月への階段
Vielen Dank für 綾川知也.
この作品は綾川知也氏の伝承を元に作成いたしました。
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私の先輩がいまして、ドライブ出かけてたらしいんです。
秋ももう遅くなった頃でしたが、その日は昼から暑いくらいで、夜になっても風が涼しく、気持ちの良い夜だったそうです。
夜も更けて、道行く車も少なく、スイスイと進むのも気持ちよく、だんだん気分が高揚してきたそうです。
街は静まり返り、窓の灯は全く見えず、信号待ちで停車すると、静寂がジリジリとにじり寄ってくる様に思えたそうです。
青黒い街並みに
空を見上げると、綺麗な満月が登ってきました。
先輩はその綺麗な月を追うように車を進めました。
車は、東へ、南へと進んで行きました。
気が付くとカーナビが海に近づいていることを告げてくれました。
やがて、車は海沿いの道を走っていました。
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水平線の上に浮かぶ青白い月が美しい。
青い月光に照らされて、海は青黒く輝き、遠くの波はキラキラと光っていた。
満月が照らしているにも拘らず、星々もくっきりと見えた。
透き通った晩秋の空気のせいだろう。
満月と星々見惚れながらゆっくりと走っていると、前方に奇妙な建物が見えてきた。
集合住宅なのか工場なのか判別はできなかったが、大きな建築物になるはずだったようだ。
建築途中で放棄されたような建物で、一階部分は造られていたが、それ以降は建築放棄されたされたらしく、潮風に腐食していた。
しかし、唯一、鉄製の非常用外階段が触手のように伸びていた。
完全な廃墟だ。
先輩はその廃墟での前で車を停め、車を降りて廃墟に近づいた。
青く静かに佇む月に向かって伸びる非常階段に魅了された。階段だけが建築途中の建物を突き抜けて空へ手を伸ばしている様な感じだった。
まさに月へ登る階段のように思えた。
その周りには宝石箱をひっくり返したような輝く星々が魅了していた。満月の強い光が邪魔しているにもかかわらず。
彼はゆっくりと鉄階段を登っていった。
その終着点はすぐに訪れ、それは踊り場のようなスペースだった。
踊り場に身体を横たえると、水平線の上に浮かぶ満月がよく見えた。
空気が澄んでいるせいなのか、星々もキラキラと美しい。
星雲や星団の、赤や緑や青白い光すら見えるようだ。
彼は階段の先端に築けられた踊り場に身を横たえ、輝く満月と星々を眺めた。
月と星の下には広大な海が広がっていた。
美しい、なんて美しいんだ、と彼は感動した。
踊り場に寝っ転がり、頭の後ろに両手を組んで微睡むように星空を見上げていた。流れ星がシュンっと空を切るのを見つめていた。
(星空というのはこんなにも美しいものなのか?)
そう思った時、視界の外で、ガバッと空から降りてくるものがあった。
踊り場に覆いかぶさるように、その影は突然降り落ちるとともに、踊り場の縁に取り付いたようだ。
ソレは何もない海側から振り落ちてきたようだ。
何か黒い影が、踊り場の海側にしがみつき、両肘をついてこちらを見つめていた。
なんだかわからない。
人間のようで人間ではないのは明らかだった。
獣のようにしなやかなその身体。邪悪な金色に光る眼で睨みつけるその双眸。月明かりに輝く鋭い牙と鉤爪。
それをしっかりと見たわけではない。
しっかり見たらいけないと感じたからだ。
彼は直感に従い、目を閉じてその黒い影が踊り場の欄干から手を伸ばす前に、その物の怪から視線を合わせないようにして猛ダッシュで階段を駆け下りて逃げていった。
直感が、そのモノを直視してはいけないと言っていたからだ。
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