがやおらあたしの両肩を掴み、
「え、ちょ」
後ろを向かせると、
「はイぃー!!」
気合とともにあたしの背中をドーン!!
「えげっへぇっ!?」
あたしはつんのめりながら思いっきりむせる。
「これで安心じゃぞ!」
ミッチーが達成感に満ちたいい笑顔で言う。
えぇ……なんかミスティックな舞まで披露しといて、最後はどついて直すの……?
正直、直ったのかどうかあたしにはよくわかんない。もともと自覚症状なかったし、つか、まじでいいのがはいった、ゲッホ、ゴホっ……!!
「それではの、娘」
涙で霞む視界の向こうで、ミッチーが面を伏せるのが見えた。
「カミとの約束、
「あ」
そして顔を上げたときには、それはモズヤンだった。ミッチーは、一瞬でモズヤンに戻っていた。
「おー、どだったトキター?」
モズヤンがミッチーだったときの優雅さとかが微塵も感じられない動きでズケズケとこちらに歩いてくる。
「ミッチーなんつってた?」
「あー」
“この者のこと、今後ともよしなに”
ミッチーのモズヤンのおかあさんみたいな顔を思いだす。
「モズヤンのことよろしくって」
「はぁーっ?」
モズヤンが盛大にいやそうな顔をする。
「ウッゼ。おかんかよ」
「ぶっ」
あたしはツボにはいる。おかんて。逆にちょっとおかんだって思ってんだ。
「んっだよトキター」
「あっひゃっひゃっひゃ」
あたしが本格的にツボにはいって笑い転げていると、「んだよー……」とモズヤンは不満げにボソボソ言ってたけど、
「で、マジどうだったべ?」
「え?」
「わるいもん、ちゃんととってもらったかー?」
「おー、バッチシ」
「おー、じゃあ帰んべ」
よくわかんないけど、ミッチーがタイコバンだったので、いいんだろう、たぶん、とあたしが返すと、モズヤンが適当にぺしぺしと足の裏の土をはらって、ヒールを履き直しながら言う。
「モズヤン」
「ん」
「あんがとね」
「おー」
モズヤンが指を鳴らしてビッとあたしのことを指差す(チェケラー(ウゼエ))。
「ビッグマックいっこな」
ロハじゃねえのかよ、と思ったが、まあ、あれはミッチーで、モズヤンとは違うので、
「おけ。バリューセットつけていいよ」
と、あたしは太っ腹にそう宣言する。
「お、マジ。よっしゃ」
素直にはしゃぐモズヤンを見ながら、今度ミッチーにもお供え持っていこう、なんか、マダム誌、とあたしは思った。
そんでもってその後のことであるが、ミッチーのご加護か、あたしの生傷はピタッと絶えた。ついでに失くしてた広島もみじまんじゅうのキーホルダー(きにいってた)がひょっこり見つかったりして、ミッチーパネェな、ビッとしてるわ、とあたしは尊敬の念を新たにした。
「あ、モズヤンだ」
そしてあたしはふたたびガッコのかえりに立ち読みしてるモズヤンをみっけて、やはり軽率に声をかける。
「やっほ、モズヤン、なに読んでんの」
つか、ミッチーのお供え、なにがいいかモズヤンにおせーてもらうのもいいかもしれない、ってあたしはその手元を軽率にのぞきこみ、固まる。
「おー、なに、トキタ。びっくりした」
と、やはり微塵もおどろいたふうもなく呟きながらモズヤンがガン立ち読み続けるのは、あたし!ゆるふわガーリー小悪魔コーデできょうもアゲアゲ↑とクラスの女子連中が読んでる中でもだいぶエッジを攻めてる系のギャル御用達ファッション誌で、すわミッチーご乱心召されたか、とあたしが唖然としていると、そこはモズヤンも二度目のこと、心得たことか、オーライ落ちつけ、トキタ、おまえの言いたいことはわかる、とこころなしかニヒルな笑みを浮かべる。
「まー、おれもいろいろあっわけよ」
おれ、これからユリコとデートだから、のノリで、言う。
「ガイアがおれに、もっとかがやけ、って囁いてんのよ」
いい笑顔でサムズアップするモズヤンが、次会うときどんな姿をしているのか、あたしには想像することができない。
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